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うらわVer.2

作者: 羽生河四ノ

 浦和駅はイワンコなのです。

 ポケモンスタンプラリー 2024の話です。他の駅が何なのかは知りませんが、とにかく浦和駅はイワンコなのです。みどりの窓口の所にスタンプラリー台があり、その上にインクとスタンプがあって、イワンコの紹介画像、グラビアが貼ってあります。

「浦和駅はイワンコなんだ」

 と見る度に思います。ポケモンは初代と、リーフグリーンとルビー、所謂ゲームボーイアドバンスのものしかやった事はありません。だからイワンコは知りません。最近のポケモンなのだろうと思います。ただ、知らないとは言え、それを無下にすることはしたくありません。

 子供の頃、それこそ、グリーンレッド(+ブルー)が流行った後、ゴールドとシルバーが出た時、私達子供は、子供であるがゆえにそれを馬鹿にするという様な事をしていました。

「なんで、金とか銀なんだよ」

 金とか銀というのはなんというか、あまりにもあまりにもじゃないかと、子供だった私達は思ったのです。あまりにもというのは、もう察して下さい。露骨というか、なんというか、それはもう、露悪的じゃないかというか、何かそういう感じです。

 本当に。

 本当にそんな風に考えていたのです。今考えると、思い出すと恥ずかしくて愚かしくてゲロ吐きそうになります。最も私はそうでしたが、他の人達はどうだったのかわかりません。

「金とか銀とかなんかなあ」

 なんて言いながらも、そうは言いながらも買ってプレイしていたのかもしれません。その辺はどうだったのかわかりません。

 そう言う感情の大半が反転したのは大人になってからです。

「きっと面白いんだろうな」

 今はそう思います。あの時、あの当時、子供の頃に考えた諸々の事を無かった事にしたい。過去に戻ってやり直したい。改変したい。そう思います。本当にそう思います。一生叶わないんだろうなと思います。

 とにかくそんな訳で、浦和駅のイワンコに対しても、悪いような感情は湧きません。

「浦和駅はイワンコなんだなあ」

 って思います。イワンコの事を知りませんが、とにかく、イワンコなんだなあ。と思います。あとイワンコのカラーリングのせいでしょうか。その姿を見ているとジグザグマの事を思い出します。それに伴ってジグザグマが進化したらマッスグマになった時の衝撃がわずかに思い起こされます。

「ジグザグだったのに進化したらまっすぐになるってなんだこれ!?」

 というような感情です。

 そんなイワンコのスタンプが浦和駅には設置してあります。ポケモンスタンプラリー 2024です。

 私が浦和駅を利用する時間帯にいつも、スーツを着たお父さんみたいな方が、スタンプ台の前にいて何か専用のスタンプ台帳みたいなものにスタンプを押しています。私はそれを見るともなく見ながら己の思考にふけります。

「ポケモンスタンプラリー が好きなんだろうなあ」

 とか、

「子供に頼まれたのかなあ」

 とか、

 そういうのです。そういう事を思って微笑ましく思ったり、子供の頃の自分の事を思い出してゲロ吐きそうになったりします。

 浦和駅の改札を抜けてエスカレーターを上がりホームに出て電車を待っていると、後ろのベンチに座っていた二人組が話をしていました。

「ポケモンスタンプラリー のあのスタンプ台あるじゃん」

「うん? うん」

「あれって普通は夜になったら、終電が終わって駅が閉まったりしたら片付けるよな」

「まあ、そうなじゃない?」

「でも、浦和駅のって夜もずっと出てるんだよな」

「へえ」

「それになんか、他の駅でも、スタンプ台出したままって言う所があるらしいんだよな」

「ふーん」

「で、なんか噂なんだけど」

「噂?」

「なんか夜にスタンプ押しに来るやつがいるんだって」

「夜に生活している人とかじゃないの」

「いや、なんか違うらしいんだよな」

 何だろうそれ。私はその話を背中で聞きながら思いました。さっそく次の日、ちょうど週末だったので、近くにあるコミックバスター浦和店に行って、そこで夜になるのを待ちました。

 コミバで漫画を読みながら待って、夜中の一時を過ぎた頃、

「ちょっと松屋に行きます」

 とレジに行ってレシートを預かってもらって外に出ました。

 そして浦和駅に向かいました。終電も終わって駅によっては閉める所もあるだろうとは思うのですが浦和駅は開いたままでした。改札や駅ビル自体はもう暗くなっていましたが、浦和駅自体は通り抜けする人の為とかなのか、電気がついていました。ただ、もう誰も居ませんでした。

 私は西口から浦和駅に入り、階段を下って、みどりの窓口の前にあるポケモンスタンプラリー のスタンプ台の前まで行こうとしました。

 しかし、階段を下りようとした時。成城石井の脇の柱の所から突然人が出てきて、私はその人に肩を掴まれて止められました。そしてそのまま柱の陰に連れていかれました。

「え? え?」

 突然の事で驚きました。このまま殺されるのだろうかと思いました。

「しーっ、しーっ、静かに」

 声が聞こえました。そのまま、私は駅の外に連れていかれました。

 その人は警察の方でした。

 駅の近くにある交番の警察官でした。

 交番の前まで連れていかれて、そこで私は解放されました。

「何してたんですか」

 警察官にそう尋ねられて私は正直に話ました。

「夜にスタンプラリーに来る人がいるって聞いたんです」

「あれは見てはいけません」

 警察官は言いました。

「でも、浦和駅は開いてるし、通り抜けるとかだったら別に」

「開けてないとダメなんです」

 その様子には有無を言わせない感じがありました。

「この辺の人達はもうみんな知ってますよ。夜に浦和駅を通り抜けるような事をする人はいません」

「何がいるんですか」

 私が無遠慮にそう言うと、警察官は自らの顔を両手で覆いました。

「……スタンプラリーさえさせておいたらいいんです。スタンプラリーさえさせておけば、静かにしてるんですから……」

 だからもう用事がないなら帰ってください。そしてもう二度と夜に来ないように。間違ってもあれを見ようだなんて思わないでください。

「お願いですから、お願いしますよ本当に」

 私はコミックバスターに戻りました。その後、そこで朝になるまで眠れないまま過ごしました。コミックバスター浦和の天井にはいくつかの配管が走っています。それが何かの関係かで、時々鳴るのです。電車が走ったりしたら鳴るのか、近くを大型の車が走ったら鳴るのか、あるいは単純にコミックバスターの入ってる建物の中で何かあったら鳴るのか。分かりません。

 それが鳴る度、なんかこう、そこから、つなぎ目、配管の。

 つなぎ目から何か出てくるんじゃないかって。

 思って。

 思えてきて。

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