11
会計を払う前、セナに先に出てるよう伝えた。セナが扉を開けて出て行くのを確認してから、私は席を立ってカウンターに赴く。レジを打ちに来たのはさっきの店員さんだ。この時間帯は混雑しないのだろうか、他に白髭を生やしたマスターらしきおじさんが一人、店の奥で佇んでいるだけだった。
上手く間合いを見計らって、「あの、とても変な事だと思うんですけど」と切り出した。
「私、この店に来た事があるんですか?」
店員は手を止め、ぽかんとした顔付きで言った。
「米田さん・・・・・・ですよね?」
私の名前だ。どうして、この人・・・・・・。
「そ、そうですけど」
「なら、いつも贔屓にしてらしてるじゃないですか。最近お顔を拝見しないもので、心配していました」と、またあの上品そうな笑顔を見せる。
「それは・・・・・・どうもすいませんでした」
一瞬にして背中が凍り付いた。軽く頭を下げ、私は逃げるように店を出た。
「どうしたの、そんな青い顔して」
外で待っていたセナが尋ねてきた。そうだ。そういえば、セナも初対面なのに私の名前を言い当てた。
「――――宇宙人ってさ、セナ以外にいるの」
「はぁ? どうしたの。頭でも打った」
「そうかもしれない。ううん、そうであってほしい」
「変な莉奈」
セナはくるりと一転し、先を歩いていく。しかし、私は一歩も動けずにいた。目眩がしそうだ。誰か、この苦しみを分かち合える人間がいればいいのに。こんな時に限って両親は旅行に出かけている。さっき連絡があって、二人旅を満喫しているようだった。
メールで相談を持ちかけてもいいのだが、心配性の両親のことだ。きっと、旅行を中断してでも帰ってくるだろう。迷惑をかけたくない。明後日には帰ってくるんだから。それまでの辛抱だ。
そう自分に言い聞かせ、セナの後を追った。




