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朝起きると、セナの姿はなかった。居間のテーブルの上にはメモ書きが残されていて、宇宙船修復してきます。セナより、とだけ書かれてあった。
トーストを一切れ焼いて、苺のマーガリンを塗りたくってさくさく食べながら、テレビのニュースを眺める。○○県で殺人事件が、昨日のプロ野球は、今朝の天気は全国的に晴れ間が広がり、さぁ今日の獅子座のあなたは――――。鉄仮面を被っているかのように、キャスターは皆同じような顔付きで淡々と話している。今日も大して変わらない一日だ。宇宙人発見、だなんて胸の躍るようなトップニュースはどのチャンネルでも放送していない。
こうして一人で朝食を取っていると、昨日の出来事一切が幻だったように思えてくる。セナという人間・・・・・・宇宙人など存在したのだろうか。
ふと時計を見ると、既に八時を回っていた。
「やっばい。遅れる」
私は残りのトーストを一口で頬張り、珈琲牛乳で流し込んだ。目にも止まらぬ速さで着替えを済ませ、支度を調える。夏休みだから学校はないけど、部活は平常運転なのだ。おまけに朝早くから練習を組み入れているから大変だ。
「いってきまーす」
誰もいない家に挨拶を告げ、私は足早に出かけた。
「じゃあ、ここで一旦休憩。また十分後に集合」
ウェアを羽織った顧問の先生が告げ、円を囲んでいた部員達が思い思いに散らばっていく。夏の体育館は常に熱気が籠もっていて、下手すれば外のグラウンドよりも暑いのではないかと思ってしまう。皆髪を濡らし、まどろっこしそうにタオルで汗を拭き取っていた。
私はスポーツドリンクを片手に、通路口へ出た。コンクリートの段差に腰掛け、水分を補給しながら汗を拭う。すぐ後ろの体育館からは、バトミントン部の隣で練習しているバレー部の掛け声と、靴と床の擦れ合う音が絶えず反響していた。
「お疲れ、莉奈」
一人、私の隣に腰掛けてきた。安西理佳子。同じバトミントン部で、小学校からの同級生。所謂、幼馴染みというやつだ。前髪を横に分けているので、額に汗が流れているのがはっきりと見える。凜々しい眉や、切れ長の瞳もおかげで映えているように見えた。
「お疲れ・・・・・・あー暑い」
「だね。どうにかならないかねぇ。体育館の中クーラー効かせてくんないかな? あーアイス食べたい」
そうだ、と理佳子が思い出したように手を打った。
「今日部活終わったらさ、駅前にできたケーキ屋さん行かない? 夏限定でアイスの生地を練ったケーキが出回ってるらしくて、冷たくて美味しいらしいよ」
「今日かー」
「何? 何か用事あるの?」
「いや、特にはないんだけどね・・・・・・」
今、家に宇宙人が居候しててさぁなんて言い出したら、さすがの理佳子もドン引きだろう。しかし、私が居なければセナはお昼に何を食べるのだろうか。第一、家の鍵も私が持っている。
「途中、家に寄っていっても良い?」
「うん。いいけど、なんで?」
「まぁちょっとね」
帰りに素麺でも買って持っていってやろう。