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ねこのなかのひと  作者: ままこたれこ
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 光が反射して顔に当たっていたらしい、俺は閉じた目の前を払うように手を振っていたが、眩しさが一向に無くならないのに苛立って目を開けた。

 ほとんど白色に彩られた景色が、一面に広がっていた。


『どこ?』


 目を瞬いたが、景色が変わることはなかった。

 どうやら俯せに寝転がっているみたいだったので、頭を持ち上げてみた。

 

 白色の景色に茶色加わった。


 手を地面についてゆっくりと起き上がろうとした。なんか動きがぎこちないきがした。自分の身体じゃないような感覚だ。上体を起こして、ふらつく頭で前を視ると、大きな黒っぽいものがこちらに突進してくるのが見えた。


 見えたと思った時には、俺は弾き飛ばされて転がっていた。


「きゃっ!!」


 飛ばされる直前に変な悲鳴を発したのが頭の隅に残った。


『痛・・・・ん?痛くない?』


 痛くはないけど身体が動かなくなった。麻痺してるのか?目は見えているが頭が動かないので見える範囲がすくない。身体は横向きになっているようで、左に地面、右に空からの光が降り注いでいる。

 ぶつかって来た何かは、見えない。正面は白い地面と木、目の前に自分の腕が血に塗れて・・・えらく白くて華奢だな。俺の腕じゃないような・・・俺の腕じゃないぞ!


 どうなっているのか解らないが、俺の身体は無いらしい。この華奢な腕といい、悲鳴は女としか思えない。俺って女になっちゃったのか?しかも死にかけてるし。


 自分の身体の内から声が聞こえてくる。一定のリズムで抑揚を抑えたお経?いや呪文のようだ。長いな…この女が唱えているらしいが、終わる気配がない。視界に獣の足が見えた。ハッハッという息づかいと液体が糸を引いて地面を濡らしていた。


 獣は更に近づいて頸筋に牙を立てようとしたが、うまくいかないようだった。漸く呪文の詠唱が終わったようで、指先が光り出した。何か出るんだろうか、光線みたいなものが…火のほうが一般的かな…もし魔法だとしたら。

 

 光線も火も出なかった……水玉が凄い勢いで獣に飛んでいった。至近距離なのでハズれようがない、水玉は獣の眉間に当たり穴を開けた。そして視界は暗転した。


 どうやら女は気を失ったようで、単純に目を閉じたので視界が暗転したようだ。自分で見ようと意識すると視界の範囲だけは見えるようになった。


 俺はどうなってしまったんだろう?死んだようなあやふやな記憶はあるが、なんで死んだのかという、記憶はない。それにしても女のなかに憑依するなんて、俺は幽霊なのか?霊的な現象なのか?いきなり獣に襲われてるなんて焦ったわ!倒したから良いけど、いや俺はなんもしてないけどな。


 魔法なんだよな、なんかすげーわ。呪文長すぎで微妙だけどな。もしかして異世界ってことか?だけど見えるだけでなんもできないじゃん。こういうのってすげー能力とかあったりしないの?誰も答えてくれないので、諦めるしかないようだ。白い部屋とかさ、神様とかさ……。


 そこに倒れている獣の死骸は大きい。比較するものがないから確かではないけど、動物園で見たライオンのオスくらいはある。こんなのよく倒せたな。この女何者なんだ?改めて目の前の女の腕をみる。傷だらけで血まみれだ。が?あれ?!傷が消えていってる。自然治癒なのか?それにしては早過ぎだ、魔法なのか?でも本人意識不明で呪文とか唱えてないしな。んーわからん。


 もう一度獣の死骸に目を戻す、なんか浮いてる。こ、これは、文字?!漢字の『伝』に見える。見つめていたら、吸い込まれるように頭のなかに入ってきた。そして頭のなかには、他にも漢字があった。幾つかの漢字を認識した。もしかすると獣を倒したので、ドロップしたとかゲームみたいなことなんだろうか……女はまだ気を失っているし、じっくり考えてみることにする。


 周りは太い木の幹が、視界を塞いで見通しが悪い。俺の胴体ほどの根が大地をうねうねと覆っている。地面は乾いた白い土で、日光があまり届かないのか下草は少ないが、幹にはびっしりと蔓草が巻きついている。特別異世界感があるわけじゃないけど、獣の死骸はどう見ても普通の動物ではない。目がひとつしかないし、背中にヒレのようなもの(ステゴサウルスの背中みたいなもの)が生えてる。こんな生物は見たことがない。


 俺には身体がない、精神というか魂なのか分からないけど、この女に入りこんで憑依?寄生どっちでも良いけど、思考することしか出来ない。一応見ることもできるのか、もうちょっと良いものみせてほしいわ!女が発した言葉は聞こえている。悲鳴と呪文だけど。他には匂いもないし喋れもしない。存在する意味あるのか?この女が死んだら俺も消滅するんだろうな。どんな女なんだろう?美人だと嬉しいな。なんとも間の抜けた考えだと思った。


 だけど、この漢字が俺を消滅から救ってくれるような気がしている。俺が存在することの意味が、隠されているはずだ。







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