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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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13階がない

作者: 豪 由貴
掲載日:2026/07/13

書かせていただきました。お届けいたします。定番のホラー小説です。短い作品ですが、よろしければお読みになってみてあげてくださいませ。

深夜2時。残業を終えた新谷が乗り込んだエレベーターは、不自然な振動と共に停止した。

「ピン、ポーン……」

頭上から響いたのは、聞き慣れたチャイムではない。奈落の底から響くような、低く歪んだ不協和音。表示パネルには、あるはずのない【13】の数字が血のように赤く点滅していた。

ゆっくりと開いた扉の先は、生暖かい湿気と静寂が支配する闇だった。

「おい、なんだこれ……」

同僚の斉藤が怯えながら一歩踏み出した、その瞬間。

――チチチチチチチチ。

闇の奥から、無数の人間の歯がガタガタと震え合うような、あるいは硬い爪で壁を掻き毟るような異様なノイズが押し寄せてきた。

「ひっ、うわああああ!」

斉藤の足元から伸びた影が、一瞬で彼を闇の中へと引きずり込む。

「斉藤!」

新谷の叫び声をかき消すように、斉藤の悲鳴が響き渡る。しかしそれも、肉が爆ぜるような鈍い音と共にぶつりと途切れた。

直後。

「ピン、ポーン……」

再び、あの低く歪んだチャイムが鳴った。さっきよりも明らかに、音程が低くなっている。まるで、斉藤の命そのものがこのビルの「音」に変えられてしまったかのように。

――チチチチチチチチチチチチ!

ノイズが狂ったように音量を増し、エレベーターの箱全体を揺らし始める。闇の境界線から、今度は新谷の足をめがけて無数の黒い手が這い出てきた。

「閉まれ! 閉まれよ!!」

新谷は半狂乱になりながら「閉」ボタンを爪が割れるほど連打した。心臓の鼓動が、鼓膜を破らんばかりにドクドクと打ち鳴らされる。

ガコン、と重い音がして扉が閉まり、エレベーターは猛烈な勢いで下降を始めた。

1階のロビーへ吐き出された新谷は、冷たい床に倒れ込みながら激しく呼吸を乱した。見慣れた受付、自動ドアの向こうに広がるいつもの街並み。助かった。

その安堵の瞬間、ポケットの中でスマホがけたたましく震えた。

画面に表示された発信元は、【自宅の固定電話】。

誰もいないはずの我が家から。恐怖で震える指で通話ボタンを押し、耳に当てた。

スピーカーから聞こえてきたのは、ザーザーという激しいノイズ。そして――。

『ひっ、うわああああ! 閉まれ! 閉まれよ!!』

それは、たった今エレベーターの中で叫んだ、自分自身の狂乱した悲鳴だった。

絶句する新谷の耳元で、受話器の向こうの「自分」の悲鳴がぶつりと途切れる。

「ピン、ポーン……」

脳髄を直接揺さぶるような、これまでで最も低く、最も悍ましいチャイムの音が、スマホから大音量で鳴り響いた。  


      【了】

ご一読いただきまして誠にありがとうございましたを

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