キエタコドモタチ
或る時代、或る国で、小さくて、それでも当人達にとっては恐ろしい出来事。
さぁ、物語が始まるよ。
そう言って、村の長老である老婆が、子供達を見回した。
あれは、婆がまだ十にも満たなかった頃の話じゃ……。
婆は話し始める。
それは、滑稽で残酷で、哀しくて嘲笑の的となるような、そんなお伽噺。
「或る村の……
*
とある小さな村で、ある日子供が消えた。
誘拐と呼ぶにはあまりに忽然と、家出と呼ぶにはあまりに幼い。
一番村で貧しくて、一番おとなしいその子供の行方を知る者は、誰一人としていなかった。
大人達は噂した。
口減らしだよ。あの親がきっと殺したんだ。
可哀相に、きっともう生きてはいないだろう。
身に憶えのない噂に、ただ貧しい夫婦は惚けるばかり。
それでも、探した。
親が、友達が、隣人が、ひいては村中の人々が。
それでも、子供は見つからない。
いなくなって、1週間が過ぎた。
それでも、子供は見つからない。
いつの間にか、大人達は諦めてしまった。
それから、一月が経った頃。
いなくなった子供を探していた、その子の友達が行方不明になった。
その子の親は、狂ったように捜した。
その親には、家族はその子しかいなかったから。
それこそ、草の根を分けるように。
目を皿のようにして、昼も夜も朝も次の昼も、子供を探して徘徊した。
まるで幽霊のように歩き回り、狂人のように泣き喚いた。
それに感化されるように、先にいなくなった子供の親も、再び探し始めた。
村中の井戸をさらい、村中の空き家の屋根裏まで捜索し、森に入り、夜明けまで子供を探して走り回った。
それでも、子供達は見つからなかった。
そうしている間に、また子供が消えた。
今度は十余人が一度に。
村の子供の数は、とうとう半分になってしまった。
流石に偶然と呼ぶには、重なりすぎた。
大人達は恐怖した。
子供達はいなくなるのを恐れた大人達によって、家の中に閉じ込められた。
いつの間にか、捜索するものは親のみになってしまった。
誰もが、言い表わせない恐怖に脅かされた。
そのうち、大人までもが消え始めた。
一人、また一人と消えていく。
彼等は探すこともできず、ただ姿の無い恐怖に怯えて暮らしていた。