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第一話

「詠唱凍結……解除。

術式開放、鍵“我は風と共に”」


景色が歪む。

まるで違う色を混ぜたように色彩は変わっていき

粘土をこねるように景色が歪み、ずれていく。

陽炎のように揺らめいているにも見える。


転移と聞くと何か気持ち悪くなったり痛みを感じるのかと思っていたが

杞憂のようでまったくそんな感じはなかった。

やがて草原の色も景色もまったく原形をとどめないほど歪んでいき

色が段々と黒一色に染まっていく。


全部黒くなると歪みも色もわからなくなった。

だが黒くなってすぐに色が戻り始める。

先程の逆回しのように今度は色が元に戻り始め歪みもなくなり始める。

そして全てが元に戻った時そこは草原ではなく

何もない広い部屋の中心に俺たちは立っていた。



そこは無機質な部屋だった。

床、壁、天井全てが鉛色に鈍く光っていた。

しかし人が住むどころか居るだけでも意味がないと思われる部屋。



「何もない?」


本当にそこには何もなかった。

机や椅子はおろか本当に何もない部屋だった。

ある意味牢獄と言われれば納得してしまいそうだ。


「ここは転移専用の場所なんです」


疑問に律儀に答えてくれたのは神楽さんだ。


「転移専用?」


「ええ」


いまいち釈然としなかったが深くは聞かないことにした。

どうせ知っても何の意味も無いのだから。


「さて行きましょう」


歩き始めた神楽さんに俺はついていく。

どこに出口があるのかと思ったが歩いていく先の壁をよーくみるとノブがあったのが見えた。

同じ色をしていたせいだろう、とてもドアがあるようには見えなかった。

だが本部というだけあって迷い無く進んでいく神楽さん。

ドアを開けそのまま廊下をスタスタと歩いていった。

ちなみにどうでもいいことだが俺はちゃんと出るときにドアは閉めておいた。



中は広いらしく長く歩いていた。

ところどころドアがあってまるでホテルのようだとおもった。

まぁホテルといっても装飾がほとんど無い簡素なものだったが。

壁はコンクリのような鉄のようなよくわからないもので出来ているようだった。

硬いような柔らかいようなよくわからない物質。

この世界独自のものだろうか。

ただ俺の知らない素材の可能性もあるが。



何度か角を曲がり迷路のような廊下を抜けると俺は驚いた。

そこは広場だった。

それはとても広く、ホテルのロビーのようだった。

だが驚いたのはそれだけではない。

今まで他の人に会わなかったがここには数十人という人がいたのだ。

男の人や女の人、服装もバラバラだが人種もバラバラだった。

明らかに外国人と思われる人もいるし日本人もいる

まさに広場だった。


「こっちよ」


だがゆっくり見る暇も無く神楽さんは進んでいく。

まぁ普段から見慣れた風景だろうと思い気にせずついていった。

今度は先程のような廊下ではなくもっと広かった。

その何か偉い人が通りそうな道を興味深く周りを見ながら歩いていくと

これまた今まで見た扉より立派そうな扉があった。


木の扉だが装飾が施されてありまるでどこかの社長室の扉みたいだった。

この俺みたいな素人でも一目でもわかるほど精巧な彫りのようだったから

おそらくその想像はあっているのだろうと思った。

神楽さんはその扉を今までに見たいに勝手知ったる風ではなく、きちんとノックをした。



「入りなさい」


渋いような男の声が扉の向こうからした。


「失礼します」


その声を聞き扉を開け中に入る神楽さん。


「戦闘課部長神楽。ただいま帰還いたしました」


「うむ、ご苦労だったね。疲れただろう?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


「そうかね、無理はしないようにね」


ここからでもわかるような優しい声。

顔はよくみえないがその声は警戒を解くような優しい感じがした。


「ところで……その少年はいったい誰かな?私に紹介してくれないかね」


「はい。水月君、入って」


言われてずっと扉の外で立ち尽くしていた事を思い出した。

俺は慌てて行こうと思ったがここで慌てるのも失礼だと思い

ゆっくり歩いて、それでいて少し早めに扉を潜った。

部屋の中は一言で言うなら地味……なのだろうか。

置いてあるものは部屋の隅の観葉植物……のようなものと大きい机と椅子だけだ。

そしてその椅子には老人というには力に満ち溢れているようで

青年というにはいささか老けすぎているような

それでいて優しい顔を浮かべた老人(?)が座っていた。

老人のような老人じゃないような……ああ、口では言い表せない。



だがその雰囲気、物腰が警戒をついつい解いてしまうようなそんな人だった。

そこまで考えて何も発言しない二人に気づき自己紹介をするんだと

今更ながら俺は気づいた。


「あ……紹介が遅れました。水月悠です」


ペコリと頭を下げ礼をする。


「ふふふ、そんな畏まらなくていい。顔を上げて」


言われたとおり顔を上げる。

その老人は俺に柔和な笑顔を向けていた。


「ふむ、私の紹介も必要かね?

私はウォルフ。ウォルフ・レインディア。この魔術協会、通称本部の最高責任者を

させてもらっている」


「ウォルフ・レインディアさん?」


「うむ。君は来たばかりだったね。何か質問があれば何でも言ってみるといい。

答えられる範囲で答えよう」


そう言ってニッコリと笑う。

……質問か。色々と頭の中で聞きたい質問が浮かぶ。

そして、まずはひとつの質問をする事にした。



「あの……魔術協会とはいったいなんでしょうか?」


その言葉を聞くと少し眉をひそめる。

視線を神楽さんに移す。

つられて俺も神楽さんを見ると神楽さんは小さく首を振った。


「そうか……となると説明をまったくしていないのかね?」


「はい……」

申し訳無さそうな顔をする神楽さん。

それをみてふむっと考え始めるウォルフさん。

すると机の引き出しを開ける。

何かを探してるようだが……


やがて目的の物を見つけたのか手に何かを持って引き出しを閉めた。


「ちょっとこれを持ってみてくれないか?」


机にそれを置く。

見るとそれは小さな銀色をしたカードのようなものだった。


「っ!所長!それは」


何か言おうとした神楽さんをウォルフさんは手で制す。

神楽さんは何かまだ言いたそうだったが諦めたのか黙ってしまった。

だが黙っていても此方を見る目がまるで不安なものを見るようなのが気になった。


「あの、何かあるんですか?……まさか危険な物とか?」


「危険なものを君に渡したりはしないよ。大丈夫、まったく危害は無い」


笑顔でそういう。

俺は覚悟を決めて前に進みそのカード(にようなもの)を手に取った。

少しひんやりしていて硬かった。

持ってどうするのかと思っていたそのときだった。



「……!?」



突然銀色のカードが真っ青になったのだ。

とても濃い青。原色と言ってもいいほどの濃い青。

だが変化はそれだけにとどまらなかった。




―――パァン




まるでガラスが割れるような音が響きカードは砕けた。

突然の変化にまったく反応できない俺だったが

神楽さんも驚いているようだ。

この位置からでは見えないが息を呑む声が聞こえたからだ。

だがウォルフさんはいつもどおりだったが笑顔はなかった。


「これは一体何なんですか?」


「テストのようなものだよ」


「テスト?」

コクリと頷く。


「一体何のテストなんですか?」


「それはね」

神楽さんが答えようとして一瞬躊躇する。

だが、言葉を引き継ぐようにしてウォルフさんが答えた。




「潜在魔力検査」


「潜在魔力検査?」


頷く。そしてウォルフさんの方に向く。


「所長」


「うむ。さてどうするか」


目を閉じて何か考えているようだ。

俺は何がなんだかわからず蚊帳の外だった。


「神楽君。少し覗かせてもらってもよいかね?」


「はい、構いません。」


一歩進み出るそして目を閉じる神楽さん。

それに伴い一緒に目を閉じるウォルフさん。

一体なんだろうと首をかしげる。

ただなんとなく邪魔をするのはよくないと思い音も立てないように俺は

じっと立ち止まっていた。

やがて数十秒するとお互い合わせたように目を開ける。

そして一歩下がる神楽さん。


「なるほど、稀に見る才能というわけか」


「はい……いかがいたしましょうか?」

「そうだね。私の答えは決まったよ」


すると真剣な顔をして俺を見るウォルフさん。


「水月君」


「は、はい」










「魔術協会に入らないかい?」


「……はい?」

言われた意味がわからなかった。

いや、意味はわかるが、言葉をして理解しづらかった。


「すいません、今何て?」


多分聞き間違いだろう。いやむしろそうであると信じたい

「君を魔術協会に迎えたいと言ったのだよ」


だが残念なことに聞き間違いではなかったようだ。


「あー・・・色々混乱してきましたので

色々質問してもよろしいですか?」


「いいだろう。何でも答えよう」


「何でもですか?」


「うむ、私が答えれる範囲ならな」

「ではこの世界は……一体何なんですか?

今まで俺がいた世界…じゃないと思うんですが」


「うむ、そのとおり。ここは君がいた世界とは違う世界。

まぁわかりやすく言うならば異世界ということになるな」


「異世界……ですか?」


「そうだ。君がいた世界を『技界ぎかい』と私達は呼んでいる。

そして今いるこの世界を『魔界まかい』と言う」


頭が痛くなってきた。

魔界……技界……まるっきりアニメやゲームの世界だ。


「魔界……それは悪魔とかいるそういう世界ですか?」


「そのとおりだ」


本格的に脳がやばくなってきた。


「でも神楽さんとかウォルフさんは普通の人間じゃないんですか?」


「いや、そうでもない。……神楽君見せてあげてくれないかね?」


「わかりました」


そういうとおもむろに耳から髪をかきあげた。

髪に隠れていた耳が姿を見せる。


「あ……」


尖っていた。

神楽さんの耳は普通の耳とは違い、なんというか……そう、ウサギの様な感じみたいに尖っていた。

ゲーム等をやっていれば、エルフ耳と言ったほうが分かりがいいだろう。


「驚いた?」


「ええ……まぁ」


「あんまり驚かないのね?」


「ええ」


もうそれぐらいじゃ驚きませんよと心で思った。

こっちはこの魔界とやらに来てから変な光の攻撃受けるわ結界とやらで防ぐわ

挙句の果てに転移ですよ。

そんなトンデモ不思議な幻想世界に来てるのに耳が尖ったぐらいじゃ驚きませんよ、ええ。


「あと事情により私は正体は見せれないが私も人間ではない」


「え?……もしかして人間のほうが比率が少ないとか?」


おそるおそる聞いてみる。


「んー純粋な人間となると多くは無いな」


俺はその言葉を聴いて肩を落とした。

仮にここに入ったとして会う人が吸血鬼とかミイラ男とかまぁそんな人たちばかりだったら

俺は速効で辞めるってか逃げる。

そんな俺の心を知ってから知らずか


「大丈夫だ、不安もわかるが我々を見てごらん。姿は人間そっくりだろう?」


”姿は”っというところが気にかかるが確かに見た目は人間でむしろなんというのだろうか

人間じゃないようにはまったく見えない。むしろ人間に見えないほうがおかしいぐらいだ。


「確かに……」


「それには理由があるんだが……長くなるからまた今度にしよう。

とりあえず我々は見た目的にはなんら問題は無いことを覚えておいてくれ」


「……わかりました」


見た目は人間だし中身(?)はどうあれ心は優しいようだから問題はなさそうだ。


「では……神楽さんが使っていた魔術とやらは一体何なんですか?」


「呼んで字のごとく。魔力により現象を起こす術と読み魔術と呼ぶ。

そうだな。一から説明しよう」



そこで一度言葉を切り再び語りだす。




「君たちの世界には無かった力がこの世界にはある。それは強力なエネルギーを持っている。

それは万物に宿っており、人間はおろか植物、動物、魔物すべてが持っている。

勿論多寡の違いはあるがね。それが"魔力” 

噛み砕いて言えば君の世界に無い強力なエネルギーを魔力と呼んでいるのだよ。

さらに簡単に言えってしまえばMPだな。

その魔力を使い、物質などに影響を及ぼし、結果として現象を起こす力のこと。

それを魔力を使った術式という意味で魔術と呼ぶ。」



「えーっと……つまり魔力はMPで、MPを使ってメラとかブリザドとか唱えるのが魔術と

言うわけですね?」


「最近の言葉はよくわからないが……おそらく君の言っている意味で間違いは無いだろう」


ここで思いっきり叫びたいことがあるんだがまだ抑える。

まだ早い、まだ突っ込むには早い!


「おおまかには理解しました」


「うむ、理解が早くて助かるよ。さらに詳しい事を話そうか?」


「いえ、もう魔術については結構です。それより先程魔物とおっしゃられましたね?

魔物とは一体なんなのですか?」


まぁ……答えは予想できるが……


「うーむ…境界線を確立させるのは難しいが…一般的には人間またはそれに其れに準ずる者への

攻撃した者、または攻撃性が高く、傷つける恐れがあるもの、知能が低い者…か

明確な魔物というのはいないのだ。極端な話人間と仲が良いか悪いかで決まるのだしな」


「そうですか…あれ?聞いていると人間が主体に聞こえますけれど…?」


そう、疑問に思った。普通の世界なら人間が主だが…この魔界とやらならもっと知的で強い者などがいても

おかしくは無いのだが


「ふむ、それは主な理由としては

一つ、人間のほうが数が多い

二つ、人間のほうが強い

ということかな。」


「人間のほうが強い?あれ…でも人間なんて非力だし弱いのでは…?」

こんな世界だ、竜とかいそうだ…


「それは……まぁ詳しく説明すると時間がかかるから、今は説明できないが

数が多ければそれだけ有利だということにしておいてくれ。

興味があるならば本を見ればいい」


「はぁ…」


まぁ確かに元の世界でも何故人間が主なのかと聞かれれば論理的に答えられないのと同じかな…。

と、自分で勝手に結論を出す。

そしていよいよ一番聞きたい、言いたいことを口にする。


「今までの説明を聞いてずっと思っていたことがあるんです」


「…なんだね?」

真剣な顔をしたからかウォルフさんも真剣な顔になる。

俺は深呼吸をして、言った。







「ここはゲームの世界ですか!!」





言った、ついに言った。

説明を聞いてからもずっとずっと思っていたことをついに…言ってしまった。

俺はそのまま一気にまくし立てた。





「大体MP消費して魔術発動の時点で某有名RPGじゃないですか!

魔物とか魔界とか魔力とかもう全部が全部ゲームじゃないですか!なんですかこれは!?

ええ実際今までここまで来るに間それらを見たとしても!今だ信じられませんよ!

人間じゃないのがいる…?

どこのゲームや漫画の世界に入り込んだのかと!小一時間問い詰めたい!」




ハァハァと息を切らせながら一気に今までの疑問というかなんというか

とにかく全部を吐き出した。

荒い息を整えることもせず、俺はただひたすら反論の言葉を待った。

だが帰ってきた言葉は



「うむ?そのとおりだが?」




今度こそ俺は頭を両手で抱えてうずくまりそうになった。

言葉を聴いて目眩がしたのはこれが初めてかもしれない。

っと、そんなどうでもいいことを思うぐらい頭が半分パニック半分壊れていた。

ああ、だから体が動かないのか。

つまり頭はもうダメってことだ。嘘だが。


「っというよりだね。逆なのだよ」



その言葉で立ったまま電源が切れたように止まっていた俺に僅かな動きを与えた。


「はい?どういう意味です?」


「うむ、君が言うゲームの世界だが…一体どこから来たと思うかね?」


「どこから来た…すいません。意味がわかりません」



「そのゲームの世界の元となる材料というかアイディアというか

そのゲームの内容はどこからもたらされたと思う?」

「おっしゃる意味がわかりませんが、アイディアならそのゲーム作った人じゃないですか?」


「そうだ、だがそのアイディアだけではあるまい?それは神話だったり童話だったりと何かしら

元がある。

そしてその漫画やゲームは同じような世界のはずだ。どうかね?」


やはりよく意味がわからないがよくやるゲームや漫画を思い出す。

大体ドラゴンとか魔王とか出てきたり魔法で倒したりとか

死神がいて紙で人を殺すとか

宝具とか使って聖杯を巡ったりとか、確かにオリジナルのはあるが大体同じといえば同じかもしれない。


「まぁ…例外はあったりしますが大まかには同じ…なのかもしれません」


「では今度はゲームなどの元になるアイディアや神話の元はどこから来たのか…」


そこまで言われてピンと来た。


「まさか…それがこの世界?」


ニッコリとウォルフさんは笑い頷く。


「この世界に存在する…そうたとえば魔術が魔法と呼ばれたり

竜がドラゴンと呼ばれそれを殺す武器ドラゴンスレイヤーだったり。

そんなゲームの世界の内容はもともとこの世界の実際の話だったのだよ」


「じゃあこの世界はゲームの世界のようではなくて」


「ゲームの世界がこの世界なのだ」


驚愕の新事実。

俺は今度こそ両手で頭を抱えた。

かろうじてうずくまることは堪えたが。


「……最後に一つ聞きたいことがあります。

これはウォルフさんへじゃなく神楽さんへですが」


「私?」


首をかしげる。

思い当たる節がないような素振りだ。

俺はがくっと肩を落とした。



「……ここにつれて来られた理由ですよ」


「あ…」


あ、じゃない。本当に忘れていたのかこの人。


「それについては私が説明しよう」


「……?あれ、ウォルフさんわかるんですか?」

頷く。


「実はな、神楽君は詳しいことは話せないがとある理由で技界に行ったのだが

本当はパートナーがいてその人と組む予定だったのだが

実は神楽君が顔も知らずに技界に行ってしまってな」



目を伏せて溜め息を吐くウォルフさん。


「あれほどしっかり確認しておくようにといったのだが」


チラリと神楽さんを見る。

目をそらしてウォルフさんの方を見ないようにしている。

ウォルフさんの苦労がなんとなくわかるような気がした。


「それでも待ち合わせ場所にしっかりいっていれば何の問題もなかったのだが」


そこで神楽さんの方を向いた。


「待ち合わせ場所はどこかわかるかね?」


聞かれて神楽さんは目線をウォルフさんに戻した。


「ええっと、東京のXXXの2丁目ですよね?」


「……3丁目だ」


はぁっと大きな溜め息を吐く。


「っと、言うわけで待ち合わせ場所も間違えていたんだ」


「……そういえば俺がいたところも3丁目でしたね」


ちょっと歩いて遠出したせいで少し疲れたからそこらへんで軽く休んでた記憶がある。


「後は言わなくてもわかるだろうが、君をその相棒と間違えて連れて来てしまったというわけでな」


「それは……なんというか」


救いようがない。

俺にはまったく非はなくただの勘違いで連れて来られたんじゃ

正直フォローも弁護もできないだろう。


「まぁそれだけではないようだがな……」


ポツリとウォルフさんが呟いた様に聞こえたがうまく聞き取れなかった。


「え?何かいいました?」


「いや、なんでもないよ

さて、質問はそれぐらいでよいかな?」


「……とりあえずは」

コクリと頷く。

本当はもっと聞きたいが、俺もまだ混乱している。

具体的な話はまた今度にしたほうがよいだろう。



「では再度問おう」


再び真剣な目になる。


「魔術協会に入る気はないかね?」


「……正直迷ってます」


「迷うとは?」


「この世界に入ったのは確かに偶然かもしれませんけれど

こんな世界があるのならもっと知りたいし実感してみたいです。

ですがここに来るまで危険な目にあったのも事実ですし

一概に入るとは言えません」


「そうか」


しばらく考える様子を見せたが不意に



「ならば一ヶ月ぐらい体験してみないか?」



と、提案してきた。


「体験ですか?」


「うむ、確かにこの世界のことについてもあまり知らない君に急に入れというのは

流石に性急だ。ならこの世界を知り、どんな事をするのかなどを体験してみたらどうかね?」


「それは」



いいかもしれないと思った。

こんな世界なら見所もたくさんあるし向こうに戻ったところで退屈な日々だ。

ちなみに今は7月30日。

当然学生の俺は夏休み中だ。

それを見越して言っているのならまさに名案といえる。

そして俺の覚悟を強力に後押ししてくれる言葉がウォルフさんの口から出た。


「ああ、一応体験中と言ってもこっちも仕事だからね。給料は出すよ、勿論

技界のお金でね。

この世界を見て回ってもらうし魔術も教えよう。どうかね?」


「体験させていただきます」


即決だった。

返事を聞くとウォルフさんはニッコリ笑った。


「そうか、それはよかった。おっとそうだ。

すまないが水月君、少し席を外してもらえないか?

神楽君の報告を聞かねばならんのでな」


「わかりました」


「うん、いい機会だし本部の中でも適当に見ていったらどうかな?」


「そうですね……そうさせていただきます」


俺は失礼しますと言って部屋から出た。

正直ワクワクする。この本部の中を探検というのは子供みたいだが

本当に面白そうなのだから仕方ない。

普通では見れないものにお目にかかるいいチャンスだと思い

俺は足早に部屋を後にした。

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