ゴーレムさんは焼肉になりたい
焼肉たべたい。ではなく、焼肉になりたい。
そんな作品を書いてみました。
昔々、霧の立ちこめる深い森の奥に、ひっそりと佇むゴーレムさんがいました。
苔むした身体は石でできており、動くたびにギシギシと鈍い音を立てます。
そんな彼には、奇妙で、けれど本人にとっては切実な夢がありました。
焼肉になりたい。
夜空に煙が昇る村の焼肉屋を遠くから眺めるたび、
ジュウジュウと肉が焼ける音、香ばしい匂い、
そして「美味しい!」と笑う人々の声が、
ゴーレムさんの胸の奥をじんわりと温めました。
自分も、あんなふうに誰かに喜ばれたい。
そんな思いが、彼の石の心に灯っていたのです。
しかし、現実は困難でした。
自分は肉ではなく、焼いても石が焦げるだけ。
ピノッキオは青い妖精の力で人間になり、
ガラテアは女神の祝福で象牙から女性になったという物語を思い出しながら、
ゴーレムさんはため息をつきました。
それでも諦めきれず、森の図書館で分厚い本を何冊も読み漁り、
月明かりの下で石の指を黒くしながら調べ続けました。
そしてある夜、古びた錬金術書の一節が、
ゴーレムさんの目に強烈な光を灯します。
賢者の石を使えば、どんな物質も望む姿へと変えられる。
それなら、自分も焼肉になれるかもしれない。
ゴーレムさんは決意し、
冷たい風が吹き抜ける洞窟の奥で錬金術の準備を始めました。
しかし、賢者の石の材料は「人間」。
一人、十人、百人……
森の闇に紛れて人間を捕まえ、石の材料にしていきました。
それでも量は全然足りず、
都市に繰り出し千人、万人、ついには億人と、
材料を増やしていったのです。
やがて、洞窟の中に赤く輝く賢者の石が山のように積み上がり、
ゴーレムさんは満足げに頷きました。
「これで、やっと焼肉になれる……」
石の身体が光に包まれ、
柔らかい肉へと変わっていきます。
ゴーレムさんは嬉しそうに自分を細かく切り分け、
熱した鉄板の上に乗せました。
ジュウジュウと音が響き、
香ばしい煙が立ち上る。
でも、その香りに気づく人はもう誰もいませんでした。
世界から人の気配が消えていました。
誰かに「美味しい」と言ってほしかったゴーレムさんは、
静まり返った世界の中で、
ただひとり焼かれ続け、
やがて黒い消し炭になりました。
(おしまい)
ゴーレムさん、火葬?成仏してください。




