第0話 悪戯電話?
風谷楓馬は二十歳の誕生日を迎えた。
去年なんとか大学に合格して、一人暮らしを始めた。
慣れない地での生活に最初の一年は無論戸惑ったことも多かったが、今となっては慣れたものだ。
家を離れたときの寂しさなんぞ、忘却の彼方である。
楓馬は誕生日プレゼントとして、遠くの実家で暮らす母から二万円を貰った。
基本小食で家にいることも多く金を使うことがあまりない楓馬にしてみれば、二万は大金である。
楓馬はどうしても買いたいゲームがあったのだ。
先月発売されたテレビゲームである。
発売前から注目を浴びており、ずっと気になっていた。
予約する暇もなく、店に直行しても売り切れ続出。
発売から一か月も経っていれば、さすがに売り切れはないだろう。
楓馬はさっそく店に向かおうと思ったが、あることを思い出した。
このゲームを買ったら、家で弟と一緒にプレイする約束をしていたのだ。
このゲームはシングルプレーももちろんあるが、多人数プレーが特に面白いと聞く。
一先ず弟を家に呼び、二人でプレーしようとい魂胆である。
楓馬はくしゃくしゃになった敷布団に埋もれている携帯電話を手に取った。
そして、自宅に電話を掛ける。
弟は今、中学一年生。
受験期でもないため、割と暇なのだ。
性格は楓馬と似ているといえば似ているし、似ていないといえば似ていない。
楓馬のように家に引きこもったりはせずに、友達と外で遊んだりもしているらしい。
しかし、楓馬にも引けを取らないほどのゲーム好きである。
このゲームのことを聞きつければ、明日にでも飛んでくるだろう。
風谷家は五人家族。
銀行で働く父と、専業主婦の母。
ゲーム好きの弟と、年の離れた姉がいる。
姉はもうすでに社会人で、爪をいじる会社で働いているそうだ。
爪をいじることに抵抗のある楓馬にとっては、理解し難い進路選択だが、そんなことはどうでもいい。
母は優しいが、父は割と厳しい。
大学に受かったのは奇跡だ。
楓馬はほとんど勉強などしたことがなかったが、成績は良い方だった。
授業で寝たりすることがないからだ。
授業内容だけで何とか凌いできて、調子に乗って難関大学を受験したのだ。
まさか受かるとは思っていなかったため、家族全員びっくりだ。
そっと楓馬は携帯を耳に当てる。
着信音が数回鳴るが、一向に家に繋がらない。
最初は、距離が離れているからかと思ったが、こうも繋がらないとなると、原因は別にありそうだ。
もう一度掛けてみようと、楓馬は携帯を耳から離そうとする。
しかし、離れない。
ノリでもくっついているのかというほど頑なに耳にくっついてしまっている。
「えっ!なんで?」
楓馬は一人はしゃぐ。
すると、携帯から聞こえる着信音が突如消え、不思議な声が聞こえてきた。
『連結完了。召喚を開始いたします』
女性の声だった。
楓馬は、お前は誰だと問いかけるが、こちらの声が向こうに届いていないのか、それともただ無視をしているのか…楓馬の問いには一切答えない。
悪戯電話にしてはたちが悪い。
そしてやがて、楓馬の意識はふっと途切れた。