私と色と少女
夜に目をつぶり、まどろみの中で目を覚ますとそこは、暗色の極彩色だった。
どこを見渡してもあるのは色のみ、色と色の間には境目がなく形らしい形もない、止まっているように見えて微かに動いており色の付いた泥をいくつもぶちまけたようだ、ずっとこの風景を眺めていると私も混ざって消えてしまいそう。
背筋にふわりとした寒気が走り手の平を見つめる、シワが刻まれたやや赤みがかった肌色がはっきりと目の前にあったひとまず安心する、自分の存在感を再確認するためにそのまま視線を下げ爪先を見つめるとくるぶしから下がぐずぐずになって風景に溶けていた、暗色の中に肌色と白と赤が広がり少しずつ回りと一体化していく。
という妄想を気紛れにしてみるが、そんなことは起こらず目線の先にはいつもと変わらない足首があるしかし不思議な感じだ、地に足が着いている感覚がない、浮遊感もまったくない、おまけに距離感も掴めない、ないない尽くしだ。
ここは一体なんだろうと頭を傾げていると風景の一部に変化が起きる、混ざりあった泥が徐々に人らしき姿を型どっていく、大きさからして子供だろうか、いや遠近感が狂っているからもしかするとどこかの進み撃つ巨人並みかもしない、食べられたら先の妄想のようになるのだろうか。
そう思うと今度は強烈に寒気が走る、そのまま駆け出したいのだが足が凍ったように動かない、上半身を曲げて太ももを揉んで叩くも腰から下が氷の中に埋まったように動かない、どこの魔王だ、人を三人くわえられるほど私の口は大きくない、しかし串団子なら三つどころか四つはくわえる事ができるやったぞ魔王を越えたぞ。
途中から下らない事で頭の中を埋めて目をつぶり夢らしきものから逃避して目を背けていると、やや舌足らずな可愛らしい声が聞こえる、いやいや、気のせいだ、ここには私だけしかいないはず。
「おい、無視しゅんなぁ!」
安い覚悟を決めて何奴とぎこちなく片目を開き変化があった所を見ると、そこには屈強な巨人はおらず代わりに小柄で白いワンピースを着た髪と眼が綺麗な灰色で肌の白い凄く可憐なチャイルドと目が合いました、いや待つんだ、もしかしたらあの子は物凄い巨人で遠くいるから小柄に見えるだけかもしない。そしていくら見た目が幼く可愛いくても、本当にあの子は少女なのだろうか、いわゆる合法ロリなるものかもしれないし、男の子という可能性だってーーーー
予想外に予想外が重なると、大体の人は混乱する、自分の頭もその例に漏れず動揺し絶えず思ったことを呟く、この混乱を引き起こしたのは目の前にいるか遠くにいるか分からないあの子が原因だが、混乱を静めたのもまたあの子だった。
「おい……コルァ」
静め方は簡単
「だーれーがァァァーー!」
ヒントは痛み
「男じゃぁぁああーーー!」
素早い助走、華麗な跳躍、迫る膝、顔面に強烈な痛みそして仰向けに倒れた私の胸元に座り追撃を開始、小さく妙に鋭い拳が的確に眉間を連打する。
「巨人でもにゃいわーーー!」
この折檻はしばらく続いた、途中で何かに目覚めそうになったのは気のせいだと思いたい。
かわゆい少女の登場、それによって私の精神は安定した代わりに肉体の痛みが激しい特に頬が痛い絶対に青くなっているだろう鏡がないから分からないが。
「あー、くそ……何だよお前勝手に入ってきて……さっさと帰りな」
やや軽い蔑み光線が自分に向かって発射される、可愛い顔してこんな表情も作れるのか、お母様最近の少女は怖いですしかし、可愛いは正義という果物マシュマロの言葉を胸に息子は耐えます。
「おい、聞いてんのか?帰りぇ……帰れよ」
私だってこんな殺人鬼がいそうな所に長居したくないと、声を大にして伝えると脇腹を殴られた、鈍い痛みが脇腹に残る、目覚めるものか。
「だったら何でここにいるんだボケ」
しーらないしらない、と小耳にはさんだ電子音楽風に答えたら同じ場所に貫手が食い込む、鈍い痛みに鋭い痛みが重なって新感覚。
「はぁ……またか、そんじゃ、元の場所に戻してやりゅ……やるから」
どうやら戻れるようだ、よかったよかった、でもここはどこなんだろう少女に訪ねてみる。
「しゃぁてどこだろうな…………そこから動くなよ、あと変な事したら消すぞ」
いかにも面倒臭いといった表情を隠さずに警告と待てを命じて空中で胡座をかき瞑想の形を取る幼女、見えそうで見えない。何がと聞かれても禁止事項ですと言いようがない、まぁそんな事よりも先ほどから話していると少女は所々噛む、その時の恥ずかしがりながら威圧する顔が非常に愛くるしい、そのことを口に出したら少女はどのような反応をするのか気になる膝蹴り、拳打、貫手と来たから次は掌底か肘鉄だろうか出来るなら突きではなく関節や締めを仕掛けてくれれば自然に頬擦りができる機会が増えるのだが、しかし見えないーーーー。
両手で顔を覆い苦悩する振りをしながら指の隙間からスカートの中の神秘を探求していると、不意に少女は舌打ちをするばれてしまったか、目がひらきっぱなしになり顔に力が入って抜けなくなり体が緊張し上半身が固まって背中に嫌な汗が浮かぶ、恐る恐る顔を覗いて見ると形の良い眉を歪めて眉間にしわを作り薄い桃色の口をへの字に曲げた表情、あぁなんということでしょう、以前は石の様に固くなっていた半身が今ではスライムの様に柔らかくなり顔を覆う両手がだらりと外れる程に、覆っていた両手が外れてあらわになった顔は緩んで口からよだれが流れております。
白い瞼がゆっくり開かれ侮蔑混じりの灰色の瞳が私を写すと少女の顔が更に険しくなった。
「……おい、その顔やめろ」
いいね。いいね。最ッ高だねェ 怖い目も可愛いよぉ、…………これはちょっとキモい我ながら少しやり過ぎた、あの子の顔も軽蔑を通り越して無表情になっている、挽回の機会はあるかなあったらいいな……
「 死ねよ、汚物が」
その余地はなさそうだ本当に目が怖くなってきたよ足が震えてきた、だけど歩を進める事ができない。
組まれている白く細い指が解かれ人指し指が私の足元を差す、 くるぶしのから下がぐずぐずになって風景に溶けていく、暗色の中に肌色と白と赤が広がり少しずつ回りと一体化していく。
これが先ほどと同じように妄想だったら良いのに、と何度も思うがその間にも足は溶けて脛の半ばまで消えていた、回りに広がっていく自身を見て激しい動悸に襲われいくら拭っても涙がとめどなく溢れる。
私は目を見開き口からよだれを流して有らん限りの声で最初の事から普段の些細な事、己の存在まで思いつくだけの自分の悪事を懺悔する、もう胸から下が消えた。
死にたくない、まだやってない事があるんだ、まだやり残した事があるんだ、まだ生きたいんだ、あと少し、あと少しだけ生きる事を許して下さい、お願いします、お願いします。
体がなくなった、生きたいゆるしておねがいしますおねがいおねがい…………………
「ばーか」
最後に見たのはくすくすと悪戯っ子のように笑って私に強いデコピンをして。
「……演技だよ」
儚げに微笑んでみせる少女の姿だった。
夜に目をつぶり、痛みの中で目を覚ますとそこは、自分の部屋だった。
どうやらベットから床に顔から落ちたみたいだ、頬が痛いしなぜか脇腹も痛い。
しかしまぁ奇妙な夢を見た、鮮明に思い出せるのもまた奇妙だ、あの少女め、人を騙しやがって最後なんだあれ、可愛い過ぎるぞちくしょう……でも夢なんだよなぁ現実にいるわけない、あんなに可愛い子が。
夢を思い出しながら朝食を食べ終える頬が痛いせいで口を開けるのがおっくうだベットから落ちただけでこんなに痛むだろうかまぁいい、さて歯磨こうか。
頬をさすりながら洗面台の鏡の前に立つと、現在の自分の顔が見える、華がない顔に今日はちょっとした色が添えられていた。
額の中央に赤、頬に青、その色は現実に確かに残っている。
私はそれらを見ると、口元が思わず緩んでしまい、時間を忘れて鏡の前でニヤニヤし続けたのであった。