表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居候  作者: 椋原紺
1/26

 ぽっかり口を開いた、という表現があるが、今の私を一言で表すには実に相応しい表現だと思う。漫画みたいなお話だが、本当の話だ。私はそれほどまでに驚いた。おったまげた。

「・・・・・・・・・・・・」

 目が合った。先ほどまでずるずると小気味よく素麺を啜っていた娘が、ぴたっと口に素麺をくわえながら箸を止めていた。肩で切り揃えられたセミショートの黒髪、丸くてつぶらな愛嬌のある目と、子犬みたいな鼻。半袖のTシャツにショートパンツといった出で立ち。年は十五、十六といった所だろうが、外見や仕草からは年齢以上の幼さを感じる。何か、母性本能を擽られるような可愛さを兼ね備えているのだ。

 しかし、手放しで褒めている訳にはいかない。重大な問題が生じていた。

「だ、誰・・・・・・?」

 私は恐る恐る尋ねた。まるで、お化け屋敷の中を歩くみたいな、そんな雰囲気である。勝手に人の家に上がり込んで、呑気に素麺啜ってやがる見知らぬ娘は一体誰なんだ。しかもそれ、私の素麺なのに!

 娘は急きも騒ぎもせず、残りの素麺を平らげて麦茶を流し込んだ後、静かに口を開いた。

「聞いて驚かないでね――――私は、宇宙人」

「うちゅ・・・・・・え?」

「宇宙人。聞こえなかった?」

 こいつ、正気じゃねぇ!






 私が反応できずにいるのを見かねたように、宇宙人を名乗る娘はぺちゃくちゃと語り始めた。

「実に不運な出来事に見舞われてね。私の乗っていた宇宙船が飛行中にトラブルを起こして、仕方なくこの星に降りついたんだ。生憎、食料も残っていなかったから、適当な家を探し出して拝借しようと思ったのだけれど・・・・・・実に不運だ」

 そこまで言い終えると、娘は席を立ち、パンツのポケットから銀色の銃を取りだした。

「この銃は私の星で生産されている特注品でね。撃つと、あんたの体は忽ち灰になって散る」

 呆れた。不法侵入、物色、その次は口封じのために脅し。急に興ざめてきて、「そろそろ冗談はよしないと、警察に通報するよ」と冷たく言った。

「あ、さては信じてないな?」

「私はねぇ、自分の目で見たモノじゃないと信じないタチなの。宇宙人なんて生まれて十七年間一度も見たことないし、これからもないの」

「――――米田、莉奈」

「えっ」

 私は思わず息を飲んだ。自称宇宙人の娘は不適な笑みを浮かべた。

「あんたの名前。ははーん。何でも見える、見える」

「・・・・・・表札か、どっかに書いてあるの見たんでしょ」

 心臓が激しく鼓動しているのが嫌でも分かった。ひょっとして、知り合いなのかも。宇宙人なんて、いるわけ・・・・・・ないんだし。

「年齢は十七歳。生年月日は六月十五日、血液型はA型。高校は西山第一高校に通っていて、成績はそこそこといったとこかな。え、あんたバトミントン部に入ってんだ。えーっと・・・・・・スリーサイズは上から」

「ストップ!」

 私は手を広げ、言葉を制した。「もういい、もう十分だから」

「じゃあ、信じてくれるの?」

 私はこくりと小さく頷いた。認めたくないが、初対面の人間に自分の個人情報を意図も容易く語られたのは初めてだった。実際に見てしまったのだから、信じるしかない・・・・・・認めたくはないが。

 憎たらしい笑顔を振りまきながら、宇宙人の娘は「じゃあ、これからもよろしくね」と握手を求めてきた。

「宇宙船が直るまでここに居候する事に決めたから」

「や、ちょ、ちょっと待った。私の拒否権は」

 その瞬間、宇宙人の女が銃を構えて、私は反射的に息を飲んでしまった。

「逆らうなら・・・・・・」

「わ、分かった。どうにかする」

「そっ、物わかりのある人で良かった。私はセナ、改めてよろしくね莉奈」

 けろっとした顔でセナは言った。その切り替えの速さに、私は恐怖を抱かずにはいられなかった。とんでもない奴が来た。これからどうなるのか、正直考えたくない。



 こうして、私の一生忘れられない奇妙な夏休みが幕を開けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ