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魔物の声  作者: 明深 昊
第一部
2/3

魔物と絆を交わす少年

 大きな赤レンガの建物と、その背後に広がる小さくない森。



 塀に囲まれた場所と森全体がこの学校の敷地らしい。



 少し離れたところには寮である二つの塔があって、そこに大勢の人たちが集まっていた。



 その全員が俺と同じ新入生。荷物を管理人さんに預けて、同時に寮の部屋番号とクラスが伝えられるらしい。



 部屋番号は三○二でクラスはB組……。



 確か寮は十階建てでエレベーターはなかったはずだから、三階は幸運な方か。



 そう考えながら、校舎に向かう。五分程度でたどり着いたクラスに入ると、ある人物と目があった。



 思わず息を吸って止めてしまう。なにも言葉を交わすことなく目をそらし、黒板に書かれた“席自由”の文字を見つけた。



「席自由って……そう言われると……」



「全くその通りだよな」



 思わぬ返事が返ってきて、びくっとしてしまう。



「あっ、すまん、驚かせたな。俺、レオ・カナレルド。よろしくー」



「ダン・シルガ……です。よろしく」



 村の人たち以外でナチュラルに話しかけられることが久しぶり過ぎて、レオと名乗った男の子を見る。



 焦げ茶色の髪を邪魔にならない程度の長さに伸ばした長身の人。つり目気味の目が俺の目をじっと見据えていて、少し怖い。



「ダンか。黒髪ってことは闇属性?」



「あ……闇は使えないんだ。属性が見た目に出てないだけで……」



 闇が使えないのも見た目に属性が出てないのは嘘ではないし、その言葉に隠された意味はレオが知る必要のないこと。



「へぇ。俺と一緒か。俺は雷が得意なんだ。ダンは?」



「風と水……かな」



 真っ先に出てきた属性も、一番使うという意味で嘘ではない。



 でも、本当のことを知れば、きっと今気さくに話してくれてるレオだって……。



「あ! ダン君! 同じクラス? よかった。学校でもよろしくね。あれ……? もう友達できたの?」



「ユラ……よかった……」



 赤いくせっ毛の小柄な女の子を目にして、ほっと一息。



「なにがよかったなの?」



「ユラがいなかったらクラスでうまくやっていける気がしない……」



 そう言うと、ユラはクスクス笑った。



「大丈夫だよ。こうやって同じクラスになれたから。それに、話せてるじゃん」



「ダン、この子だれ? 彼女?」



「えっ!? 違うよ! 私はユラ・キリニ。ダン君の幼なじみだよ。得意属性は火で、ダン君の彼女では…………君は?」



 顔を真っ赤にしてユラが否定して、レオに聞き返した。レオが自己紹介すると、ユラはにこっと笑った。



「レオ君、よろしくね。せっかくだし固まって座ろうよ」



 前と後ろ二つずつ空いてた所に俺とユラが前、レオが後ろに座って話していると、レオの隣にカバンが置かれた。



「ここ、大丈夫かい? あと二つ空いてるんだけど、周りが男子ばっかりでね」



「ん、空いてるぜ」



 レオが返事すると、水色の髪をポニーテールにした女の子が明るい笑顔を見せた。



「あたしはリオ・カイン。よろしくね。得意なのは見たとおり水だよ」



 俺たちが順番に挨拶すると、アズサは頷いた。



「ユラに、ダンに、レオだね。覚えた。よかったら仲良くしてくれるとうれしいよ」



 仲良くできるかな。今までそういうのは……あまりできなかったから。不安が伝わったのか、ユラがちょんちょんと膝をたたいてきて、そちらを見る。



「大丈夫だよ。何かあっても私がいるからね」



 小声で言われて、頷いた。



「うん……」



 もう、ユラに守られるのは、嫌だな……。



『ダン君は私が守ってあげるから』



 その言葉に甘えるのは訓練所にいたときまでにしたい。



 学校からは自分で、できることを少しずつ。



「おい、落ちこぼれ」



 最初目が合った奴に話しかけられて、ため息をつく。



「なんだよ……」



「レオ、いいよ」



「トラン君、学校でもダン君をいじめるつもり? なにかしたら許さないよ」



「ユラは黙ってろよ。そこの二人、教えてやるよ。そこの奴、魔法使えないから」



 金髪を肩まで伸ばした男子……トランを睨みつけると、トランは鼻で笑った。



「どうせあんな奴らがいないと……」



「トラン君!」



 ユラがトランの言葉を遮って、トランがびくっと口を閉じた。



「ダン君を悪く言うのはやめて。昔は……」



「黙れ。勝手に言ってろ。俺はお前らが嫌いだ」



 トランがそう言い残して元いた場所に戻っていった。



「はぁ……ダン君、気にしちゃだめだよ」



「ごめんね、ユラ……」



「いつも言ってるじゃん。謝らないでよ。私はダン君を守ることを苦に感じてないから」



 レオたちが不思議そうな、それでいて不安そうな顔をしていて、苦笑いした。



「本当に使えないのか?」



「まあ……絶対使えない訳ではないけど……今は使えないよ」



「使えるときと使えないときがある……? どういうことだい?」



 リオに聞かれて困ってユラを見ると、寂しそうに微笑んだ。



「そっか、流石にすぐは話しにくいよね……」



「いや、別に秘密にしたいことなら無理に聞いたりはしないけどよ……」



「……ありがとう」



 自分のハンデを知っても、嫌がられなかった。



 それが不思議で、逆に不安で、でも嬉しくて。



 なぜだかわからないけど、二人とは友達になれそうな気がした。



 十分くらいして、扉が開いて女の人が入ってきた。



 オレンジ色の髪を横結びした、清楚で真面目そうな人。



「おはようございます。担任のエイナ・シーフォンです。担当は歴史。属性は雷。よろしくね」



 控えめに笑ったエイナ先生に拍手が送られ、先生は少し驚いた顔をした。



「この後入学式があって、終わったらここに戻って自己紹介して終わりにしましょう。じゃあ、移動しましょうか」



 無難に入学式が終わって、席順に自己紹介が始まった。



 もう自己紹介は済んでるから、二人のは改めてという程度に聞いて、他の人たちの顔と名前を覚えようと思ったけど、十人目くらいから全員を一回で覚えることを断念して、できるだけ覚えようという消極的なものになった。



 最後の方でトランの番になって、前に出てきた。



「トラン・カフラだ。得意なのは地と闇。よろしく」



 素っ気なく無表情で挨拶して、スタスタと元の席に戻ったトランにため息をつくと、ユラがとんとんと足を叩いてきて、そのお陰ですーっと気持ちが落ち着く。



 全員終わると、先生は微笑んで俺たちを見渡した。



「今日はこれで終わりになります。明日はこのクラスは身体測定をします。明後日は……一年生一番乗りで使い魔捜しですね」



 その言葉にみんなざわめいた。



「使い魔捜しをするのか……どうして?」



「でもダン君、凄く嬉しいんでしょ?」



 そう言われて、にこっと笑う。



「うん。楽しみ」



 みんなはあまり乗り気じゃ無いみたいだけど……。



「そんなに魔物を使い魔にしたいのか?」



 レオに聞かれて、微笑んだ。



「まあ……ね」



 男女別の寮に着くまでもその話で、ユラたちと別れた後は話が違うものになっていた 。



 部屋に入って、リビングに荷物が置いてあるのを見る。



「荷物片付けるか……」



 あらかた片付けて、リビングの中心に立った。テーブルは端に置いてある。



「フラン、おいで」



 つむじ風が起こり、止んだ時には真っ白な毛並みに、額に黒い三日月模様のある大きな狼が現れていた。



 フラン……ムーンウルフ。魔物の中でも最上位の強さを誇る魔物で、フランは俺の使い魔だ。



 俺は、ずっと小さい時から魔物と会話ができた。普通なら、使い魔にならないと話すことは出来ないはず何だけど……。



 この能力の他にも、簡単に使い魔にすることが出来るし、使い魔がそばにいればーーその使い魔の属性の魔法が使えるようになる。



 使い魔の強さによって俺の属性の強さも決まる。フランなら、風、水属性のほとんどの魔法が魔力がある限り使える。



 そうしてフランは俺が六歳の時に出会い、使い魔と言う名の“友達”となった。



「ダン、どうだ? 学校は楽しいか?」



 甘えてきたフランをなでながら、ソファーに座った。



「友達ができたよ」



「うむ、その顔からしていいことと悪いことがあるのはわかっている。悪い知らせはなんなのだ?」



「トランと一緒だった。バラされるのだけは勘弁だな……」



「あいつなど、私が口出せぬようにしてやれるのに」



 そう言って鼻を鳴らした。



「そんなことしたら、トランが大人に言いつけて、フランが殺されるよ。適当にあしらえば大丈夫だろ」



「しかし、何かあったらすぐ言うのだぞ。あいつは訓練所の時からいろいろやっていたからな」



 その言葉に頷いた。



「あ、明後日使い魔捜しやるってさ」



 そう言うと、フランは首を傾げた。魔物がよく思われていないこの状態で、そのようなことをするのは不思議なのだろう。



「使い魔捜し? そんなことをやるのか……しかし、ダン一人だと不安だ。魔物と話したり大人しくさせる力があるから大丈夫だろうが……魔法が使えない。どんなトラブルに巻き込まれるかわからないからな。人の前ではその能力も使えないし……」



「なら、フランが俺に近寄った人を追い払ってくれ。音を立てて吠えるくらいでいいからさ」



「それはもう少し小さいボルガなどに頼んだらどうだ?」



「使い魔にしようとするかも知れないだろ。それを考えるとフランなんだ。いざとなったら……」



 最後まで言い切る前に、フランは頷いた。



「確かに……わかったぞ。それなら魔法も使えるしな」



 フランはそう言ってのびをした。



「ここは狭いな。もう少し広ければよいのに」



「一人部屋だからな。まあ、それを考えると広いけど、魔物を出すなんて俺くらいだろ」



「まあな。それより昼飯だ! ステーキがいい!」



「わかった。じゃあ買ってくるから一度帰っててくれ」



 またすぐに呼ぶのだぞ、と言って帰って行った。

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