逢いたかった
動画がサイトにアップされたのは数日前のことだったけど、あたし、遠藤美秀がこれの存在を知ったのは、ついさっきだった。
ネットカフェのパソコンの画面には、日野原月乃が正面を向いて映っている。
あたしは月乃のことをどれだけ知っているのだろう。
少なくとも素顔は見ている。
そう。あたし達は顔と顔を突き合わせて話した。
あたし達は親友になれたと思った。
今はもう、わからない。
あたしと同じ小学5年生というのは嘘ではないと思う。
公式プロフィールでもそうなっていた。
あたしは月乃が芸能人だなんて知らなかった。
彼女のファンが当たり前に知っていることを、あたしは何も知らなかった。
この動画を観た人のうちの何人が、これが本物の月乃だって信じただろう。
行方不明になっている子役タレントの動画。
注目はされているらしい。
この動画を探している最中に画面の隅に表示されたニュースサイトのタイトルに、声紋鑑定の結果が載ってた。
けれどそういうのを見てない人なら、ニセモノのイタズラだって考えるのが普通。
動画を観ただけでこの月乃が本物だってすんなり信じるような人でも、月乃が本物の透明人間になったなんて信じた人はそうそう居ないと思う。
月乃は、透明になってしまった肌、もう元には戻らないかもしれない肌に分厚くファンデーションを塗り、髪も染め直していた。
だけど瞳は、ぽっかりと空洞。
ファンデーションは鎖骨の下辺りまで塗られ、その下の、衣服で隠すべき場所は、透明なままでさらしている。
……服ぐらい着ればいいのに。
何だかわざとらしい。
『美秀ちゃん、聞いてる?』
語りかける口の中も空洞だ。
けれどこんなのはCGでどうにでもなる。
彼女が本物の透明人間だって知っているのは、あたしと月乃と、これのカメラを回している人と、他にどれくらい居るのだろう。
マウスを置いて、あたしは自分の手を見た。
あたしも透明人間だ。
そしてあたしも全裸だけれど、あたしのはネットカフェに忍び込むのに必要だからこうしてるだけだ。
『美秀ちゃん、わたしのこと、怒ってるよね?』
ええ、もちろん。
『でもわたし、美秀ちゃんを助けたいの』
そう? あたしは月乃をとっちめたいって思ってる。
『だって美秀ちゃんは、わたしを助けてくれたから。こんなことになっちゃったけど、わたしは、美秀ちゃんに助けられたって思ってるもん』
あたしも、月乃に助けられたと思ってた。
こんなことになる前は。
あたしは目を閉じた。
こんなこと……
いつから狂い始めたんだろう……
『いつから狂い始めたんだろうね』
心を読まれた気がして、あたしはハッと目を開けた。
でもそんなわけはない。
これは録画だ。
『わたし、美秀ちゃんと仲良くなれて、本当に嬉しかったんだよ』
仲良く……
そう言うには秘密が多すぎた。