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平穏な日常


「じゃあ、また明日な」


神原結斗は、掃除をしていたり、何人かで駄弁っていたりと思い思いに過ごすクラスメートたちに別れを告げて教室を出た。廊下を歩きながら放課後の予定を考える。


「さてと、今日はどうすっか……図書館にでも行くかな」


そして予定を何となく決め、校門を抜けて、結斗はとりあえず歩き始める。すると、後ろからパタパタと走る足音が聞こえ、声をかけられた。


「ゆっくん、今帰り?」


確認するまでもなかったが一応、振り返って相手を確認し、返事する。


「ああ。愛耶もか?」

「うん!」


息を整えながら元気よく答えるのは、水本愛耶みなもとよしか。結斗とは子供の頃からよく一緒にいる、いわゆる幼馴染みである。


「ゆっくんが帰るところ見かけたから。急いで追いかけてきちゃった」

「別に、メールでもしてくれたらいくらでも待ってやったのに」

「えへへ」


愛耶は満面の笑みを浮かべながらも照れた表情で話す。


「で、どうする?俺は7時からバイトあるからそれまで図書館にでも行って時間を潰そうと思ってたんだけど、愛耶も一緒ならちょっと寄り道するのもいいかなって思い始めた」


結斗は言外に、せっかくだからぶらつかないかと提案する。


「…………う〜ん、私はゆっくんとなら図書館でもいいけど、やっぱり街をラブ……ブラブラ歩く方がいいなぁ」


愛耶はそこそこ迷っていたが、しばらくして少し恥ずかしそうにしながら結斗の提案に答える。


「じゃあ、商店街の方にでも行くか」

「うん。初めから商店街の方に向かってるしね」

「そう言えばそうだな」


2人は商店街へと歩いていく。その道中も2人は他愛もない話を続ける。そして、いつの間にか話題は試験のことになっていた。


「そう言えば、もうすぐ試験だね」

「ぎくっ」


愛耶の「試験」という言葉に嫌な感じで反応する結斗。


「ゆっくん、その反応は何?」


そんな結斗の反応に、愛耶はすかさず突っ込みを入れてくる。


「いやだって、試験って面倒だよなと思ってさ…」

「ゆっくん、生徒会長でしょ?生徒会長がそんなじゃみんなに示しがつかないよ。ちゃんと勉強しなきゃダメだよ」


そう、結斗は生徒会長を務めている。ただ、残念なことに運動は出来るが勉強は出来る方ではない。というか、出来ないというよりはしていないという方が近いか。では、何故そんな彼が生徒会長を務めているのか。それは簡単だ。愛耶が勝手に立候補用紙を提出していて、気付いたら当選までしていたというだけのこと。でも、何だかんだで職務をしっかりとこなす結斗はスゴいのかもしれない。しかも、生徒たちからの人望も厚い。


「そうは言ってもな……好きじゃないもんは好きじゃないからな。一人でやる気にはならないんだよ」


結斗は心底憂鬱そうに話す。


「もぉ、仕方ないなぁ。私も一緒に勉強するから頑張ろ?」

「……そこまで言うなら頑張るか。つか、毎回こうやって勉強教えてもらってる気が。まぁ、そのおかげでそこそこの点数がとれてるわけだけどさ……」

「じゃあ、明日勉強会やろうね。決まりだよ?」

「ああ、分かった」


愛耶はノリノリで、結斗は少し憂鬱気味に勉強会をすることに決めたのだった。


「で、商店街着いたけどどうすっか?」


話をしている間に商店街に着いた。


「とりあえずお茶にしよ?ちょっとお腹空いちゃった」

「そうだな」


2人は行き着けの喫茶店へ行くことにする。カランコロと心地よい音を立てながらドアを開け喫茶店の中に入る。


「マスター、いつもの席空いてる?」

「お、結斗か。何々、愛耶ちゃんも一緒ってこたぁ、デートかい?」

「まぁ、そんな感じ」


結斗はマスターの冗談に、何てことないと平然として適当に流す。このマスターは結斗が愛耶と店に来る度に同じことを訊いてくるので、結斗はすっかり慣れていた。

一方の愛耶は


「…………デ、デートっていうか…というより、そもそも私たちはまだ付き合ってないわけで。って、まだって言い方じゃまるで付き合う寸前みたいな……で、でもでも付き合いたくはあるから…………」


と、一向にマスターの冗談に慣れる様子はなく、1人照れで顔を真っ赤にしながらブツブツ言っていた。


「そうかいそうかい。っと、席だったな。空いてるぞ。注文もいつものでいいよな?」


マスターはそんな愛耶の様子を微笑ましげに見ながら結斗を席へ促し注文をとった。


「ああ。よろしく」


結斗はマスターの言葉に頷き席に着く。


「愛耶〜、早くこっち来いよ」

「ふぇ?あ、うん!」


結斗がまだブツブツ言っている愛耶を呼ぶとようやく我に返って結斗の方に向かう。


「いやぁ、若いっていいねぇ」


マスターはそんな2人の様子を見ながら1人呟く。当然マスターの言葉は結斗たちには聞こえていない。マスターは尚も微笑ましげに2人を見ながら支度を始めた。


「注文はいつものにしたけど、いいよな?」

「いつものって、紅茶とパンケーキでしょ?問題ないよ」

「だろうと思ってたさ。てか、思ったんだけど、愛耶ってここに来る度にそれ食ってないか?何て言うか、大丈夫なのか?」

「大丈夫って何が?」

「その……体重とか体け、グフッ!」


結斗は愛耶にパンチを食らって、言い切ることは出来なかった。


「……愛耶、いいストレートだ……」


そして、それだけ言って机に崩れ落ちる。


「ゆ、ゆっくん大丈夫!?」


愛耶はそんな結斗の様子を見て慌てて介抱する。


「……あ、ああ。何とかな」


結斗は若干涙声になりながら答える。


「で、でもゆっくんが悪いんだよ?女の子に体重の話とか振るから……」


もじもじとしながら愛耶は言葉を返す。


「それに、ゆっくんはデリカシーが無さすぎだよ………私だって最近少し危なくなってきたかなって思ってるんだから……」


最後の方はモゴモゴとしてよく聞き取れなかった。


「ホント悪かったって」

「まぁ、悪いって思ってるんだったらいいけど…」


だが、結斗は愛耶が引いたことでひと安心と息を吐き出す。そこにマスターが注文の品を持ってやって来た。


「まったく、結斗はだめだめだねぇ。そういうのは思っていても言わないで然り気無く気にかけてあげられるようにならないと」


マスターはため息混じりに結斗に嫌味を言う。


「マスター!もしかして、私って太ってる、かな……?」


愛耶はマスターの言葉に、急に不安に駆られ、マスターに確かめる。


「いやいや、そんなことないよ。愛耶ちゃんは可愛いし、スタイルだっていいと思うけどなぁ。結斗もそう思うだろう?」


マスターは愛耶を褒めて、さらに結斗にも振る。


「まぁ、確かに可愛いしスタイルもいいと思うぜ。それは誰が見たって間違いねぇよ」


マスターだけじゃなく結斗にまでべた褒めされて、愛耶は顔を真っ赤にしながら照れる。


「そ、そんな、言い過ぎだよ」

「照れてる愛耶ちゃんは可愛さ3割増しだね」


マスターは暢気に言葉を重ねる。


「〜〜〜っ」


愛耶は言葉にならない声をあげて黙ってしまった。そしてそのままショートしてしまう。


「おいおいマスター、あんまり愛耶をからかうなよ。可愛い過ぎてこっちが恥ずかしくなるだろ」

「それもそうだね。こりゃ参ったな」

「愛耶はほどほどにからかうのが丁度いいんだ。こっちが見ていて恥ずかしくないくらいにな」

「覚えておくよ」


結斗とマスターのアホな会話は幸いにも(?)愛耶には聞こえていなかった。

マスターは一通り結斗たちと会話をして満足したのかそのままカウンターの奥へと戻って行った。

結斗は注文していたコーヒーを啜りながら、愛耶が元に戻るのをおとなしく待つことにした。


「けど、はぁ、このコーヒーは温いな……」


愛耶をからかって遊んでいたせいでマスターが持って来ていたコーヒーはすっかり冷めてしまっていた。


「文句があるなら飲まなくていいのだよ」


結斗の言葉が聞こえていたのかマスターはカウンターの奥から声をかけてきた。


「ふぅ、このコーヒー、冷めても美味いなー」


結斗は少しばかりわざとらしくコーヒーを褒める。


「そうだろう?なんだ、分かってるじゃないか」


すると、すっかり気をよくしたのか、ご機嫌なマスターの声が返ってきた。


「………単純だな、マスターって…」


結斗はそんなマスターを見て、今度はマスターには聞こえないようにして呟いた。


「それにしても、俺も腹減ったな。ちょっともらうか…」


そして、目の前──愛耶の前にあるパンケーキを切り分けてパクっと食べる。


「おお、久しぶりに食ったけど美味いな。そりゃ愛耶がよく食べるわけだ」


愛耶が注文するのも分かるな、などと考えもう一切れパクついた。


「………あっ!ゆっくん勝手に私のパンケーキ食べたでしょ」


結斗がモグモグしていると愛耶が復活してきた。


「いあ、あんあうあおうあっあい(いや、なんかうまそうだったし)」

「口にものがあるときに話さない!」


愛耶にそう言われて、結斗は口のものを飲み込んでから言葉を続ける。


「いや、見てたら美味そうだったからさ。それに少し腹減ってたし。だからつい、な」

「つい、じゃないよ。楽しみにしてたんだから。…それにそんなに食べたかったなら私が食べさせてあげたのに……」


しりすぼみに声が小さくなって、最後の方の言葉は結斗には聞こえていなかった。


「え?なんて?」

「ううん、何でもないよ!」


結斗に聞き返されて、慌てて愛耶はごまかす。


「……そうか?じゃあ、ちゃっちゃと食べなよ。冷めるぞ?」

「もう冷めてるよ……」


そうは言いつつも愛耶は食べ始める。


「んー、美味しー」


少しだけ不機嫌だったが、パンケーキを一口食べて一瞬で機嫌が直る。


「良かったな」


結斗は、「現金なやつだな」と思ったがそれは言わなかった。


「うんっ。今度マスターに作り方教えてもらおうかな」

「企業秘密だから教えられないのだよ。いくら愛耶ちゃんの頼みでもね。食べたくなったらいつでもいらっしゃい」


マスターはまたしてもカウンターの奥から愛耶の言葉を返してくる。


「分かった。でも、マスター商売上手だなぁ」

「あらら、バレちゃったか」

「さすがに私でも分かるよ。じゃあ、その代わりたまにはおまけしてね」


一方の愛耶もちゃっかりおまけを要求する。


「そう言う愛耶ちゃんだって上手いね。まぁ考えておくよ」

「わーい、楽しみにしてるね」


愛耶はマスターの言葉に子供みたく喜ぶ。


「愛耶落ち着け」

「あ、うん」


結斗に言われて、愛耶は落ち着きを取り戻した。そして、パンケーキを食べ進める。


「愛耶、食べたらどこに行く?ぶらぶら歩くって言ってたけど」

「う〜ん、雑貨屋さんの方に行きたいかな」

「りょ〜かい。じゃ、さっさと食べちゃおうぜ」

「うん」


愛耶は少しだけ、食べるペースを上げた。

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