第4話
「なんだベンチ人すわってるわ」
「じゃ、しょーがないスね。噴水とこまで行きます?」
「…そんなんしてたらチャイムまでに帰ってこれねえだろ」
「先輩て、変なとこで真面目スよねぇ。
…じゃ、立ってるしかないすね」
「なんかさ俺が、ぶらぁ…て立ってたらヤンキーみたいじゃね?」
「そうっすね…先輩みたいなデカイのがぶらぁ…て立ってたら、ヤンキーみたいすね。
………先輩。ぶらぁ…て立つって、何すか?」
「とりあえず座らね?」
私はカチコチに固まって彼らの話を聞いていた。というか、彼らが普通に聞こえる音量で喋るので、これは暗にベンチからどけと脅されているのかと思った。。
立ちあがって逃げたほうがいいのか考えてるうちに、先輩はよっこいしょと、芝生のいちばん離れた端に座った。
「ズボンよごれないすか?」とメガネ君がいうと、おめー女みてーな事気にすんのなぁ、いいから座れと先輩が言う。
メガネ君は言いかえさずに隣に座ったようだ。
あ…
やば…
去るタイミング失った。
視界の端で足を投げ出してる先輩…気まずくてとても直視はできないが、なんかやはり様になっているような!
なんせハーフに芝生ですからね!小麦肌に金髪ですから。
気持ち良さそうに目を細めて、青空と太陽を見つめている。目の色素が薄いから、日が眩しいのかもしれない。金髪がキラキラ光っている。……っていうかその後ろの、メガネ君のメガネが日光もろに反射してピカァァーって光ってるののほうが、よっぽど眩しいんですけど!
なにあのメガネ自分で光るメガネ?恒星かよ!どんだけ分厚いレンズはめてんだ。やめて目が燃える!拡大鏡で光当てられてウッディの額から煙がでたのんみたいになっちゃうって!あいつ武器!武器持ってるぞ!
「なーあいつもしかして同クラ?」
…!!あいつって私やん。やめて!!
「え?あの子…?どうすかねぇ」
「なんであいつあんな、かしこまって座ってんの?」
…ウッ恥ず…!緊張しすぎて両膝の上に、両手きちんと乗せてた。みんなで大事な記念写真撮るときに、カメラマンのおじさんに指示されるやつやん。はい両膝閉じてー。両手、お膝のうえねー?はぁい。…はぁいよく出来ましたーもう大丈夫よぁー。っていう、あれやん。
「しかもガン飛ばしてくるしよぉ」
!!
ちがう!!それはメガネのせい!あんたの後輩のせい!!眩しいの!!
「えっ?ガン?嘘でしょ…女の子ですよ」
そーだそーだ、てゆーか元凶はおめーだ!
「いや見ろよ、あっお前あの距離全然見えねえのか。こっち見てこんな顔して…ウワッまぶしっ!!」
先輩が、ガン飛ばしてる私の顔マネをしながらメガネ君のほうを振り返った瞬間、あの凶暴なメガネの光を、もろに目のなかに入れてしまったらしい。
目を庇いながらめっちゃ苦しんでいる。色素が薄いからだ、かわいそうに…。間近だしな…。
「おめー!!おめーのせいだ今分かったわ。はずせ!!メガネ!!」
「先輩…おれ、コレはずしたら、生まれたての子鹿みたいに何も見えないんすよ。知ってるじゃないスか…」
「外せ!!生まれたての子鹿がどんぐらい目ぇ見えてねーか、おれは知らねーよ!
結構見えてんじゃねぇの?たぶん!」
「おれの例えが悪かったすね。言い直します。
おれがこのメガネを外したら、おれは目の見えない、孤独な暗闇のなかで、生まれたての子鹿みたいに、ぷるぷると震えることになるんス」
「………なんなのお前詩人なの?」
「体は羊水にまみれ…柔らかな関節のせいで、幼きヒザは落ちつきをなくし…」
「すんげえ、すんげえ子鹿じゃん。目に浮かぶようだわ」
「それでも、震える四本足は、自らの力で立ち上がろうと、光の世界と、母なるメガネを、追い求めるんす、…」
「なんなの…?」
正直それは私も思った。なんなの…。
「とりあえず今だけメガネはずして。」
「だからこれはバンビにとっての母鹿…」
「しつけー!!!じゃっ、いいよ掛けてて。
レンズ手で覆っとけよ!」
メガネ君は言われた通りにした。"もういいかい"の役をやらされてる子みたいだ。
緑の芝生に、沈黙が流れる。
「先輩…」
「ん」
「おれはいま、お前の目見たらみんな石になって迷惑だから、ずっと目閉じてろって言われた、メデューサみたいな気分です…」
「ふぅん…メデューサそんなこと言われたの?」
「言われてません……」
「…」
空は快晴。
空気はまだ少し冷たく、肌に当たる日差しが暖かな、ほんとうに気持ちのいい日だ。申し分のない春の日だ。風がないので、まるで時間が止まったよう。
ベンチに腰掛ける私と、芝生にすわる同級生の先輩と、もういいかいをするメガネ。
が、日光浴しながら平和に黙り込む不思議空間。
なんどでも言うけど、
なんなの…、、、