表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居候  作者: 椋原紺
17/26

17

 山の中腹まで来ると、あの神社に差し掛かる。セナは鳥居を潜って境内へと進んで行った。私も続こうと思ったのだが、一面に敷き詰められた砂利が厄介で、躊躇われた。鳥居に身を隠しながら、セナを見張ることにした。

 この辺に宇宙船を隠しているのだろうか。そう思えばやけに緊張してきて、喉が鳴った。








 雨の降り注ぐ神社はとても神秘的に見えた。竹林や森林、社殿の屋根に雨が打ちつけ、水しぶきが舞う。それらが薄い靄になって境内を覆っていた。ここなら宇宙船どころか、神様が舞い降りてきても何ら不思議ではない、実に神聖な場所だ。

 私は額から流れる雨粒を拭いながら、目を凝らした。セナは社の前に立ち、じっとしている。

 しかし、五分ほど経ってもまだ動かない。傘に隠れているせいで、セナが何をやっているのか見えなかった。見えるのはデニムのショートに、色白の太腿と、水色の皮製ミュール。

「・・・・・・何やってるんだろ」

 思わず独り言を呟いてしまった。ここからじゃ傘が邪魔でセナの様子が窺えない。私は近づいてみる事にした。砂利を踏んでしまうとばれるだろうし、神社の端に生えていた木々の道を行くことにした。

 しかし、私はすぐに後悔した。木々の後ろはちょっとした崖になっていて、底が果てしなく深く、口を開けて獲物を待っているように見えた。おまけにこの豪雨のせいでぬかるんで滑りやすい地面だ。足を取られたら生きては帰れないな、と警戒を払って進んだ。

 途中、地面に落ちていた枝を二三本ほど踏んでぱきっと折ってしまった。気付かれたろうかと焦ったのだけど、セナは相変わらず田畑に備え付けられたかかしの如く、静かに佇んだままだった。ほっと胸をなで下ろし、先を急いだ。





 ようやく拝殿の近くまでやって来た。だんだんとセナの横顔が見えてくる。セナは手を合わせ、器用に傘を肩にかけ、深々と項垂れているようだった。

 参拝、お祈り事をしているように見えた。だけど、待って。宇宙人であるセナが地球の、それも日本の伝統的作法を知っているはずがない。それとも、これも予知能力の賜物なのだろうか。初っぱなから日本語が話せたのも、人知を遥かに超越した能力で、全てを理解していたからなのかもしれない。

 しかし、いずれにせよ、宇宙船を直しているようには思えない。第一、宇宙船など、どこにもなかった。

「・・・・・・します・・・・・・きお・・・・・・」

 雨音にかき消されてはいるが、セナの声が途切れ途切れ聞こえてきた。唇を頻りに動かし、呪文でも唱えているようだ。私は目を閉じ、耳を澄ませた。

 すると、豪雨の雑音の中に、セナの声が鮮明に浮かび上がった。







「――――お願いします、どうか莉奈の――――」








 今、なんて・・・・・・?

 私は暫く雨に打たれながら、何も考えられなかった。セナの呟いていた言葉の意味を探ろうにも、上手く頭が回らない。

 困惑している私に、さらに追い打ちを掛けるようにして不運な出来事が起こった。セナが私を見つけてしまったのだ。セナは信じられないといった顔をして唇を戦慄かせた。

「・・・・・・え、なんで」

 黄色の傘が力なく地面に転がった。セナが一歩、二歩と近づいてくる。

「来ないで」

 私がそう言うと、セナはぴたりと足を止めた。私も、セナも、雨に打たれて髪を濡らしながら、言葉を失っていた。セナは怯えているのか、怖い顔をしたまま硬直し、体を震わせていた。

 隙を見計らい、私は境内の砂利の上を走り出した。待って、とセナの声が飛んできたけれど、振り向く余裕などなかった。

 私は、とんだ勘違いをしていたのかもしれない。もし、私の考えが当たっていたら・・・・・・。

 だとしたら、時間が足りない。今すぐに家へ帰らなきゃダメだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ