第3話 留年先輩登場
留年先輩は、留年によってだけ名を轟かせていたわけじゃない。
先輩、実はめちゃくちゃ男前なのだ。
ぶっちゃけハーフだし。
先輩のことは、以前から全校集会があれば、遠くから見かけていた。
先輩はすごく目立つし。背が高いし、染めたのじゃない本物の金髪だから。そらモテるわ、って話なのだ。
しかしー…。
いやまじでここまでカッコいいと思ってなかった。
顔立ちだけど…バランスがいい。
完全に外人外人してるわけじゃなく、うまい具合に和人の可愛いらしさというか、マイルドさ、幼さが残ってる。
目の色はうすーいグリーンなのだと今日知った。
ほとんど色がついてない、灰色に近い緑色をしていて、まるで白い砂浜に打ち寄せる、南国の波の色のようだ…
髪は、表面には金髪が目立つのだけれど、内側に向かうにつれて、よく見れば細かく束になった黒髪が、金髪にたくさん混じっている。すごくオシャレだ…!
なんか、サーファー?肌も小麦色に灼けてるし、肩にかかるくらいに伸びている髪は、傷んでヨレヨレだ。
首がホント長い!
私は、この留年先輩という人を過小評価していた。理由はたぶん、留年しているからだろう。
…彼は家庭の都合とかご病気とかでなくバカすぎて留年したと聞いていたからだ。
無意識にそこまでカッコよくないんじゃないかと思っていたみたいだ。。ごめん…。
いやしかし。これは神がかり的だ。モデルやん!
先輩が教室に入ってきた瞬間からシィーン……と場が静まりかえっている。
「…?」
先輩はちょっと不機嫌な、( なんやねん…? )と言いたげな目つきで、先輩を見つめている子たちを見つめ返した。先輩と同クラになった事のない子らは私同様、ポカンとして動けなくなっている…すると
「またえらい長かったっすよねー先輩」
と例のメガネちゃんが、全く緊張感なく言って、この神妙な空気を軽々と吹き飛ばしてしまった。
…と共に。
同じく固まっていたらしき例のチア部のコが、突然金縛りのとけた人のように、猛然と先輩にカラミだした。
「…センパ〜〜イ♡♡♡ 先輩とチエ、同クラになったんですよぉ〜〜‼︎‼︎
スゴクないですかぁ〜〜(∩˃o˂∩)♡??」
…それを合図に、にわかに教室に雑談のザワつきが帰ってきた。そしてテニ部の舌打ちも…。
「…?…おう…」先輩は適当に答えながらもアオイくんの席へと直行したが、チア部のチエちゃんさんは俄然追いかけていった。そしてめちゃめちゃ話しかける。
自分スゴイな…いやホンマ…そういうとこやと思うわ…。
先輩は
( えっやけにグイグイくるけどこいつ、だれやったっけ…? )
と思ってるらしく、アオイくんのほうに
( これ、おまえの友達⁇ )
みたいな目線をめっちゃ送ってたが、
アオイくんは全然みておらず、教科書だか参考書だかを机にひらいて読んでいる。
先輩は何とかアオイくんの視界に入ろうとするものの、チア部のチエちゃんさんがグイグイと二人のあいだに入ってくる。
ちょ、それやめたれよ。。物理的な方向でアプローチすなって。。
先輩は、アオイくんまでの障害物=チエちゃんさんをよけようと、色んな方向に首をまわしているが叶わず。
目下、ひとりでcho cho トレインを踊っている人のような感じになっていた。
なんか、先輩、…
男前なのにかわいそうやな、…。
先輩の困り度がMAXを迎え、トキメキを運ぶ列車の速さもMAXになった頃。
ようやく担任が日誌を肩にトントンしながら、すーわーれー!と言って現れた。
◇
担任の先生は、いい感じに生徒任せで、いい感じに校則違反以外のうるさい事は言わないので有名な、体育教師だった。
これは、ぶっちゃけラッキーだった。この先生は、生徒の内面に全然興味がないのだ。
それってすごくいい事だと思う。だってさ、うちの学校は、学校外部の人間に対しては「自由な校風」を謳っておきながら、当の生徒達には、校則やら、メンツのかかった行事やら、催しやら、平気でしょっちゅうやらせるんだから、内面まで縛られたらたまったもんじゃない。
内面までいい子ちゃんを求めるならそれは宗教だ。自由というのは、他人に迷惑がかからない程度に、自分のなかの優先順位なり生き方なりを、守り抜く権利のことじゃないのかな。
ともかく。これで成績さえ維持してれば面倒臭いことになる可能性はほぼ消えた。
先生によっては、自分にすり寄ってくる「カワイイやつ」ばかりを可愛がり、妙な派閥ができて権力をふるいだすとか、そういう居心地の悪いクラスもあったりするのだ。 でも今回は、先生に対するご機嫌取りも、「素直な生徒」の演出もなし。先生向けの、キャッチーな個性の捏造もなし。ヤッホー!あとは、友達だ、、、。
、、、。
ねえ今私が何をしてると思います!?
芝生ながめてるんだ、、
うん。一人だよ?
、、、。
やっぱウチの学校は、金持ち校だけあるね。
中庭には花壇と噴水があるし、1号館〜5号館まで名前がついてる校舎のなかで、2号館にはこれまた小っちゃい花壇。
3号館と4号館の横手には、芝生とささやかなベンチがある。
無駄に敷地が広いんだ。あちこちに木が植わってるし。1号館のまえには煉瓦敷きのとおり道。5号館のうら手はヤブというか、ほとんど小さな裏山だ。
ウチら2年生の教室は4号館。その校舎に、直角に交わるように隣接している、なんかよく分からない、まずまずのサイズの芝生。土地余ってたから芝生にしましたってことなんか?ベンチもあるし、公園みたく気軽に息抜きに来て下さいみたいな?というか、学園外の人にアピールする向けのやつなのかも知れない。だって、どう考えてもこのベンチ二人掛けだものな。生徒用じゃないんか。もてなし用か。そうか。
そこに座ってる。
うん。一人、、、
あのさ…
いま、15分休憩なのだけどね、、なんか、話かけねば!って思ったらさ。これはどうも、仲よさ気のグループしかない中に、ちょっとすみませんコンニチワ!ってモーゼが海を割るように、突然乱入して行くしかないなって、なってしまってさ……。
なんか……窓の外はこんなに心地よい春の陽が射しているというのに…体の中に流れる血はこんなにもポカポカと温かいというのに……何故こんな、モーゼふうの苦難を受けなならんの?と思ったら、なんか、外の空気、吸いたくなってね。
トイレ行くついで、って自分に言い聞かせて、校舎飛び出して。芝生のそば立って、あぁ緑きれいだな〜!ってね。。歌のひとつでも歌いたくなるよね〜!まぁJ○SR○Cが怖いから、ここでは歌いませんけども。実のとこJ○SR○Cって名前書くだけでも、内心、使用料とられるんじゃないかってビクビクなんだ。
とにかく緑とか牧場とか、そんな感じの歌を心の中で口ずさんでいました。ある日パパが人生について、唐突に深イイ話をぼくにし始めた時のこととかね。
って気づいたら、芝生のはしに留年先輩とメガネ君が立ってるじゃん!
◇