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悪魔の世界

ジュリエットは、ゆっくりと階段を降りていた。横に蝋燭立てがありうっすらと辺りを照らしている。 何段下ったかもわからないくらいに長い階段だった。何度か引き返そうかとも悩んだが、先が気になり戻れなかった。 階段を抜けると、森だった。地下のはずが、空にぽっかりと月が浮かんでいた。ダークグリーンの空のせいで、街全体が緑に見えるし、濃霧で覆われている。更にレッドムーンが怪しい光を投げ掛けている。 街はベローナの風景とは全く異なり、森や、教会、山などが見えた。


「ここ、どこ?」


ふっと、背後に気配を感じて振り向くといつの間にか階段が消えていた。


「嘘!どうしよ!」


ジュリエットは焦って真っ青になった。

一面は木々に囲まれ、真っ暗だ。ジュリエットは後悔に苛まれながらどうしようもなく、光の付いている教会に向かって歩き出した。

教会はベローナにもあるような、一般的な教会だが、十字架がクロスでは無かった。バッテンの中央に心臓のようなものが付いたマークが飾られている。


木製のドアを開けると、中は朱いシャンデリアのライトで照らされ、縦にきっちり並べられたたくさんの棺があった。

ジュリエットは一瞬目を疑うも、すぐに恐怖で立ちすくみ、後退った。その時、強い風が吹いたかと思うと、ジュリエットの肩に誰かが手を乗せていた。

思わず振り返ると、そこには、緑の肌をした、黒いシルクハットを被った男が立っていた。


「きゃああああ!!」


ジュリエットは、恐ろしい出で立ちの男を見るなり絶叫していた。鳥肌が全身に立つ。


「いやぁぁあ!」


「ヒヒヒ…」


ジュリエットは一目散に走り出した。だが、男は飛ぶようにジュリエットの横を並んで走っていた。


「ヒヒヒ…」


「あっち行って!」


泣きながら金切り声で叫んだが、男はジュリエットの行く手を阻んだ。


「ヒヒヒ。久しぶりの人間だな。」


男は地を這うような低い声で喋りだした。

ジュリエットはそのまま硬直し、恐怖で血圧がどんどん下がりも倒れた。


「お嬢さん、ここがどこだかわかってるか?」


何も言えない。頭がクラクラする。


「ヒヒヒ。直ぐには食べないから安心しろ。」


そう言うなり男のマントがジュリエットを包み込んだ。

何が起こったかもわからないうちに、ジュリエットは意識を失っていた。


*   *   *   

ジュリエットはひんやりとした空気を感じて目が覚めた。冷たい、床…。うっすら目を開けると、果てしなく高い天井が目に映った。シャンデリアがうっすらと明かりを放っている。


「あっ!」


一瞬にしてさっきの出来事が頭の中を駆け巡り、目が醒めた。

何が起きたのか検討もつかない。いつの間にかジュリエットは真っ赤なドレスに着替えていた。上半身はシンプルだが、スカート部分にはたくさんのレースがあしらわれた華麗なドレスだ。

辺りは灰色の煉瓦作りで、近くに暖炉がある。

そして、ここはダイニングだったのか、たくさんのテーブルや椅子並べられていて厚く埃をかぶっていた。どうやら何年も使われていないようだ。そして、近くには螺旋状の階段があり、ここだけはキレイだった。

その時、ドスンドスンと足音が聞こえてきた。


(逃げなきゃ!)


心臓が跳ね上がり脈拍が上がった。自分の心音が辺りに響いているようだ。


駆け出した時に、今までに履いたこともないような高いヒールを履いていることに気付いた。だが、不思議なことにも、恐怖が打ち勝ち上手く走れた。


隠れられそうな場所はなく、思わず暖炉の中に入り込んだ。ドレスの裾を捩込むと煙突の階段に手をかけようとした時、物凄い力で両足を引っ張られた。


「きゃああ!」


一気にダイニングに戻され体が床でバウンドした。


痛いよりも、何があったのかわからない恐怖心が打ち勝った。


「こいつか?」


ダイニングには人間とは思えない出で立ちの輩が何人もいた。


一人はさっき居た緑の皮膚をしたやつだ。他には青や赤の皮膚をした奴や、身長がゆうに3メートルはある奴、逆に1メートルもない奴…全員がジュリエットを取り囲んでいた。


「お前。名前は?」


緑の肌の男が聞いてきた。ジュリエットは恐怖で声も出なかった。


「俺はグリュー。何しに来た?」


「あ…あたしは…。」


「そんなに泣いちゃって赤ん坊か?」


グリューは笑いこけながらジュリエットを覗き込んだ。よく見ると、口は裂け尖った黄色い歯が見える。血走った目元には睫毛がびっしりと生えていて恐ろしい目元を強調している。


「ジュリエット。」


やっとの思いで口にした。その言葉が、ダイニングに響く。それと同時にザワザワと何か話す声が響いた。ジュリエットには、それが何語かは、わからなかった。


「ジュリエットだと?」


グリューはジュリエットを睨みつけた。


「ヒヒヒ。あの憐れな女がまた一人増えたのかな。ロミオ〜助けに来て〜。」


グリューは再び笑いこけると、着ているマントを開いた。マントの中には、ぎっしりとナイフや刀、銃などが付けられていた。だが、それよりもグリューには体が無かった。肩と腕はあるが、胴体の部分は細い糸のようなもので、下半身に繋がっていた。


「おっと。ビックリ?これは、腸で繋がってるんだ。」


グリューはニヤッとした。

「きゃああああ!」


ジュリエットは一目散に駆け出すと長い廊下を抜けて、階段を下った。

誰も追いかけてくる様子は無かった。


(ああ!あたし、死んじゃうの?)


階段を下ると、すぐ目の前にキッチンがあった。そこに駆け込む。

広いキッチンは月明かりに照らされていた。だが、暗がりの中でもわかる。そこは、血の海だった。壁や床、至るところに血痕のあとがあり、所々に転がる物体が、惨劇を物語っていた。ジュリエットは失神しそうな恐怖に襲われながらキッチンを飛び出し、廊下を駆け出した。

何も見えなかった。というより、見ることが怖かった。

ドンッと衝撃が全身を駆け抜け、後ろに倒れそうになると、体がガッチリと拘束された。あっという間に3メートルの大男が両手でジュリエットを持ち上げていた。


「なんで、逃げる?」


「お願いだから、降ろして!」


「ヤダ。逃げるんだろ。」

大男は大きな顔をジュリエットに向けていた。異様に瞬きの回数が多くて、どんな目をしているのか検討もつかない。


「ジュリエット。」


後ろからグリューの声がした。


「このロミオが助けに来ましたよ。」


ニンマリと笑う不気味な顔。


「あたしを、どうする気?」


「俺達はよそ者が大好物でね。ヒヒヒ。」


冷や汗が噴き出した。殺されるかもしれない恐怖が全身を駆け抜け震えが起こる。


「グリュー!」


赤い顔をした、男が叫んだ。


「ダイアナが白を抜け出したぞ!」


「何!ヒヒヒ。ジュリエット、命拾いしたな。パース、ジュリエットを鳥かごに入れておいてくれ。」


パースと呼ばれた大男は、部屋を移動すると、天井に釣らされた鳥かごにジュリエットを入れて鍵をかけた。


「ばいばい。」


パースはドスドスと去って行った。ジュリエットは、鳥かごに倒れ込むなり、ありったけの声で叫んだ。


落ち着いてから辺りを見回すと、鳥かごは床から5メートルほど離れていて、回りも鳥かごだらけだった。床にも天井にも、巨大な蝋燭がたくさん立てられていて、眩しい光を放っている。


(今のうちに逃げよう!)

鍵を見ると、案外簡単に取り付けられていた。それに、細身のジュリエットは、柵も抜けられそうだ。

ただ、問題は高い、ということ。飛び降りたら、骨折するかもしれない。

しかし、ジュリエットの頭には閃きがあった。隣にかかる鳥かごを伝って窓まで行くことだ。部屋の1番隅に円形の窓がある。あそこからここを出られるかもしれない。

ジュリエットはお腹を引っ込めて柵を通り抜けた。

ギリギリ通り抜けられる幅だったことに感謝だ。

隣の鳥かごに入って、抜けてを繰り返し、ついに窓にまでたどり着いた。

窓から外を見ると、ずっと先の切り立った山の頂上に光に包まれた城が見えた。光は、まるで雷のように天から降り注ぎいではパッと付けたり消えたりしていた。

窓から下は、10メートル以上の高さがあるが、梯子が掛かっていた。

ジュリエットは慎重に梯子に足をかけてゆっくりと降りた。


途中、ステンドグラス越しにグリュー達の姿が見えた。


「ダイアナは城に戻ったそうです。」


「馬鹿な女だ。何度も何度も。なんであんなのがここに来たのか訳がわからん。」


「それは、悲劇を好むサタン様の趣味なのでしょう。御自身の奥様はここにはいませんからね。」


「それは、言うな。必ず連れ戻すからな。」


「はい。」


「ジュリエットの生き血を杯に盛ろう。サタン様が奥様にかけるだろう。」


「それよりも、あいつが手出しをしてこないといいのですがね。」


「ここにいれば、こっちのものだ…」


会話の内容はさっぱりわからなかったが、ここにいたら間違いなく殺されるだろう。


(こんなところで殺されるなんて、絶対嫌!)


ジュリエットは再び急いで梯子を降りると、森にダッシュした。ここがどこかもわからないから、もと来た道もさっぱりわからない。

ジュリエットはヒールを手に持ってひたすら走った。

*   *   *   

どれだけ走ったかわからない頃、ついに息切れし、木にもたれ掛かり一休みすることにした。


足がすっかり泥だらけになり、痛くなっていた。ジュリエットは思わず嗚咽を漏らしながら啜り泣いていた。


(あたしって本当馬鹿なんだから!帰りたいよ!)


その時、ガサガサと足音が聞こえた。


(ああっ!もうおしまいだ!)


本当にピンチの時に助けなんて来ない。ジュリエットは恐る恐る顔を上げた。


だが、そこには思いも寄らない人がいた。端正な顔立ちで、全身黒いスーツを来た金髪の男の人が立っていた。


「ジュリアン…」


その人は、ジュリエットの顔を撫で、抱きしめた。


「危なかったね。無事でよかった。」


ジュリエットは抵抗も出来ず、されるがままだった。

「待っていたよ。君が来るのを。」


「だ…誰?なんで、あたしを知ってるの?」


「私を忘れてしまった?」

「私はジュリアンじゃないわ。ジュリエットよ。」


「え?ジュリエット?手紙は?」


「手紙は?手紙って、あれ貴方が書いたの?」


「私がジュリアンに書いたものを何故君が読んだんだ?」


「あたしに届いたからよ!あんな手紙さえなきゃ…」

「何故?住所を間違えたかな。」


「そんなことは、どうでもいいの!ここから帰るにはどうすればいいの?」


「私の執筆を完結させることだよ。」


「執筆?しっ…執筆?」


「そう。」


「ま、まさか、貴方…?ウィリアム・シェイクスピア?」


「その通り。」


ジュリエットは信じられないと絶句した。一瞬、頭のおかしい人なのかと思ったが、こんな不気味な場所に来てしまったから本当にウィリアム・シェイクスピアかもしれない。


「な、なんで、あんな手紙を出したの?」


「ジュリアンにこの世界を救ってほしいからさ!」


「救うってどうやって?」

「ダイアナとエリックを助けてほしいんだ。ここは悪魔の世界。2人は今度こそハッピーエンドにしてあげたいんだ。」


「今度こそって?」


「ダイアナとエリックはロミオとジュリエットのモデルで死後結ばれたと設定にしたんだ。実際にはエリックが病気で亡くなったのをダイアナが追いかけたんだがな。」


「へえ。でもどうして、あたしが助けなきゃいけないの?」


「ジュリアンはダイアナの母親だからさ。だから、ジュリアンなら助けに来てくれると思ったら…そしたら何故か君が来た。」


「そりゃそうよ。貴方が生きてた時代から何年たってると思ってるの!」


「え?君はいつから来たの?」


「2010年よ!」


「なんと。400年以上もたっているのか!通りでジュリアンの顔が曖昧になってるわけだ…。というか、まさか、ジュリアン…。」


シェイクスピアは涙目になると悲しそうに俯いた。


「もう、いないのか。だが、天国に行ってくれたならよかった。」


「天国?ここはどこなの?」


「ここは、スィタンで生き返った人達が生き返る場所なんだ。ようは地獄だよ。人肉を食べたものは姿形が変わり、今でも人肉を捜し求め、君のように迷い込んで来た人を食べているよ。そしてサタンに生き血を捧げ、女王を生き返らせようとしている。」


ジュリアンは真っ青になった。


「危なかった。やっぱり殺されるとこだったのね!早くここから脱出したいの!どうすればいいの?」


「残念ながら、ここから脱出するには方法は一つしかない。」


「何?」


「エリックとダイアナを天国に連れていくことだ。その時、再び階段が現れる。天国というのは、現世のお墓のことだよ。だからその時一緒に階段を昇るんだ。」


「え?こっちに来るのは簡単なのに、戻るのは、そんなことしなきゃならないの?」


「来るのは簡単だ。それは君が望んだからな。だけど帰るのはこちらに従ってもらうしかない。」


「そんな…望んだなんて…無茶苦茶な…もう、最悪。」


涙がこぼれる。だが、ここで、泣いていたらいつ、さっきの化け物達に捕まるかわからない。


「教えて…エリックとダイアナはどうやって助けるの?」


「エリックは血の崖の城に、ダイアナは雷の崖の城に閉じ込められている。2人が閉じ込められている理由はなんだと思う?」


「わからない。」


「少しは頭を使うんだ!サタンが妻と離れ離れになっている!エリックとダイアナが結ばれるのが妬ましいんだ。」


「わかった。怒らないで。ねえ、現世に行くなら貴方を連れては戻れないの?」

「残念ながら、私の棺はもう、ここにあるんだ。」


ジュリエットは来た時の教会を思い出した。


「棺がここにあるということは、私は現世に場所がないということだ。スィタンに荷担した者は棺がここにある。天罰だな。エリックやダイアナは葬式前に遺体を盗まれたから、空の棺が現世にある。」


「わかったわ。一刻を争うわね!行きましょう!」


「残念ながら、私は行けない。この森から出られないように私は拘束されているんだ。」


「無理矢理突破出来ないの?」


「無理だ。だが、崖に行くまでの道は案内出来る。」

「わかったわ。ところで、2人を救い出すのは簡単なの?」


「簡単なら、2人だっていつまでも閉じ籠められてないさ。だが何があるのかは私にもわからない。」


「こんな動きにくいドレス最悪!」


「おや。そのドレスはもしかしてグリューの…」


「そうよ!」


「マズイ。明らかに狙われてるな!行こう!」


2人は森の中を駆け出した。


*   *   *   

その頃、ロミオは階段を下りきり、森に降り立った。

「なんだ、ここ。」


不気味な場所があることは覚悟していたが、まさかこんな所に来るとは。


「ジュリー!」


呼びかけてみたものの、反応はない。自分の声が反響し辺り一面から聞こえてきた。


(ここはヤバい。行こう!)


ロミオはダッシュし森を駆け抜けた。途中、教会が見えて中に駆け込んだ。中には異様な数の棺が納められていた。思わず棺の中を確認するも中には何も入っていなかった。棺には、それぞれ名前が印されており、1600年代に亡くなった人がほとんどだった。


(この時代は、もしかしてスィタン信仰者の棺か?)

壇上に上がると、カーテンに隠れてピアノがあった。そこには、髪の長いやせ細った女性が座っていた。


「あの…」


その人は、少なくとも生気は感じられなかった。干からびた体には血の通う皮膚ではなかった。だが、ピアノを弾こうと指だけがガタガタと震えていた。


「…けない。」


「え?」


ヒュンと風が吹いたかと思うと、女は目と鼻の先にいた。


「ピアノが弾けない!」


顔には目は無かった。しわしわになった、灰色の皮膚、だが物凄い力でロミオの体を取り押さえていた。


「うわぁぁぁぁ!」


全力で女を振り払うとダッシュで壇上を飛び降りて教会を飛び出した。


森に戻るとそのまま、止まらず走り続けた。


その時、目前に緑の肌をした男が現れた。


「うわっ!」


急ブレーキをかけ立ち止まった。


「ご機嫌よう。」


「なんだ?人間…じゃない?」


「いい質問だな。俺は元は人間だ。」


「元は…」


頭の中はまだ整理出来ない。少なくともここはベローナではないし、血の通う暖かい人間はいそうにない。

「ジュリエットは?」


「ジュリエット?」


「ジュリエットを捜してる。」


「ヒヒヒ。あいつのことか。」


男は舌なめずりをした。


「旨そうだった…。」


「なっ…!」


「残念ながら逃げられたよ。代わりにお前を頂く!」

男はロミオに馬乗りになった。その瞬間…


ドン!!


何があったかわからないが、男は3メートルは弾き飛ばされていた。


「逃げろ!」


見ると、金髪の男がロミオの前に立ちはだかっていた。


「お前!邪魔するな!まさか、女もお前が?」


「行け!」


男は指差しするなり、前を向き、緑の男と取っ組み合いになっていた。2人は宙に浮き、赤いオーラを放っていた。


「ありがとう!」


ロミオは混乱しそうな頭を抱えながらダッシュした。少なくともバックに詰めてきたものはたいして役に立ちそうには無かった。


*   *   *   

ロミオは指差された方角をひたすら走っていると目前に真っ赤な湖が現れた。

これでは先には進めない。

「赤い水だなんて、気味の悪い湖だ。」


「ロミオ!」


びっくりして振り返るとジュリエットがいた。


「ジュリー!見付けた!よかった!」


「シェイクスピアが言ってたのはロミオのことだったんだ!ロミオが来てくれたのね。」


ジュリエットは寂しそうに笑った。


「誰が、何を言ってたんだ?とりあえず。すぐに帰ろう!」


「ロミオ気付かなかった?階段はもう消えて無いの。」


「まさか。俺はそこから来たんだぞ。」


ジュリエットはこれまでの経緯を話した。それをロミオは、ただ信じられないという顔つきで聞いていた。

「そして、シェイクスピアは突然誰かが来たといって、あたしをここまで連れて来るなりどこかへ言ってしまったの。それがロミオだった。」


「信じられないな…まるでお伽話だ。だが、ここには、化け物がいるのはわかる。実際に会ったからな。それに、シェイクスピアがあの人とは…ゆっくり話したかった!」


「そんなことはいいのよ!それより、この湖を渡りましょう!」


「どうやって?」


「シェイクスピアがボートを作ってくれているの。彼はこの森からは出られないから、ここから先はあたし達だけよ。」


「ははは。笑えるな。まず、そのドレス。」


「これはいいの!あいつらに捕まる前に行くわよ!」

ジュリエットは木製のボートをロミオと湖に浮かべ、湖を渡った。湖はまるで、沼のようで、水というよりもドブのようだった。漕いでも漕いでも中々進まない。


「これじゃいつ向こう岸に着くのかしら。」


ジュリエットは漕ぐのを辞めた。向こう岸は、さほど遠くない。こっち側と違い濃紺に包まれた森、崖が二つ、そして、集落も見える。集落と言っても煉瓦建ての建物だ。


「ちゃんと漕がないと着かないぞ。」


ロミオが手を止めるなり、ボートは勝手に動き始めた。


「流されている割には…スピードが…早い!!」


ボートは一気に流された。

「きゃあああ!」ボートは一気に波に飲み込まれ岸に乗り上げた。


「ひゃあ!」


勢い余りジュリエットはボートから弾き飛ばされ、そのまま地面に激突した。


「いったぁい〜!」


ジュリエットは半泣きになりながら叫んだ。


「大丈夫か?ビックリしたな。ちょっと休もう。」


「最悪。手擦りむけた。」

ロミオはバックから絆創膏を出すとペタッと貼ってくれた。


「これ、元気出して。」


チョコレートバーと潰れた菓子パンを差し出した。


「もう、丸一日食べてないだろ。」


「丸一日?そんなにたったの?時間の感覚がなくてわからなかったし、お腹の存在も忘れてた。ありがとう。」


お腹に手を当てるなりキュルキュル言った。一口食べるなり、一気に空腹感が押し寄せてきてあっという間に食べてしまった。ロミオ菓子パンを頬張ると煙草に火を付けてふかし始めた。


「バックには何があるの?」


「救急セット、食料、煙草とライターと手紙。携帯、デジカメ、時計は止まってる。」

ロミオは腕時計を見せながら、フーッと息を吐いた。デジカメと携帯は確認すると、機能停止し使い物にならなかった。

食料は、他に、チョコのお菓子が4つとピーナッツしかない。


「まさか、こんなことになるとは思わ無かったからな。」


「あたしはここには、携帯しか持ってきてないけど、これを着る前に服もどっかに行っちゃったし…。あたし達生きて帰れるのかな。」


「さぁな。まず、ロミオとジュリエットを救い出すことが先だな。」


「こんな化け物達の世界で、太刀打ち出来るの?」


「現代人をなめるなよ。とは言え、別に手立てはないしな。本当、これは夢か?現実とは思えないな。」


落ち着いた状況で、やっと色々考えられるようになった。これは、夢だと思いたい。夢なら、目覚めればベッド!でも、目覚めるまでは悪夢の世界。


「なぁ、俺達が見たのは悪魔だな。」


「え?」


「サタンに仕える者達。つまり悪魔だろ。」


「もう、なんでもいいよ。あたし達が悲惨な状況には変わらないから。」


「これが、映画なら、かっこよく救い出して終わりなんだろうけどな。」


「少なくとも、映画の主人公じゃないわね。」


そうジュリエットは言うとロミオに肩を借りて少しの間眠った。極度の疲労だったらしい。


恐ろしいことにも、悪夢は十分見たのに、目覚めても、そこは変わらない悪夢のままだった。

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