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高く捧ぐ

作者: 上月恵凛

少し肌寒くなった頃、彼に浮気された。

世の中には、浮気も不倫も当たり前かのような風潮があるけれど、それは私にとって衝撃であり、赦し難く、酷い嫉妬心の塊が心の中を支配していた。相手の女は誰なのか。どこで知り合い、いつから関係があるのか。彼の携帯を盗み見た訳ではない。女と一緒にいる所を目撃してしまったのだ。問い詰めたら付き合っていると言う。なぜ?どうして?

メール

「別れたい?」

「いいえ」

「じゃあなんで浮気なんてするの?」

「美月がクリスチャンだからこれは仕方がない問題。美月はキリストに浮気してるし」

「どういうこと?私は、付き合い始めた時、朔也が言ってくれた言葉が嬉しかった。私のこと大切にするねって。キリストに浮気って、次元が違う話じゃない。すごく傷付くよ」

「そっか、ごめんね。浮気相手は遊びだよ。彼女には美月のこともちゃんと話してあるし」


この約半年後、彼は事故で亡くなった。

私には今でも解らない。彼がメールで言っていた言葉の意味が。仕方がない問題?遊び?キリストに浮気?

クリスチャンである私は今まで、やはりノンクリスチャン男性と付き合う中で様々なすれ違いをしてきたが、ここまで不可解な事はなかった。

元々鬱病だった私は症状が悪化した。思考能力がなくなり、ぼんやりとしか考えられなかった。あまりの怠さに起き上がることが出来なくなり、お風呂にさえたまにしか入れなかった。もちろん仕事は休職、そして辞めることになり、生活保護と障害年金で暮らしていた。残された思考能力の中で考える事は「死にたい」ということだった。自殺願望も鬱病の一つの症状ではあるとしても、私はクリスチャンなのに、ということが頭から離れなかった。なぜなら人間は神の被造物であり、造られた以上、意味あって存在しているはずだからだ。朔也のことも毎日頭に浮かんできた。

本当に苦しかった。おそらく神に祈っていた。ただ、助けて下さいと。


この2年後、入院や自宅療養を経て、少し元気を取り戻した。入院中、引退された牧師先生がお見舞いに来てくれたのを覚えている。

もう70歳を過ぎているであろう、その先生は私にこんな話をしてくれた。

「歯が虫歯になったら歯医者に行くでしょう。風邪をひいたらお医者さんに行くでしょう。オリンピックの選手達はコーチにつき、音楽家は先生に師事する。皆、専門家の所に行くのだね。あなたは今精神が疲れて精神科にいる訳だけれども、魂もそうだと思いませんか」

確かに、魂の専門家は神だ、と私は思った。

私は朔也のことを尋ねてみた。

「それは辛い経験をなさいましたね。彼がキリストに嫉妬心を抱いたというのは、彼がキリストを人間のレベルまで引き下げていたということですよね。彼は生きているうちには信仰を持てなかったかもしれないけれど、死後、神の存在を選択するチャンスがあったと思いますよ」

死後もそのチャンスがあったという話に驚いた。でも、良かったと思っている。

朔也のことを胸にしまい、魂の専門家に委ねて、前を向いて歩いていくことが、今の私の願いである。

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