囲まれた街
まず確実に見える雷の崖に向かって進むことにした。遥か先に雷で光っているのがわかるから目指せるからだ。 森は暗く、見たことも無いような植物がたくさん生えている。くねくねとした木に、銀色の葉、金色の葉が生えた鮮やかな植物や、人間の形をした、木々や幹に血管の浮く木々もあった。信じられない光景に身震いし、興奮しながら進んだ。しばらくすると森の中に突然、街が現れた。街には、たくさんの家があり、どの家も看板がかけられていた。看板にはスィタン語が使われていて、ジュリエットに解読は出来なかった。
「どうやら、全部お店らしいな。あそこにパン屋があるぞ。」
お店を覗いてみると、薄暗い明かりの中にたくさんの赤黒い色をしたパンが並べられていた。
「誰が、何のために作ってるのかな。」
「少なくとも俺達向けじゃなさそうだな。」
しばらく様子を伺っていると中から太っちょの子供が出てきて、ソファーに座った。
「俺が行ってみるから、何かあったら来てくれ。」
「危ないわよ!」
「ああ。だが、このままここにいても何もわからないだろ。」
ロミオはジュリエットの文句も聞かずに歩きだしお店に入ってしまった。仕方ない、ジュリエットはじっと見守った。
「よう!」
ロミオは扉を開けるなり、気さくに子供に話し掛けた。子供はびっくりした余り椅子から転がり落ち、ロミオをじっと見つめた。
「お兄ちゃん、どこから来たの?」
「俺は、隣街から。パンは買える?」
「これは、だめ。」
「なんで?」
「これは、売り物じゃないの。」
「じゃあ、なんでここにあるの?」
「それは、差し上げるものだから寝かせているの。」
太っちょの男の子が、家の電気を付けた。その瞬間、男の子のお腹がウニョウニョと動くと脂肪が服から飛び出した。ロミオは何があったのかわからず立ちすくんでいると、お腹から飛び出したのは脂肪ではなく、腸だった。あっという間に腸がロミオに迫って来る。
(ヤバい!)
慌てて出口に向かって走り出したが、遅かった。腸は首に巻き付くなり、一気に締め上げてきた。
「お兄ちゃん、おいしそう。パン粉はお兄ちゃんの骨で作るね。」
「ジュリー!」
何とか首を絞めようとする腸を手で押さえあらん限りの声で叫んだ。
それと同時に扉が開くなりジュリエットが駆け込んできた。
「やめて!」
ジュリエットが走り出し男の子に掴みかかった。男の子のお腹から再び腸が飛び出しジュリエットの首に絡もうとする。
だが、それよりも先にジュリエットは手に持ったライターの炎を男の子の髪の毛に点火した。
「わぁぁぁあ!」
男の子は飛び上がるなり、絶叫しながら壁に頭をこすりつけた。
腸は一気にお腹に吸い込まれ、お腹の中で暴れた。
火は壁に移り、男の子の頭はごうごうと燃えはじめた。
ロミオは直ぐさま、ジュリエットの腕を掴んでお店を飛び出した。
「ママぁ!」
「どうしたの!」
別の声が聞こえ、外から様子を見ると、太っちょのママが男の子の火を消し、パパが壁の炎を消そうとしていたが、お店の中にどんどん火が燃え広がり始めていた。
「危なかった。迂闊なことは出来ないな。ありがとう。」
「だから言ったじゃない!」
そのまま走り、石畳の街を駆け抜けた。さっきのパン屋の騒動で、街が慌ただしくなっていた。
「誰か来る!!」
たくさんの足音が聞こえ、家の影に隠れた。影から見ていると、皆異様な格好をしていて、それは人間ではなかった。姿形は人間に似ているが、眼球が飛び出していたり、頭から植物が生えたり、グリュー達と同様悪魔の姿だった。
「うぅ…」
ジュリエットは声を押し殺して嗚咽した。今になって恐怖心が押し寄せて来たのだ。
「大丈夫か?」
「あんな…子供に火を付けたなんて…。本当は脅すつもりだったのに、そんな暇も無くて…。」
「ジュリーが、あの時助けてくれなきゃ俺は死んでた。もし、ジュリーが罪の意識を感じるなら、それは俺の罪だから。全部俺のせいだから。」
ジュリエットは苦悩の表情を浮かべながらも顔を上げた。
「ん…。行こう。」
再び走り出した時、叫び声が聞こえた。
「きぇぇぇ!」
「ジュリー!ヤバい!」
ジュリエットが声のする方を探すと、空から緑の羽を生やした悪魔がジュリエットに覆いかぶさった。
「ひっ…!」
ジュリエットはロミオを巻き添えにして倒れ込むが、すぐに、悪魔の手に捕まれあっという間に空を飛んでいた。
「ジュリー!」
ジュリエットは空に浮かぶと一気に振り落とされた。
「キャアアア!」
ジュリエットが地面に落下するなり、今度はロミオが悪魔の手に捕まった。
「ああああ!」
ロミオは叫ぶなり、何かを振りかざした。それが、ナイフであることに気づいた時には、ロミオは悪魔と一緒に地面に落下していた。悪魔は首を掻き切られ、ヒクヒクと痙攣していた。血は出ないらしい。
「行こう!こいつは既に死んでるから、すぐ追いかけてくるかも!」
「もぉ、痛いし訳がわかんない!」
パン屋の火が燃え広がったのか、空が朱くなり、一気に明るくなっていた。罵声や不思議な悲鳴が聞こえて来る。
二人はそのままダッシュし、森を目指した。だが、不思議なことにいくら走っても森が見えない。
「ねぇ…」
ジュリエットは息を切らしながら立ち止まった。
「街からは森が見えないんだけど。」
ジュリエットは青ざめながら言った。二人は改めて辺りを見回したが、街からは森どころか、目指している崖さえ見えない。
「ヤバい。何かわからないが、何かに取り囲まれてるのかも。」
「どういうこと?」
「テーマパークの特殊効果を知らないか?内側からは外の景色が見えないように設定して設計されているんだ。その理由は外の景色が見えてしまうと夢の世界と現実が混在してしまうからだ。」
「それは知ってるけど…。その世界に夢中になるためでしょ。ここにはいらない効果じゃない。」
「何かのバリアが張られているのかも。」
「そういえば、シェイクスピアもバリアで森が出られないとか言ってたわ。」
「この街には何かあるな。何かはわからないが、ここを突破にしないと。」
その時、お店から人間が出て来た。二人は物置の陰に身を潜めた。だが、人間が後ろを向くと背中に大きな魚の脚が生えていた。
「うわっ…」
二人はそのまま様子を伺っていると魚人は光る硝子を持って立ち去った。
「あれ、何かな?」
二人がお店に近付くと、中にはたくさんの硝子が置かれていた。それこそ様々な形をした色とりどりの硝子。ジュリエットが丸い、ブルーとパープルの色をした硝子を持つと、突然硝子が光り浮き上がった。
「ロミオ見て!」
硝子は勝手に浮遊し、お店を出て行った。慌てて追いかけると硝子はコロンと地面に転がり、光りからシェイクスピアの顔が浮かびあがった。
「見て!シェイクスピアよ!」
「硝子の中に何故?」
転がった硝子を拾い、再びお店に戻った。再び、他の硝子を持ち上げると、それはどこか彼方へ飛んで行ってしまった。
ジュリエットが硝子を眺めていると、ロミオが突然大声を出した。
「ジュリー!ここに、魂の硝子と書いてあるぞ!」
「どういう意味?」
ロミオはカウンターに書かれた紙を必死に読んでいる。
「詳しくは書いていないのだが、この硝子に何か意味があるんだろう。とりあえず行こう!」そのまま店を飛び出すと、空が真っ赤になっていた。パン屋の火が周りの家にも燃え広がったのだろうか。その時、ロミオが目前の家に梯子が立てかけてあるのを見つけるなり登り始めた。
「気をつけてね!」
ロミオは、屋根に登り切るとジュリエットを手招きした。
「森に行けそうだぞ!」
「本当!」
直ぐさまスカートをめくり上げ、梯子を登り切ると一気に視界が広がった。一面には、さっき歩いていた森が飛び込む。反対側では、パン屋の火が、周囲に燃え広がり激しく火柱をあげながら燃え広がっていた。協力し合ってバケツで水をかけ合っているのが見える。こういう時こそ魔法が使えたらいいのに、なんてジュリエットは思うがすぐに頭を切り替えた。ロミオが屋根を伝って近くの塀に移った。
「ちょっと高いな。ジュリー、梯子は持ち上げられるか?」
「ちょっと待って!」
梯子は思いの外軽く、素早くロミオに手渡した。それを塀にかけロミオは慎重に降りていく。ジュリエットも塀に渡り梯子を伝って下に向かう。3メートルはある。スカートで全く下が見えず、何度も踏み外しそうになりながらやっとの思いで地面に降りた。
「ジュリー。」
「ん?」
「パンツ見えてた。」
「はっ?って…最悪っっ!」
ジュリエットは真っ赤になりながら、ロミオをポカポカと叩いた。ロミオは笑いながらジュリエットの反撃を受けていたが、突然森から物音がするなり、ジュリエットを抱きしめて伏せた。
「ななな、なに!」
「シッ!」
木の影から何かが動く。二人は息を飲み、ただ黙って様子を伺った。