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ジュリエット

ダークファンタジー初挑戦です。


一部の地名や戯曲を除き全てフィクションです。


よろしくお願いいたします。

「ジュリー、あなたに手紙来てるわよ。」


「え?あたしに?」


ジュリエットは、蝋で封をされた白い封筒を不思議そうな瞳で見詰めた。


「お店に手紙が来るなんて珍しいわね。」


宛名を見ると、イタリア語ではなかったが、かろうじてジュリエットの名前と番地だけは読める。

差出人の名前は無かった。

(帰ったら確認すればいいか。)


ジュリエットは、更衣室に行き、バックに手紙を入れると、すぐにカウンターに戻った。


ここは、イタリアのベローナ。

ジュリエットは、中心街であるシニョーリ広場の一角にある花屋の「プレセア」で働いている。

ベローナは、あのシェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」の舞台となった場所だ。

観光地でありながら、美しい佇まいをした町並みに、伝統的な文化を今も受け継いでいる。


ジュリエットの名前は、もちろん、両親のロミオとジュリエット好きから由来して取られた名前だ。本名はジュリエット・ヴァン・ギャルティエで、愛称はジュリー。

20歳の花屋の見習いを職業とするおしゃべりとオシャレが命の女の子。


「ジュリー、今日はもう上がっていいわよ。」


店長のダイアナがパソコンとにらめっこをしながら、ジュリエットに声をかけた。


「はい。お疲れ様でした。」


ジュリエットは、鉢植えをお店に入れ終えると退社した。

紺色の空に瞬く星。

シニョーリ広場の近くにある店だからいつも人の出入りが堪えない。

観光客がいない暗い裏道を車を走らせ家路へと急いだ。

ベローナ郊外がジュリエットの自宅だ。

同じ形をした赤煉瓦作りの家が建ち並び酔って間違ったことは数知れず。


「ただいま。」


「お帰りなさい。」


ママがキッチンからニコニコ顔を覗かせた。


「今日はローストビーフよ。」


「誰か来るの?」


「いいえ。ママとパパの結婚記念日なの。準備を手伝って。」


「支度してくるね。」


ジュリエットはクスリと笑うとリズミカルに階段を昇って部屋に行き部屋着に着替えた。


部屋を出る前に、バックから昼間の手紙が顔を覗かせているのに気付いた。


(すっかり忘れてた…)


手紙をポケットに入れて階段を降りた。


洗面所で化粧を落とす。真っ白い肌に、大好きなグリーンの瞳。化粧が大好きだから濃くなってしまい、帰宅するとすぐに落とすことにしている。ウェーブのかかったゴールドヘアーを縛り直しキッチンに向かった。


「今日はケーキも作ったし豪華よ。さ、お皿によそって頂戴。」


ジュリエット達が準備を済ませた頃にパパが大きな花束を持って帰ってきた。

抱き合ってキスする二人が微笑ましい。毎年ベタな演出をしているけれども、憧れの夫婦で自慢の両親。


「ダーリン、今日はご馳走よ。」


「マリアは料理上手だからな。」


そんな、暖かい会話に包まれている中、妹のローザが降りてきた。


「ママ、明日からダーリンの家に行くね。」


18歳で結婚し、現在妊娠9ヶ月。今は出産に備えて実家にいる。


「あら。シルビアは、明日から忙しいんじゃない?」

「その目前の休み。」


ベローナでは、毎年、アレーナ(円形闘技場)で野外オペラが2ヶ月に渡って開催される。

明日は開催初日だ。ローザの旦那のシルビアは観光業を営んでいるのでこれから、一気に忙しくなるようだ。


「オペラのチケット取った?」


「もちろん、来週のロミオとジュリエットを4枚取ったわよ。」


この野外オペラでロミオとジュリエットを見るのが一年で一番楽しみ。


「さ、ご飯にしましょ。おしゃべりはそれからよ。」


4人の会話は尽きることなく続いた。

ママとパパの馴れ初めからオペラのこと。ローザの赤ちゃんの話やジュリエットのお店の話…あっという間に時間は経っていた。


「あら、もう遅いわ。片付けて休みましょ。」


パパとローザは先に部屋へと行き、ジュリエットとママで手分けして食器を洗い、棚へと手際よく戻した。


「あら、ジュリー。ポケットに何入れてるの?」


ママが不思議そうに聞いてくるまですっかり忘れていた。


「あ、これ。お店に手紙が届いたのよ。でもイタリア語じゃなかったみたいなの。」


「見せて。」


ママは、ヌオーヴォ大学で言語学を専攻していたから聞こうと思ったのをすっかり忘れていた。

ママは難しい顔をし、手紙を見つめていた。


「ん〜。これは、難しい言語ね。」


「どこの言語なの?」


「別名は、スィタン語と呼ばれてるわ。」


「別名ってことは、本名があるの?」


「本名…えぇ。スィタンとは、サタンを意味するの。つまり悪魔の言語。」


「悪魔?」


「これは、昔悪魔書を書くのに用いられた言語なの。中身がばれてしまうと処刑されてしまうことから、スィタン語が誕生したのよ。残念ながら、ママは書体しかわからないわ。」


「そうなの…」


「でも、なんでこんなものがジュリーに?スィタン語の悪魔書は全て廃棄されて、その信仰は途絶えたとされているのよ。」


「わからないわ。あたしにも…」


「嫌な予感がするわね。ロミオに会ったら?」


「ロミオ?」


ロミオはジュリエットの4つ年上の幼なじみだ。頭が良くてローマの高校に行ってしまって以来親交は途絶えていた。

しかも、名前がロミオだから、学校で一緒にいるとからかわれて、あまりいい思い出がない。


「なんでロミオ?」


「彼、ヌオーヴォ大学の言語学科の大学院にいるそうよ。」


「えっ!そうなんだ!」


「実家にはいないみたいだから、明日ママがパルステさん宅に連絡しておくわね。」


「ありがとう。でも、なんでそんなに、協力的なの?」


ママはため息を付きながらジュリエットを見つめた。

「スィタンの信仰はかなり際どいものだったの。ジュリーが何かに巻き込まれたら困るからね。」


「わかった。明日、連絡先わかったらメールして。」

「えぇ。」


ジュリエットはお休み、と告げると手紙を持って部屋へと戻った。


部屋から見える星の間に、レッドムーンが不気味に輝き、まるでニヤリと笑う口の形をした半月を空に描き、これから起こる不吉な予感を煽っていた。


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