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こんなはずじゃなかった

 あたし達だけではどうにもできない。

 あたしは「病院へ行こう」って言ったけど、月乃に「行っても無駄」って言われた。

 あたしは「警察へ行こう」って言ったけど、月乃に「行って何になるの?」って言われた。

 あたしが「学校の先生は?」って訊いたら、月乃に「助けてくれるわけないよ!」って怒鳴られた。

 月乃の態度は、何だか警察や学校に恨みでもあるみたいだった。

 たぶんあれは本当は、全部の大人への不信感。

 最後にあたしは「おじいちゃんが勤めてた研究所は?」って思いついた。

 そしたら月乃は「一番ダメ!! モルモットにされる!!」って叫んで、それからフッと冷静になった。

「もう少し待っていれば薬が効いてくるかもしれないよ。それに別に透明人間のままでもいいじゃない」

 月乃の様子があたしには真剣さが足りなく思えてイライラした。

 きっと月乃にはあたしの方が、家出への真剣さが足りなく映っていたんだろうな。

 ケンカになって、家に閉じこもっているからイライラが溜まるんだってなって、透明人間なんだから子供が夜中に出歩いたって関係ないしで、あたしと月乃は二人で連れ立って外に出た。

 家に居た時は一生元に戻れないような気がしていたのに、外に出ると突然元に戻るんじゃないかみたいな気がしてきて……

 公園をうろつく怪しげな人や、通りにたむろする恐そうな人を横目に見ながら、もっと人気のない方へ……もっと人気のない方へ……

 気がつけば、神社の鳥居の前に居た。

 神頼みをしたら、月乃に笑われた。

 夜の神社はとても不気味で、急に人恋しくなって、あたし達はコンビニに入った。

 あたしが雑誌のコーナーに行こうとしたら、月乃が別の方向へ引っ張った。

 あたしはちょっと驚いた。

 いつもあたしが月乃を引っ張ってばかりだったから。

 月乃の方からあたしを引っ張ったのは、たぶんこれが初めてだった。

 向かった先は、化粧品の棚だった。

 月乃が何をひらめいたのか、すぐにあたしもピンときた。

 ファンデーションにアイブロウに、夏だから置いてる安物のサングラス。

 マニキュアも忘れずに確保。

 ヘアカラーも盗んできたけど、帰り道で月乃が急に臭いが嫌だって言い出して、駅の前を通った時、ちょうど改札からおじさんが二人出てきたので、二人のカツラをサッと取って走って逃げた。

 おじいちゃんの家に戻って、寝る時間はとっくに過ぎていたのでそのまんま寝て、次の朝。

 あたし達はキャッキャ言いながら、お互いの肌にファンデーションを塗り合った。

 あたしのパフが触れたところから月乃の肌が表れて、この時の方が、透明になる薬を塗っている時より楽しかったかな。

 化粧はキレイに塗れたと思う。

 眉毛もキレイに描けたと思う。

 グラサンかけてウィッグかぶって、久しぶりに服を着て。

 洗面所の鏡を見た時は、イケてるように思えてた。

 実際は全然だった。

 厚化粧にサングラス姿の小学生が二人、夏休みの浮かれた街中に繰り出せば、道行く人の反応は、ジロジロ見るかクスクス笑うか。

 恥ずかしくって耐えられなくて、あたし達はすぐにおじいちゃんの家に逃げ帰った。

 あたしは洗面所で泣きながら化粧を落とした。

 ウィッグは、家に入る前に投げ捨てた。

 月乃はあたしの後ろに立って、洗面台が空くのを待ってた。

 ファンデーションで描き上げられた表情は……

 表情は……

 覚えていない。

 ただ、あたしみたいに泣いてはいなかった。

 この日はドロボウなんかしないで普通に買い物するつもりだったのに、何も買っていないのにお財布を落としてしまった。

 午前中はずっと落ち込んで、いろんなものを恨んで過ごして。

 午後からは開き直って、透明人間として町で暴れた。

 最初の日みたいに楽しくはなかった。

 前の夜に神頼みをした際に“これって天罰なのかも”みたいな考えが頭をよぎってしまったから。

 それも月乃には笑われたけど。

 そんなわけで、前は良い悪いとか考えないでただ楽しいだけだったのが、自分は悪いことをしてるんだって意識するようになったから、それはそれでの楽しさもあったけど、楽しむほどにイライラが募って……

 自分が嫌いになりそうなのをごまかすために、余計に夢中に暴れ回った。

 暴れながら、月乃とは途中で手を放した。

 月乃は月乃で暴れてた。

 そんな日々が何日も続いた。

 気がつけばあたし達はお互いに、相手に無関心になっていっていた。

 たぶんそれは、相手の姿が見えないせいだったのだと思う。

 パパへの連絡も、ずっとほったらかしていた。

 あたし達の留守中に、おじいちゃんの家に誰か来たみたいだった。

 パパかママか警察の人か。

 あたしは、どうでもいいやって思っただけだった。


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