表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

斜陽に刻まれた記憶(三)

――夕菜の視点(一年前の入学式)

 入学式が終わって校庭に出て、校庭を眺めながら、夕菜は小さな息を吐いた。

新しい生活への期待と、どこか拭えない不安が胸に広がっている。

「夕菜、どうしたの?ぼーっとして」

友達の梢が近寄ってきて心配そうに声をかける。

「梢…うん、なんでもない。ただ、なんだか不思議な感じがして……」

梢は軽く微笑みながら肩を叩いた。

「また変な夢でも見たの?」

「……うん、そんなところかな」

夕菜は曖昧に笑みを返した。

――たまに見る夢、鳥居を抜けた先にある

古びた小さな祠、周りには朱色の優しい光が照らしている奇妙な懐かしさに包まれた夢。

「何回も見る同じ夢…か、不思議だね、

おじいちゃんが言ってたんだけど昔ここは境内だったらしいよ、神社があったんだって、もしかしたら何か意味があるのかもね?

まーそんなに気にしなくてもいいと思うけど」

「そうなんだ、ありがと梢、そうだね…」

 ふと、夕菜の視線が旧校舎の裏手の方に向く、そよ風が夕菜の髪を靡かせながらすり抜けて行き、また不思議な感覚がした。

――あそこ、何かあるのかな

「梢ー、夕菜ー、写真撮ろ!」

と中庭にいた数人の女の子達が呼んでいる。

「夕菜、行こっか」

「うん」

 

 写真を撮り終えた夕菜は、なぜかその場所が気になり始め、足が自然と向かっていった。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」

 と小さく梢や他の友達に手を振り、一人で旧校舎裏へ向かう。

 旧校舎の裏側につくと草の生い茂る細い小道の坂道がある小高い丘に着く。

「なんだか不思議な場所…まるでここだけ空気が違うみたい」

 そう言って夕菜は細い小道の坂道を上がって行く。

 少し登って視界が開けた先には、朱色の鳥居があり、その先には古びた小さな祠があった。

「ここって、夢で見たあの…」

鳥居を抜け、祠の前に立った瞬間、胸が痛むほどの懐かしさがこみ上げ、気が付けば頬を涙が伝っていた。

「あれ、どうして……?」

自分でも理解できない涙を拭っていると、背後から優しい声が聞こえた。

「……大丈夫?」

少し驚いてゆっくり振り返ると、そこには穏やかな心配そうな表情をした男子が立っていた。

――それが旭との最初の出会いだった。

 

 しばらく会話した後、夕菜は時間に気付き慌てて校庭に戻る。

「夕菜!一体どこ行ってたの?ずっと探してたんだから」

心配そうに梢が駆け寄ってくる。

「ごめん、道に迷っちゃって偶然声をかけてくれた男の子と少し話してたんだ。」

そう誤魔化すようにあどけない表情で言う夕菜。

「もう…何それ気をつけてよね、心配したんだから、日も落ちてきてるし早く帰るよ。」

「うん、ありがとうごめんね…」

そう言って二人で帰路に着く。


 その後、一年の間、夕菜はたわいのない普通の学生生活を送っていた。

 一年の時は旭とは、別々のクラスで特に接点を持つ事もなく、時折り旭のいる教室を通る時に遠くから見かける時があるくらいだった。

「あ、あの人…入学式の時に旧校舎の裏であった人だ。

なんだかいつも一人でいるな、不思議な雰囲気の人…」

そんな事を思いながらも特に話す機会や事もなく一年が過ぎていった。

 それから二年に上がって夕菜と旭は同じクラスになった。

「夕菜、また同じクラスになれて良かったね」と梢が嬉しそうに微笑みながら言う

「うん、良かったよ〜

私はやっぱり梢がいないと不安だからね、また一年宜しくね。」安心したように笑って返す夕菜。

 そうして新しいクラスを見渡していると窓際の方の席で一人本を広げて読んでいる旭を見つける。

「あ、あの人も同じクラスなんだ。」


 チャイムが鳴って先生が教室に入ってくる。

「今日から新しいこのクラスの担任になった真月 鈴鹿です。

皆んなこれから一年間宜しくね。」

「綺麗な先生だな〜」と思っている夕菜を他所にクラスの男子達は美人な女の人の教師に大盛り上がりだった。

「静かにしてね〜、それじゃ最初だし皆んな一人ずつ自己紹介していこうか!」

と手を合わせて先生が言う

 一人一人自己紹介をしていき旭の番になる

「綾瀬 旭です…宜しくお願いします…」

実に単純で簡単な内容のない自己紹介を済ませて席につく旭。

「へ〜旭くんって言うんだ…なんだか変わった子だな…」

 そうして全員の自己紹介が終わり、いつも通りの日常が過ぎてゆく。


 学校が終わって帰りの挨拶を済ました後、鈴鹿先生に呼び止められた。

「柊さん、早速クラス委員長のお手伝いをお願いしていいかしら。」

――クラスの委員会決めで誰も候補がいなく、周りからの意見もありクラス委員長になった夕菜。

「はい、なんですか?」

「この資料達を旧校舎の三階にある資料室に持っていってもらいたいの、お願い出来る?」

「大丈夫ですよ、分かりました!」

と笑顔で返事をする夕菜。

「なら私も一緒に手伝ってついていきます。」と言って梢も手伝い二人で一緒に旧校舎に向かう。


「資料室ってどこだろ…」

と旧校舎の三階について資料室を探す二人。

探しながら夕菜が一番端の部屋を覗いた

「ここかな?」

そこはただの空き教室で、覗いて辺りを見回すと一番端の窓際の席に誰かが腰掛けていた。

「あれ、誰かいる……あ!」

と言って見つけたのは旭だった。

「こんな所で何してるんだろう…」

と気になっていたら少し離れた所から梢が声をかけてきた

「夕菜ー、資料室あったよ!」

呼ばれた夕菜は空き教室で腰かけてる旭を気になったものの声をかける事はなく梢の方へ向かっていった。


 それからたまの放課後に、少し旧校舎三階の空き教室に寄っては、教室を少し覗きそのたびに旭はそこにいた。

「今日もいる…」

――なんでこんなにもあの人の事が気になってしまうのかは分からない、けど気付けば時々彼を目でおっている。

そんな事を気になって考えていたら

ふと、旭と始めてあって話しをした祠の事を思い出し、おもむろにその祠のある場所に向かった。


 祠に着いた夕菜は、「まただ…」と呟き涙が頬を伝う夕菜。

――何故かこの場所に来ると、懐かしさが胸を締め付けられるような気持ちになって涙が自然と流れる。

 それと同時に旭とこの場所で会って、話しをした時の謎の安心感を思い出す。

「彼ともう一度しっかり話しをすればなにか分かるのかな…」

そう思った夕菜は次の日の放課後、また旧校舎の空き教室に立ち寄って、胸の奥で高鳴る心臓を抑えながら静かに教室の扉を開け、旭に声をかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ