可愛い、可愛くない。
時田陽菜には残念ながら友達がいない。
自分でいうのも恐縮ながら、異性からの支持率はハンパない。
理由はこの見た目にあるように思う。
色白で華奢で小柄な体型の割には出るべき部分はしっかり出た体。
大きな瞳に長い睫毛。くっきり二重のたれ目。
極めつけは、このアニメ声ときたものだ。
昔から、困っていると男子がいつも助けてくれた。
女子からはブリッコだと言われ、なかなか友達作りが上手く行かなかった。
だから、いつからか私は男子に対して優しくなどしなくなった。
そしたら今度は、気取っていると言われるようになった。
“友達が欲しい”
その気持ちが逆に私を苦しめていった。
高校二年生の今、私は相変わらず冷めた態度で1人、高校生活を送っている。
「…で、あるからして〜」
大嫌いな数学の授業。
私は少し前の自分を思い出していた。
「…きた!…時田!」
自分が指名されていたことも気付かずに上の空でいたことを知り、慌てて返事をした。
「ちゃんと聞いてたか?この問題前に出て解いてみろ」
偉そうに…。
そう思いながら、私は黒板に向かう。
「何だ?わからないのか?授業聞いてないからだろ」
うるさいな。
そう思いながらも、私の持っている知恵を出来る限り出し切って考えてみる。
「わからないならもういいぞ」
しばらく考え、答えを導き出す。
「あっ!」
私は小さな独り言を呟き、答えを黒板に書く。
「お。時田、正解」
先生からの正解につい顔も綻んでしまう。
単純に嬉しくて、私は気付かれないように上機嫌で自分の席に戻った。
すると、ちょうどタイミングよくチャイムが鳴った。
授業も終わりお昼の時間。
もちろん私は一緒にお弁当を食べる友達もいない。
けれど、教室で1人で食べる勇気も私にはなかった。
私はいつものようにお弁当を持って家庭科室に向かった。
「陽菜ちゃん、お弁当一緒に食べる?」
男子からのお誘い。
こういうことを言われるから私は嫌われるんだと思っている。
「うるさい」
だから私はいつものように蹴散らす。
誰もいない家庭科室。
この空間は一番寂しいけれど一番落ち着く場所だった。
いつものようにお母さんの作ってくれたお弁当を食べていると廊下からバタバタと大きな音を立てながら走ってくるのが聞こえた。
また来た…。
この足音の正体を私は知っている。
「清水…!」
ガラリとドアを開けたのと同時に私は名前を呼んだ。
「時田、今日も卵焼き入ってる?」
そう聞かれ、返事もしないうちに、清水は私のお弁当を物色し、卵焼きを見つけるとすぐに自分の口に頬張った。
「やっぱ時田の母ちゃんの卵焼きうめぇー!!」
「ちょっ!勝手に食べないでよ!」
「ごちそうさん。またな」
清水はクラスメイト。いつも卵焼きをたべに嵐の如く現れては去っていく。
だけど、これがまた救いだったりもする。
清水は男子の中でも、私に対して変な目で見ていないし、普通の友達として接してくれる。
私の唯一の友達だ。
お弁当も食べ終わり、私は教室に戻ろうとしていた。
ちょうど教室に入ろうとした瞬間、クラスの女子数名が固まって話をしているのが聞こえてきた。
「時田さん、不倫してるって聞いたよ」
不倫!?
自分でも驚いてしまう。
「あー。してそうな顔してるよね」
どんな顔だよと思いながらも、男嫌いなせいで誰とも付き合ったこともなく、期待に添えずに悪かったですね。と心の声は言っていた。
「さっきも男子にお昼誘われてたけど、何様のつもりなんだろう?自分が女王様だと思ってるんじゃない?」
女王様!?
なれるものならなってみたいもんだ。
こんな悪口はなれていた。
けれど、今教室に入ったら嫌みっぽく思われるのも嫌で入るのをためらっていた。
はやく悪口終わらないかな…。
そう思っていると、聞きたくない話まで入ってきてしまった。
「てか、時田さんいると気を使うし疲れるよね」
気を使う?疲れる?
「クラスの雰囲気悪くなるから本当迷惑だよね」
迷惑…?
今まで沢山の悪口を聞いてきたが、これは結構レベルが高い。
私は自然と涙が零れた。
教室に入れない私は下を向き、ユーターンして歩いていると誰かにぶつかった。
上履きには汚い字で清水と書いてある。
私はつい顔を上げた。
「…時田…気にするなよ?」
清水も聞いていたのだろうか?
その一言は更に私を落ち込ませる。
「うるさいっ!」
私はそう言って清水を押しのけた。
けれど、清水はすぐさま私の腕を掴んで走った。
「痛い、清水!離してよ!」
清水は何も言わずに、家庭科室に連れて行った。
ハァハァと息切れをしている私たち。
清水は腕を掴んだままで、私は痛くて仕方がなかった。
「清水、痛いよ」
「あ、ごめん!」
ようやく清水は私の声に耳を傾けてくれた。
傷ついたけれど、また清水に救われてしまった。
「時田、気にすんなよ」
「は!?何が?」
私はわかっているのに気付きたくなくて知らないふりをした。
「だから…友達いないことだよ!」
そ…そっち!?
悪口言われたことじゃなくて!?
と、内心思ったが、痛いところを付かれてしまった。
それは、自分が一番認めたくなかったところ。
平気なふりして、だけど全然平気じゃなくて苦しかった部分。
悔しくて、涙が出てくる。
「何よ…」
突然泣き出した私に動揺する清水。
「おい、泣くなよ」
「あー!もう最悪…」
清水はただ黙って私を見ていた。
私もしばらくして落ち着いてきて、清水の顔を見た。
すると清水はボーっと私を見ている。
「清水?」
「時田ってさ…」
清水の声のトーンが低くなる。
私はじっと清水を見ていた。
「時田って本当可愛い…」
か、可愛い…!?
その一言に私は後ずさりをしてしまった。
清水は唯一の友達だと思っていたのに。
「や…やめてよ!何言ってんの!?」
清水だけはそんなこと言ってほしくなかった。
「何だよ!可愛いって思ってること言ったらだめなのかよ!?」
「し、清水はだめだよ!」
清水は絶対にダメなんだから。
「何で?ずっと思ってたよ。時田のこと…」
きっと可愛いって言われたら普通は嬉しいはず。
だけど私はどうしてこんなに嬉しくないのだろう。
だって、それは…。
「…私は…可愛くないもん…」
本当可愛くないんだ。
友達出来ないことに変な理由をつけて、自分から歩み寄る努力をしない。
いつからか口も態度も悪くなって、わざと自分で自分を見失っている。
そんな私は本当に可愛くない。
「数学の問題を正解して地味に喜んでいる姿とか、自分の非と向き合おうとしてるところとか、可愛いって思うけど…」
サラッと打ち明けてくれた清水。普通に嬉しく思える。
「てか、清水、そんなことよく恥ずかしくもなく言えるね」
「本当のことだからな」
そう言って大きな口を開けて笑うから、私まで一緒に笑ってしまう。
すると、清水は少しずつ私に近付いてきて、突然私を抱きしめた。
「ちょっと!清水!離してよ!!」
「いやだ。離さない」
力強くて、突然すぎて、私は追いつかない。
「清水!」
「…やだ」
「離さないと警察呼ぶよ!」
私の子供じみた発言に、清水の肩は一瞬ピクリと動き、パッと手を離した。
「…俺を通報する気か?」
「あたりまえでしょ」
そんなことを話していると、授業を知らせるチャイムが鳴った。
「やばい。遅刻じゃん!清水、急ごう?」
「時田って本当に真面目だよなぁ」
清水はそう言ってプッと笑った。
「じゃあ行くぞ」
清水はそう言いながら私の手を握った。
「ちょっ!やだ!」
私はとっさに清水の手をパチンと叩いてしまった。
「痛ぇなぁ…」
そう小さく呟きながら寂しそうな清水の姿を見ていたら、何だか少しだけ清水が可愛く見えてしまった。
きっと授業はもう始まっている。間に合わない。
だから…。
「…手…教室入るまでだからね」
私は清水に手を差し伸べた。
清水は嬉しそうに私の手をぐっと掴んだ。
「へへ…」
「…?…清水、笑い方キモいから」
教室入るまで、優しくて、暖かい清水の手のぬくもりを感じて私まで心がポカポカしてしまう。
悔しいけれど、清水はやっぱり私の救世主なんだ。
御礼なんて、そういうつもりじゃないけれど、明日からお母さんにお願いして、お弁当の卵焼きを増やしてもらおうと思った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
同性から嫌われるには妬みもありますよね…
女子は怖い生き物です(笑)




