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転校生


「………ふぁああ」


結斗は盛大にアクビをしながら教室へと入る。


「おはようさん」

「おお、おはよう」


すぐさま結斗に声をかけたのは、月城大翔つきしろやまと。結斗とは中学時代からの仲である。


「何だか眠そうにしてるな?おい」

「昨日はちょっと寝付きが悪くてな」

「おいおい、何だ?愛ちゃんとお楽しみか?ウグッ……」

「とりあえず殴ってもいいか?」

「………もう殴ってるじゃ、ねぇか……」

「それはアレだ。お約束ってやつだ」


結斗はさわやかな笑顔を浮かべて言い放つ。


「そうだな。お約束なら仕方ないよな、ってなるかぁ!」


すぐさま復活して、大翔は華麗にノリ突っ込む。


「おぉぉ〜」


周囲からは小さく歓声が沸き上がった。


「いや、おぉぉ〜って何だよ」


大翔はここは冷静に突っ込む。


「まぁまぁ、いいじゃねぇか」

「いや、元はと言えば結斗のフリからだからな?分かって言ってるんだよな?て言うか、お楽しみじゃなかったら何だってんだ?」

「……俺はお前の脳内が心配でならないんだが」


結斗は真剣マジな顔を作って(・・・)大翔に向かう。


「おい、冗談だからな?本気で言ってるわけじゃないからな?」


それを見て、大翔もさすがに慌てて言い訳する。


「本当かぁ?ま、いいけど。昨日は色々考え事が多かっただけだよ」

「へぇ、大変なんだな」


さっきとはうって変わって真面目に受ける大翔。


「え?まぁ、気になることがあってな……」


昨日の「あの一件」が気になってしまい全然眠れなかったのだ。しかし、不思議と昨日出会ったはずの少女の姿を思い出すことが出来なくなっていた。まるで、結斗が思い出せなくなるように外見の記憶だけに靄をかけられたような、そんなもどかしさを感じ、昨日の夜、必死になって思い出そうとしたが結局思い出すことは出来なかった。


「考え事もいいけど、寝不足には気を付けろよ?愛ちゃんを心配させることになるんだからな?」

「分かってるよ……」


大翔の結斗と愛耶をカップル扱いするような言葉に正直、結斗はうんざりしていた。


「おっはよー」


と、そこに愛耶が登校してきた。


「なんか愛ちゃんゴキゲンだね」

「うん、まぁね〜」


ルンルン気分といった様子の愛耶はそれだけ言って、女子の輪に入っていった。


「あれ、愛耶その髪留め、どうしたの?すごいかわいい!」

「そう?昨日ゆっくんが買ってくれたんだ〜」


愛耶はデレッとした顔で自慢する。


「へぇ、神崎くんが。意外とセンスいいじゃない」

「当たり前だよ、ゆっくんなんだから」


といったやりとりを少しの間、結斗と大翔は見ていた。


「あ、そういや知ってるか?」


すると、大翔が唐突に話題を変えてきた。


「いや、知らない」


正直、そこまで大翔の話に興味も湧きそうもなく、結斗は割りと適当に話を受け流そうとする。


「……もうちょっと興味持ってくれても良くね?まぁ、いいけどさ。で、何かっていうと、今日転校生が来るらしい」

「……は?」


しかし、結斗は予想だにしていなかった言葉に思わず興味を示してしまっていた。


「いや、だから転校生」

「それは聞こえてたから大丈夫だ。でも、何でこんな時期に……?」


結斗には、5月のこんな中途半端な時期に転校して来ることが意外過ぎた。


「そんなこと俺に訊かれてもな」

「そりゃ、そうだ」

「まぁ、本人に訊いてみればいいさ」

「そうするとするか。……あっ!そう言えば俺、先生に呼ばれてたんだった。悪い教員室行って来る」


結斗は用事を思い出して慌てて教員室へと向かおうとする。


「もしかして、その噂の転校生関係の連絡かもな」


大翔は冗談めかしてそんなことを言う。


「さすがにそれはないだろ。じゃ、行って来る」


結斗もそれを笑い飛ばして教室を出た。結斗は廊下を駆け抜けて教員室へと急ぐ。そして、教員室の前で急ブレーキをかけ、息を整えてから教員室の中に入っていった。


「失礼しまーす。えーと、守野先生は………いたいた」


結斗は自分を呼び出した先生を見つけ、そちらに向かう。先生の名前は守野香織もりのかおり。30代そこそこの割りと綺麗な女性の先生であり、結斗のクラスの担任でもある。生徒からの人気も高いのだが、しゃべり方が少し男くさい。そのせいで結婚できないのだろうと結斗は考えていたりする。絶対に口には出さないけれど。さすがの結斗も絶対に踏んではいけない地雷というのは分かっているのだ。

と、結斗が香織の元に向かうとそこであることに気付いた。


「あれは…………」


香織は一人の少女と一緒にいた。それは別に問題ではない。学校で、しかも教員室に生徒がいても何らおかしいことではないのだから。ただ、そこにいた少女は見覚えがない。けれど、そのはずなのに、つい最近会ったばかりのように思えた。


「お、神崎来たか」


香織は結斗に気付き声をかけた。


「はい。おはようございます、守野先生。で、用件は何ですか?」


結斗は早速本題に入る。


「そうせかせかするもんじゃないぞ」

「はぁ、すいません。でも、そんなに時間もないですし。……それで、そちらの彼女が噂の転校生ですか?」


結斗は、銀髪に赤眼のどう見ても外人もしくはハーフの少女を見て、この少女が転校生なのだろうと考えた。


「何だ、噂になっているのか?」

「あ、いや月城が言ってただけですけど。まぁ、今ごろはあいつがクラス中に広めてるでしょうね」

「そうか。まぁ問題はない。そんで、こちらは」

「九条アリスよ。よろしく、結斗さん」


九条アリスと名乗った少女は結斗に意味ありげな視線を送る。


「ああ、よろしく。(……あれ、俺の下の名前って話に出たっけ?まぁ、先生が話してたのか)」


結斗は少し気になることはあったものの、それはあえてスルーすることにして、話を進めることにした。


「ところで先生、どうして俺をみんなより先に九条さんに会わせたんです?」

「え?だってお前ら許嫁なんだろ?」

「ええ、そうですね………って許嫁!?え?ど、どういうことですか!?」


香織の爆弾発言に動揺を隠せない結斗。


「嘘だよ、冗談だよ。神崎お前面白いな。さすがに、嘘だと思わないのか?」


香織はというと、そんな結斗を見て笑い転げていたりする。


「いや、俺は人を疑わない主義なんで。でも、その冗談はさすがにないでしょう。失礼ですよ?ま、先生に言っても仕方ないからいいですけど。で、どうしてですか?」

「ああ、それな。実は神崎に用があるのは九条のことじゃないんだ。だが、お前が来たときに九条が丁度、いたからな。紹介しただけだ。けどあれだ、神崎、お前が九条の面倒看てやれよ。転校してきたばかりで右も左も分からないはずだからな」

「何で俺なんですか?」

「そりゃ、面白そうだからに決まっているだろ。特にお前と水本の修羅場が見れそうなところとかが」


ニヒヒと下衆い笑いを浮かべ、ちっとも笑えない冗談を平気でかます香織に結斗は本気で引いていた。


「それに、生徒会長さん、なんだからやってくれるよな?」


さらには、生徒会長というところを少しばかり強調バカにした上で、プレッシャーまでかけてくる始末。


「分かりましたよ。でも、九条さんは女子に面倒看てもらう方がいいんじゃないですか?男の俺なんかより」

「九条、どうだ?」

「いえ、別に私は構わないわ。生徒会長さんが直々に世話をしてくれるというならこれ以上ないというくらいに心強いもの。改めてよろしくお願いするわ」

「……分かりましたよ。引き受けます。九条さんもよろしく」


アリスも別段嫌がるようでもなく、むしろそれを喜んで受け入れている様子で、結斗には断ることは出来なかった。


「アリス、でいいわよ」


そして、アリスは唐突にそんなことを言う。


「え?」


結斗は唐突過ぎて何のことか分からずバカみたいに聞き返してしまった。


「だから、九条さん、ではなくアリス、でいいわ。私も結斗さんと呼ぶから」


結斗は出会ってすぐで、下の名前を呼び捨てするというのには少し抵抗があったが、アリスの目に有無を言わせない意思の強さを感じた。


「……分かった、アリス。これでいいか?」

「ええ」


アリスは満足そうに返事する。と、そのときキーンコーンカーンコーンとチャイムがなった。


「じゃあ、神崎、本来の用件はまた後でだ。とりあえず、このままホームルームに行くぞ。それと、九条の面倒をみるのは何も学校の中だけじゃないからな」


香織は、教室に向かい歩きながら、最後の最後にさらなる仕事を結斗に課す。


「ああ、はい……え?」


さすがに、学校外まで、というのには驚きを隠せなかった結斗。


「え?じゃないだろ。九条、お前の家、というか部屋の隣に住んでるんだからな」


香織は、ここでも爆弾発言をする。


「先生、冗談でしょ?」

「おいおい、さっきは『俺は人を疑わない主義なんで』とか言ってなかったか?」

「それとこれとは話が別です」

「まぁ、どうでもいいんだがな。それで、九条がお前の家の隣ってのは嘘でも冗談でもないぞ。というか、神崎は文句があるのか?こんな可愛い娘の面倒がみられるんだぞ?それとも何だ、女の子に興味がないのか?」

「興味はありますよ!って、そうじゃなくて、さすがに男の俺がそこまでするのは良くないと思うわけですよ」

「じゃあ、私が許す!」


香織はドヤ顔を決める。


「いやいや、先生が許す許さないという問題ではないでしょ」

「ああ、さっきからうるさいな。これ以上拒否したら成績落とすからな!」

「なっ。り、理不尽だ……!」

「理不尽で結構。私は私が面白そうだと思うことをする」


さらに香織は、かっこよく、残念なことを言い放った。

結斗はアリスの面倒をみることは嫌ではなく、むしろ役得くらいに思ってはいたから、成績を引き合いに出されると素直に引き受けた。というか、結斗が躊躇していたのは初めは女の子同士とかの方がいいと思っているという理由だけだったから、本気で拒否する理由は実はなかったりする。


「結斗さん、色々とよろしくお願いするわね」


アリスは先ほどまでの結斗と香織のやりとりを気にする様子もなく、普通に受け入れていた。


「ああ。よろしく」


結斗は色々と複雑な心境でアリスに答えた。

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