彼の者の願い
人々は動いた。
警備の薄さは、まるで彼等を迎え入れるようであり、不気味でもあった。
それでも、人々は進んだ。
目指すのは、ただ一つ。
奥に進むにつれ、だんだんと豪華になっていく廊下。
そう、目指すのは……
*
さぁ、いくわよ。
姉の言葉に妹が頷き、即座に主従関係が結ばれる。
魔女の歌にあわせて、使い魔が踊る。
魔方陣も媒体も生け贄も必要ない。
二人だけの魔法。
血の絆を利用し、全ての根源へ訴えかける。
歌は呪であり、踊りはそれ自体が陣の代わり。
立ちはだかる者は、全て薙ぎ倒す。
仮初めの魔術師など、遠く及ばない。
彼女らは、真の魔術を識っているから。
圧縮された空気を、白い装束を纏った王宮魔術師達に解き放つ。
悲鳴があがる。
魔女が笑う。
使い魔が空気弾の軌道修正をする。
それは、一瞬だった。
命を受けて、この部屋で高度な魔術を繰りだしていた百人近くの魔術師が、つい先程乱入してきた幼い二人の少女に壊滅させられた。
爆弾とも呼べる空気弾は、凄まじい音と衝撃を生み出し、一瞬で少女達以外を瓦礫の山で包んでしまった。
あぁ、つまらない。
魔女がぼやいた。
この程度の力で、私達に楯突こうなんて、思い上がりも甚だしいわ。
怒りというより、呆れ。
あの人達、行ったね。
えぇ。
そして、二人揃って彼等が向かうであろう場所を見上げる。
てっきり怖気付いて帰るのかと思ったわ。
まさか、行方不明の犯人が自分達の王様だった、なんて、思いもしなかったでしょうしね。
見上げたのは、王の間。
彼等が向かう、玉座。
人って、弱いだけじゃないんだね、お姉ちゃん。
そうかもしれないわ。
まぁ、何にせよ彼等に幸があらんことを、ってね?
人々は駆け上がる。
初めて見た王宮の豪華絢爛な装飾品に、感動するどころか見向きもせずに。
王の間に、護衛に護られた、一人の男がいた。
無礼者め!何者だ。
護衛の一人が声を張る。
あなた方に誘拐された者だ。
王、貴方なんですね?
私達を村から攫い、あの部屋に閉じ込めさせたのは。
問い詰める村人達に対し、気の弱そうな王は悲鳴をあげるばかり。
話など、できる状態ではない。
いったいどうして?
なんのために?
どうやって?
彼等の聞きたいことに、ただ脅えをみせるだけ。
やがて、怒ったかのように話しだした。
まるで、緊張の糸が切れたかのように。
そうさ、私がやったのだ。
特殊な魔術をかけ、座標を固定し、ある一定の時間に固定した場所を訪れた者を、空間の歪みから移動させた。
なんのために!?
知れたこと。
王は笑う。
神への生け贄だ。今年はお前達の村からだったのだ。
まさか、毎年やっていたの?
誰かが、悲痛な叫びを上げた。
なんてことを。
必要なことだったのだ。
王の返答に、村人達は怒り狂った。
そして、彼等は王を倒し、国中に王の所業を公開した。
…そしてその後、村人達は新たな王を選び、平和な国造りのために、大いに役にたったそうじゃ。」
老婆は話し終わると、ふうと息をついた。
「さぁ、もうお帰り、子供達。
母さんが家で待ってるよ。」
促すと、おとなしく話を聞いていた子供達が慌ただしく帰りだした。
小さな小屋に一杯に入っていた、小さな聞き手が疎らに帰っていくのを見送り、老婆は誰も居なくなった家で、にっこりと笑った。
「子供はかわいいね。お姉ちゃん。」
すると、どこからともなく魔女の少女が現れた。
「そうね。あなたの話し方も様になっていたわよ?
私のかわいい使い魔。」
からかうように笑って、老婆の肩に触れる。
一瞬で、老婆から少女へ変貌した。
「からかわないで、これでも頑張ったんだから。」
「最後は話を変えたでしょう?
優しい子ね。」
「子供に聞かせられる話じゃなかったからね。
王様が自白する辺りから、変えちゃった。」
「ふふ、そうね。
あんな醜く下劣で哀れな話、聞かされたらたまったものじゃぁないわね。」
そして、二人は顔を見合わせて、くすくすと笑った。
歴史にも記されなかった、真実。
知るのは、当人達と、傍観者であった双子の姉妹のみ。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
この話は私が中学生の頃に書いた短い話を伸ばして、まとめあげたものです。
未熟な面が目立ったこととは思いますが、読んでくださる方がいらっしゃることに大喜びしています。
ありがとうございました。