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居候  作者: 椋原紺
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 結局、その後も部活には集中できなかった。痺れを切らした顧問の先生から、具合が悪そうなら帰りなさい、と半ば呆れた調子で言われ、その通りに帰った。帰れと言われてはいそうですかと帰るのはしゃくに障ったが、今日は気が乗らないし、一日くらいゆっくり休んで英気を養っても良いだろうとしぶしぶ従った。









 制服に着替え直し、駐輪場へ向かう頃には雨が本降りになっていた。傘も合羽も持ってきてない。困った、これじゃ家に帰れない。

 足止めを食らい、降り注ぐ雨粒を恨めしそうに眺めていた時だった。一台の自転車が、すうと目の前を通り過ぎようとしていた。いつもなら何気なく見過ごしてしまう光景だったけど、どこか引っかかる所があって、自然と目で追っていた。

 黄色い傘を差しながら、自転車を漕ぐ姿。その横顔。一瞬で誰なのか、理解できた。

 セナだ。間違いない。

 どこへ行くのだろう。そう考えている内にもどこかへ消えてしまいそうなので、私は急いで自転車に跨がり、大雨の中を繰り出した。

 雨の勢いは留まることを知らない。一瞬にして制服がびしょ濡れになって、籠に収まっている鞄からは水滴が滴っていた。けれど、私は止まること無く先を目指した。セナを少しでも知りたい欲求が、雨に濡れて妙に気分が高揚しているのにも相まって、ペダルを漕ぐ原動力となっていた。









 十分ほど追走した後、前を行くセナが止まった。私も気付かれないよう、距離を取りながら様子を窺う。場所は昨日セナと登った山の麓だった。今日は油蝉時雨の代わりに、降り止まない雨音が歓迎してくれていた。

 セナは傘を差したまま、駐輪場の傍にあった山道へと消えていった。私も見失わないよう、自転車を停めて後に続く。

 ぬらりと湿っている石階段は油断すると滑りそうだった。前にいるセナから目を離さずに慎重に登っていく。足音が豪雨にかき消されているせいか、セナには全く気付かれなかった。一定の距離を保ちながら、私達は"どこか"を目指して歩いていた

 きっと、この先に宇宙船があるのだろうと、私は確信めいた気分でいた。セナは恐らく、宇宙船を直しに来たんだ。きっとそうに決まってる。

 時折、声を掛けて脅かしてやりたいという悪戯心が芽生えた。宇宙船を直しに来たのなら、きっとびっくりするだろう。しかし、セナに言われた機密事項、というのが頭を横切って、実際にはできなかった。

 でも、セナの事を知りたい。それは間違いなかった。だから、私は黙ったまま一歩一歩、階段を踏みしめて登っていた。


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