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悪魔商人ヘイナ  作者: mod
4/5

■『悪意の代償』

 私は変わった人間になりたかった。

 いや、違う、思春期の今、そう、他人とは違って、私だからできることがあるって、そう思

っているだけなのかもしれない。

 高二の春、クラス変えがあって、ふと新しいクラスの窓から桜を見ていたら、多分、平凡と

は程遠い、違う世界を見ていたのかもしれない。

「なーに自分の世界に浸ってんの」

 中学からの友人が私の肩を軽く叩いて話かけてきた。そう、その瞬間、私はまた平凡な世界

へと戻るのだ。

「うん、桜見てた」

 虚ろな視線を彼女によこして、そんなそっけない返事をした様に思う。彼女は少し苦笑して、

「桜、綺麗だね」と返した。

 この学校で何日過ごしただろう。何日の放課後を向かえ、そして下校しただろうか。大した

実感もないまま歳をとり、そして、やがては輝きを失うのだろうか。

花の人生は短い、けれど、この肉体に限度があるとして、私たちは怠惰という選択を選ばなけ

ればならないのだろうか。

「でもさー、三十路過ぎた独り身って想像したくなくない?」

 夕方、下校時に彼女と喫茶店で談話していた。彼女には交際している相手がいるが、その馴

れ初めを詳しく聞いたことがない。

 私は真面目な話ほど友人にできない。なぜなら、それは思春期という今であっても、あまり

他人が共感できる話題ではないからだ。対人関係についてもそうで、私と彼女には、そうした

世界の差があったのだ。私は内を、彼女は外を、そんな価値観のズレがある意味、平凡な日常

では無価値に思えてくるから不思議だった。

 彼女は笑う。それは善意からくる微笑みだろうか。そもそも善意とは尊いと、誰が定義した

というのだろうか。ほんのすこし小突くだけで崩れてしまう、そんな善意を。たったそれがほ

んの少しずれるだけで、それは正当な悪意として相手を。

「どうしたの?」

 ぼうと、していた私を彼女が心配そうに覗き込む。

 平凡な日常、それ以上に何を望むというのだろうか。何に満たされないというのだろうか。

 私は喫茶店の中だというのに、やけに悲しくなって、涙を流した。

 彼女は少し動揺したが、優しく接してくれた。

 何に満たされないというのだろうか。何に満たされないというのだろうか。帰りの電車の中

でも一人俯いて、微笑む彼女に笑顔も返せないで、ただただ、何かに狂った様にやりきれなか

った。

 近くの駅、そこから少し歩いて私は家路に付いた。17歳、17年という月日を過ごした家

だ。

「こんにちわ」

 家へ入る道の前で、呼び止められた。若い声、女の人の声だった。

 それは私がよく聞く声のトーンで、右隣を見ると、彼女はいた。春の桜のような、ピンク色

の髪の毛を両方で結んで、ゴスロリファッションというのだろうか、色のどぎついフリルのつ

いた洋服を着た女の人がこちらを見ていた。

 彼女の後ろにはドラマや映画で見た執事のような服装をした老人が立っていて、それは異質

な存在感を出していた。

「本日隣に引っ越してきました、宮里レイ といいます、お隣の椎名さんですよね」

 これから家に入ろうとしていたところを見られたのか、初対面だというのに断定的に告げら

れた。

「ええと、はい、隣に住んでいます、椎名です」

 特別に言葉を交わす必要も感じなかったので、社交辞令の挨拶をした。

「ですよね、はい、家族構成は妹さんがお一人で、現在はお父様、お母様、そして貴方の四人

家族で住んでいらっしゃいますよね」

 気味の悪い、というとそうだが、そんな笑顔で宮里、と名乗った女の人はこちらの家族構成

をつらつらと述べてくる。

「はい、そうですけれど」

 何故そんなことを知っているのか。と明らかに警戒した表情を向けていたに違いない。

「はい、調べさせていただきました、日本は暑いですね、これからよろしくお願い致します」

 全く人の話を聞いているのかいないのかわからない態度で、彼女は、宮里さんは私に急に抱

きついてきた。私は突発的に彼女から離れた。

「あ、すみません、はい、握手握手」

 そう言って握手を求めてきた宮里さんに悪気は感じられなかったが、なんだろう、そこに、

小さな違和感のようなものを感じた。

「私も明日から貴方と同じ学校に通います、お会いする機会があれば仲良くしてくださいね」

 私の制服を指差して、そう笑った。無邪気と言えばいいのだろうか、まるで小さな子供のよ

うな表情を作る宮里さんは、異質で、不気味だった。

 家に帰ると、リビングでぐったりとしている妹が一番に目に入り、共働きの両親はやはりい

なかった。

「あ、お姉ちゃんおかえりー」

 そうテレビを見ながら、大よそ男子には見せられない格好でこちらをちらりと見た。

 私は妹に軽い挨拶だけして、手洗いと嗽をすませた。

 制服から洋服に私室で着替えると、すぐに台所に行って夕食を作る。母親が働いているので、

家事は私と妹の分担だった。家事をする私の後ろで、妹が話しかけてくる。

「ねえ、お姉ちゃん、隣に引っ越してきた人見たー?すごいよねあのファッション、なんか髪

の毛とかまっピンクで、コスプレが私服とか、なんだろう、でもお金持ちっぽかったよね」

 妹も話かけられたのだろうか。さきほど合った異質なお隣さんの話をし始めている。

 けれどそんな話は長くは続かない、異質なものも、それは一時の興味に過ぎないからだ。

 私は妹の話に、なんとなくの言葉を返して自室へ入る。

 窓から差し込む夕日に目を向けて、ベットに仰向けに横たわる。

 ため息をつく。怠惰に生きることを許されていることに感謝して、そしてこれが永遠に続け

ばいいと思いながら、目を閉じる。

 一瞬にしてはじけ飛ぶような花火のように、旋律に生きたいわけではない。

 けれど、何かに飢えて生きている。満たされない何かを探している。

 そして、おそらく数時間が経過した後、目を覚ます。

 そこに、いた。目の前に、私に多い被さるように、彼女がいたのだ。

「こんにちわ、いや、おはようって言うのかな?」

 目の前にさきほど会ったばかりのピンクの髪のお隣さんが私の身体にまたがっていたのだ。

 私は急いで彼女を押しのけて、体制を立て直す。

「何してるんですか」

 あまり他人に向けたことのないトーンで、彼女に問いかける。

 彼女はきょとんとした顔をして首を傾げた。

「玄関から入りましたよ?我慢できなくて貴方に会いにきたのですけれど、睡眠中だったみた

いなので、ずっと寝顔を見物していました」

 そう答えた彼女に瞬間的に畳み掛けた。

「犯罪ですよ、無断で勝手に他人の敷居をまたぐのは」

 それを聞くと彼女は笑った。

「犯罪ですかー、玄関が開いていたものですし、妹さんに挨拶もしましたよ?あ、でも確かに、

随分と深く眠られれていらっしゃったようなので、下着の一つも撮れてたかもしれませんね」

 なんの悪びれず、そう言った。

 窓から差し込む夕日の光が、彼女の笑顔をより一層怪しく、恐ろしく感じさせた。

「出て行ってください」

 そう言い放った。

「そう邪険にしないでください、仲良くしてください、私、貴方のような反抗的で、退廃的な

女子が■■■なんです」

 返す言葉がいちいちとおかしい。

 私は無理やり彼女の手を引いて、部屋の外へと連れ出す。そしてそのまま玄関から外へ出し、

玄関を閉めようとした。けれど、玄関の扉を、そう、まるで、軽く支えるような体制で彼女は

止めたけれど、まるで、怪力に止められているように、びくりともしなかった。

「また、よろしくお願いします、椎名さん」

 どす黒く、怪しい、けれど無邪気に、笑顔でそう彼女は言った。

 その後は、簡単に玄関の扉が閉まり、私は息を荒くして、立ち尽くした。冷や汗がべったり

と洋服にへばりついて冷たい。


----------------------------------------------------------------------------


 あの宮里、という異常なお隣との出会いから一ヶ月が経過した。

 同じ学校、と言ってたが、彼女のような変わった学生が転入してきた形跡もなく、その後も

宮里レイは一度も姿を現さなかった。もしかすると、転入してきたのかもしれないが、それを

わざわざ探すほど物好きではなかったし、探すのも怖い気がしたのだ。

 そして、いつもの放課後、私は中学からの友人、佐伯綾香に声をかけられた。

 なんでも、相談したいことがあるから、自宅まできてほしいとのことだった。

 綾香の自宅には何度かおじゃましたことがあったけれど、高校にはいってからはそういえば

一度も行ってなかったので、日ごろ、気を使ってくれる綾香の相談を聞くことにした。

「入って」

 綾香は自宅に着くと、玄関の扉を開けて手を振った。そして私が入ったことを見て、カチャ

リ、と鍵をかける。

「最近、ここいらも物騒なんだよ、近所で事件があったりさ」

 事件、という言葉にどきっとしたが、確かに住宅街にも、いや、住宅街だからこそ危ないこ

ともある。

「紅茶とケーキ取ってくるから、先に部屋行ってて、今日は奮発してお高いお店のケーキだぞ

っと」

 そんな鼻歌まじりで台所に向かう綾香を見てから、久しぶりに、彼女の自室に向かう。

 以前着たことがあったから場所は把握しているけれど、なんだろう、誰もいないのか、やけ

に静かだ。

 私は彼女の自室の扉をあけて、中へ入る。扉を開けた瞬間、まさに女の匂いというか、まあ、

少し強烈な香りがした。綾香の部屋は相変わらず整っていて綺麗だ。室内にある観葉植物や、

女子らしい趣味の家具がそれをより強調している。

 部屋の中心にある、小さなテーブルの前の座布団に座り、なんとなく窓から差し込む夕日を

眺めていた。

 しばらくボーっとしていると、綾香が「おまたせ~」と言って部屋へ入ってきた。その手に

持った紅茶とケーキをテーブルに置いて、「どうぞ、召し上がれ」と言って笑った。

 なんだろう、嫌な違和感を感じた。あの夕日に差し込んだ時の、宮里レイの笑顔のそれと、

ダブった気がしたのだ。

「ねえ、綾香の家ってお母さんはいつもいなかったっけ?」

 綾香は紅茶を飲んで、ゆっくりと答えた。

「うん、そうだよ?覚えてない、由里のところと一緒」

 由里とは、椎名由里、私のことだ。「そうだっけ?」と綾香の入れてくれた紅茶を飲む。

 綾香が笑った気がした。すごく、嫌な笑顔だった。覚えている範囲では、綾香の母親は、以

前はいたと思う。その日がたまたまお休みであったのかもしれないが、大体はお邪魔したとき

には、いた、のだ。

 紅茶を飲んで、ケーキに口をつけようとした時、世界が歪んだ。いや、急激な眠気に誘われ

たというところだろうか。なんの抵抗もできないまま、目の前が真っ暗になって、意識が飛ん

だ。

「おはよう」

 目を覚ますと、綾香がいた。

 そして勢いよく■■をされる。息ができないほどに、それは激しいものだった。

 身動きができない。ベットに腕と足を拘束されていて、動かすと痛い。何をされたのか、そ

んなことすらわからなくなるほどに、動揺した。

 綾香が口を離して、そのすぐ近くで吐息を感じる。

「…綾香、なに、してるの…」

 そう、口にするしかなかった。恐ろしさで、震えた。綾香は薄気味悪く笑って答えた。

「もうダメだって思った時、日ごろのうっぷんを晴らすために、何をすればいいのかなんて、

わかっていたことなのにさ」

 綾香が私の身体をまさぐる。必死で抵抗する私の口を、また綾香の口が塞ぐ。

 綾香は異性の話をしない、いや、思えば、だんだんと、おかしいと思うことはあったのだ。

悪意に似たそれを、私はずっと無視し続けて、その対価を、今払っているのかもしれない。綾

香の異変に気が付いていたのに、ずっと私の、どうでも良い悩みばかりぶつけて、彼女は、こ

んなにも、私という弱い生き物を愛でることを溜め込んでいたのだ。

「すごく良い、すごく良い」

 綾香がそう言って私の洋服を破ろうとしたとき、鈍い音がなった。そのまま綾香は私に被さ

る形で倒れた。何が起こったのかわからなかったが、何故か綾香の部屋に、あの宮里レイが金

属バットをもって立っていた。

 綾香の頭から、血が、流れていた。

「宮里さ、ん?」

 出会った当初からはまるで別人の、黒髪のストレート髪に黒いセーラー服の地味な宮里レイ

がそこにいた。

「あぶなかったですね、貞操」

 笑っていない宮里レイは、まじめな顔でそう言った。

「ちなみに、すでに貴方の■■■写真や、動画が撮影されてしまっているので、それは燃やし

て、データをすべて削除しておきましょう」

 宮里はてきぱきと綾香の部屋を乱暴にかき乱すと、それらと思われる物資を回収して、その

場で焼き捨てた。それは、綾香が今まで私を盗撮したものも含めて、異常な枚数があった。

「今、洋服きてますけど、さっきまで椎名さんは■■■でしたので、そのデータも削除してお

きます」

 あっけにとられていると、ある事実に気が付く。

「…もしかして、見ていたの…」

 宮里は悪びれることなく、はっきりと答える。

「はい、貴方にも、代償を支払ってもらう必要、ありましたので、けれど、それを消すのは私

の慈悲だと思ってください」

 その言い方に私は少し理性を取り戻し、反発する。

「たしかに…、私は綾香の異変に気が付いてた、けれど、その代償を支払うっておかしいじゃ

ない、私の女々しさが、結局綾香をあおってしまったとしても、それで…!」

 そう言い掛けて、はっとして言葉を止めた。無自覚に綾香に甘えてた、無自覚に綾香の本意

を無視していた、いくらなんでも、こうはならないと思っていた。

 宮里が笑う。

「知っていましたか、佐伯さんがとても追い詰められていたこと」

 私は何のことだかわからず、首を横に振る。だって綾香はいつも笑顔で、元気で…。

 宮里レイがそれを見て、まるでそう、人形のように無表情に答える。

「佐伯さんのご両親は、事業のトラブルでお金に困っていたんですよ、家庭内の仲はその関係

では最悪で、佐伯さんはでも、お年頃、入用なお金はご自分で用意されてたようですね、何を

して、かはご想像におまかせしますけれど、短期で高い女のお金となればすぐわかると思いま

すが」

 それは他人事のような話で、信じたくなかった、聞きたくなかった。

「佐伯さんには貴方が支えだった、それは友達としてでも、それでも良かったはず、けれど貴

方は彼女に寄ってかかり続けた、それが最後の引き金、佐伯さんは、狂ってしまった」

「ご両親を、殺してしまうくらいに」

 宮里レイが何を言っているのかわからなかった。綾香の両親を、綾香が殺した?何を言って

いるの。

「事件があったんです、身元不明の死体、むごい殺し方でした、警察はすぐにめぼしをつけて

ました。けれど証拠がみつからない、おかしいですね、素人の犯行なのに、証拠がみつからな

いんです」

 宮里レイがこちらに近づいてくる。そして、おぞましいことを口にした。

「私が、その証拠を握りつぶしました、佐伯さん、すごく感謝してました、そして言ってあげ

たんです、椎名さん、この■で好きなようにできますよって、そして佐伯さん、すぐに大金を

用意して私に渡してきましたよ」

 涙が、あふれてきた。それは怒りと、憎しみと、底知れぬ憎悪だった。

「どうして、貴方がそんなこと、じゃあ、ずっと私と綾香を知ってたってこと!?隣に引っ越

してきたのも…!!」

 宮里が人差し指をこちらの唇に向ける。

「もちろん、だって、最高の座席で見るのが、最高のステージなら、それってつまり、最高っ

てことじゃないですか」

 さきほどまで置いていた金属バットを、宮里レイが拾って、こちらを向いた。

 私は震えて、声もでないほどに、怯えていた。憎悪すら、一掃してしまうほどに、宮里レイ

が恐ろしかった。

「さて、椎名さん、貴方の妹さん、秋菜さんでしたっけ?彼女にも面白いステージを用意して

るんです、きっと楽しんでいただけると思いますよ」

 そう言って、宮里は金属バットを振り上げた。

「ちょ、ちょっと待って!!!」

 急いで私はそれを止めた。

 宮里は金属バットを振り上げて止めて、じっとした目でこちらを見ている。それを振りかざ

されたら、きっと、今倒れている綾香と同じ目に合うことだろう。

 宮里は私を見て口を開いた。

「どうします?ここでまた対価を支払いますか?でも生憎私はお金に不自由していないんです、

だからといって女同士に興味あるわけでもありませんので、まあ貴方が男にいたぶられるのを

楽しんでもいいのですが、それも低俗的で、意外性もありませんし、なにより作り上げるのに

もつまらない」

 がちがちと歯を震わせて、でも、言葉が何も出てこなくて。

「だから、ここで…」

 そう宮里レイが言った瞬間、死んでしまったと思っていた綾香が急におきあがり、ものすご

い形相で宮里レイに襲い掛かった。

「うあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 その叫び声はすさまじくて、ベットにしばりつけられているこちらからは、宮里レイと綾香

が取っ組み合いをしている状態しかわからない。

 しばらくそれが続き、やがて一方が動かなくなった。ゆるりと立ち上がったのは、綾香だっ

た。

「あ…やか…?」

 鼻から血を流して、ヨダレとあざのついた顔をこちらに向けた。

「ごめんね由里…」

 そう言って、洋服を破る時につかっていた小型のナイフを使って、こちらの拘束を解いてく

れた。

 開放された私は、けれどすぐに身構えたが、綾香はゆっくりと後ずさると、そのナイフを自

身の首に向けて。

「駄目!!!!!!」

 そんな言葉を叫んで、綾香を止めようとした瞬間に、血が、真っ赤な血が勢いよく飛んで、

綾香が死んだ。返り血で真っ赤になって、その綾香の無残な状態と匂いに胃液が逆流して、私

は吐いた。

 外は、もう夜になっていた。

 しばらく放心していたけれど、まるで無心になったように転がっている二人、綾香と宮里レ

イを見た。宮里レイが生きているかどうか、それを確認するために呼吸と、脈をみたが、宮里

レイは死んでいた。

 もうなにも、なにも思わなかった。

 ぱちぱちぱち、と妙な拍手がすぐ後ろから聞こえた。そこにいたのは、あの、宮里レイの後

ろに執事のような老人だ。

「生還、ご健闘、見事、今日から貴方がヘイナだ」

 全く、何を言われているのかわからなかった。

「貴方…、あの時、宮里さんと一緒にいた老人の人でしょ」

 老人は深く頷く。

「私はヘイナの代理人です、それを見届けるために、代々生きてきました」

 へたん、と力が抜けて座り込む。あまりにも、この場と、この老人の態度がゆるすぎたのだ。

まるで優雅なティータイムのように、老人の口調は緩やかだった。

「レイは賭けをした、この賭けに生き残れた者がヘイナであると、けれどレイは失敗した、だ

から、貴方がヘイナとなる、レイに変わり、貴方がヘイナとしてやらなければならないことが

ある」

 レイ、とは宮里レイのことだろう。

「ヘイナって、何…?」

 老人は、不気味に、そして優雅に、答えた。


「人間の悪意の代償、そのもの、です」


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 椎名由里と、老人が立ち去ってから、ゆっくりと起き上がる者がいた。

「…ヘイナは私よ」

 宮里レイはその血で濡れた部屋でニタリと笑った。

「瞬間的に仮死状態作るのって、大変なんだから」

 宮里は両手を高々と上げた。


「この代償、次のステージはもっと楽しませてよね、椎名由里、そして、秋菜さん」


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