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「急用?」
「そう。さっき親戚の人から連絡があって、家の事で話があるから大至急来るようにって。ほら、今両親が旅行で不在中だし、私がいかなきゃならないんだよね」
「突然の事なんだし、仕方ないよ。せっかく、莉奈の退院祝いも兼ねてぱーっとやろうかなと思ってたんだけどね」
「大袈裟だって。今もぴんぴんしてるんだから。でも、ありがとう。絶対埋め合わせするから」
嘘を並べる度、どうしようもなく罪悪感が込み上げてきた。しかし、そんな感情とは裏腹に、私の口は雄弁に語る。これで良かったのだろうか。理佳子は全く嫌な顔一つ見せず、急用なら仕方ないよと同情してくれる。余計に胸が苦しい。しかし、次の瞬間で私の思考がぴたりと止まる事になった。
「――――ひょっとして、誰か家にいるの?」
「えっ・・・・・・なんで」
衝撃が走った。きっと困惑が顔にも出ていたのだろう、理佳子はさらに追求してきた。
「話し声が聞こえたから」
「多分、電話の声だよ。あはは」
ぎこちない笑いしかできなかった。かあっと蒸気が体中を駆け上ってくるのが分かる。理佳子は相槌を打ちながら、どこか納得のいかない表情を浮かべていたが、気のせいかな、と頬を緩ませた。
「じゃあまた明日ね。ドタキャンした分、次は莉奈のおごりだよー」
「うん、分かった・・・・・・また、明日」
理佳子の後ろ姿が街角に消えていくのを確認し、私は深く息をついた。凄く焦った。もし理佳子がセナの存在に気付いていたら大変な事になっていた。理佳子との約束を破棄した嘘が暴かれるだけでなく、セナが宇宙人だと知られたかもしれない。もしそうなれば、私はどうなるのだろうか。今まで何とも思っていなかったけど、途轍もない危険人物を匿っているのではないか。
「行っちゃったね」
開いている玄関の扉からセナがひょっこり顔を出して、私の方を見つめている。当の本人は無関係だと言わんばかりに堂々としていた。
「やっぱり、外に出かけるのは止めにしない? 危ないよ」
私は家の中に入り、玄関の扉を後ろ手で閉め、小声で話した。
「えー? 別に大丈夫だよ。私、どっからどう見ても宇宙人っぽくないと思うんだよね。宇宙船直しに外出ても、全く気付かれなかったよ」
「でも、万が一、セナの事が知られたらヤバい事になるんだって」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
セナはふくれっ面になり、つまらなそうに呟いた。
「・・・・・・せっかく、莉奈に見せたい場所もあったのになぁ」
「見せたい場所?」
言いたい事がよく分からない。異世界からやってきた宇宙人のお気に召したスポットでも見つけたのだろうか。もし近場なら、地元の土地勘の強い私の方が知り尽くしている。
「来て」
私の腕を、セナが強引に掴み外へ出た。私は口を挟む暇もなく、彼女に身を委ねるしかなかった。それに、この瞬間を壊したくなかった。