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藤堂

藤堂は追い詰められる。

藤堂は未だ夢の中だった。


それは自分でも分かる位に醒めた夢であった。


そして藤堂はひたすら夢の中で、怪人アカマントに切り刻み続けられていた。


藤堂はそれを第三者目線で傍観していた。


目の前の自分は、身体は半分位になり、顔も既に右頬から頭頂部にかけて大きく削がれており、アカマントは楽しそうにチョキチョキ切っていた。


そのゾッとする光景を、楽しそうに見ている自分に違和感は感じなかった。


むしろ穏やかな気持ちでそれを見ていた。


ふとアカマントを見ると、暗い相貌が、断片的ではあるが自分のそれになってきていることに気付いた。


先ほど切り取られた右の顔半分が、アカマントの顔に浮かんでいる。


アカマントが藤堂を切り刻めば切り刻むほど、アカマントは藤堂の身体をその身に置換していく。


なんかの漫画みたいだな、と藤堂は思った。


と、次の瞬間、突然アカマントが傍観している藤堂を見やった。




「ツ・ダ・・・」



ボソッと何かを呟いたようだが、藤堂は聞き取ろうと頭の中で反芻するうちに、藤堂は夢から覚めようとしていた。





藤堂がベッドから上半身を起こした。

横からヒッという短い悲鳴が聞こえた。

目は目脂で開きづらい。

必死に目を擦ると、ようやく光が瞼を切って入ってくると、そこはやはり自分の病室だった。

すぐ横には目を見開いて卒倒しそうな母親が座っている。

母親は全く状況が飲み込めていないようだった。


藤堂

「・・・死ぬかと思った」


母親の目にゆっくり、じんわりと涙がにじむ。


藤堂

「俺・・・生きてる・・・」


母親はベッドに突っ伏して、堰を切ったように泣き出した。

その弱弱しい母親の姿を見て、藤堂は申し訳ない気持ちで居心地悪かった。








同時刻豊島区警察署資料室


倉島

「もう一度今の巻き戻してくれるか?」


そう言われて、木村はリモコンの巻き戻しを押した。


資料室には倉島と木村しか居ない。

二人はその狭い部屋にあるブラウン管を、食い入るように見ていた。


ウィーンと機械が鳴り、VHSが逆再生される。


倉島

「止めろ」


映像が再生される。

そこには病院の廊下が映っていた。

そこへ、一人の看護婦がストレッチャーを引いて歩いてきた。カメラから遠いので、顔までは分からないが、恐らく藤堂を襲った犯人であろうと推測された。

彼女はナースセンターの方から落ち着いた足どりで、病室の前までやってくる。そして病室のカーテンに手をかけた。

すると病室のカーテンがぐらりと揺れ、中からハサミが出てき、看護婦の衣服を破いた。

看護婦は、その出鱈目なハサミの軌道を避け、ストレッチャーを蹴ってカーテンの向こうへと突っ込ませ、自分もまた病室へと消えた。

もう画面には誰も映っておらず、しかし甲高い笑い声がカメラに収録されていた。



弱ったな、と倉島が呟いた。

木村は疑念を確信に変えた顔をしている。

二人は顔を見合わせ、この後味の悪い事実を、どのように飲み込めば良いか考えあぐねているようだった。


それから沈黙を破ったのは倉島で、木村は素直に指示通りビデオをダビングしはじめた。それを確認すると、倉島は課長のデスクへと向かうため資料室を出た。


廊下を歩いている間、倉島は手元でマイルドセブンの箱を落ち着かない様子で弄んでいる。

その頭の中では、課長にどう報告するかを必死に整理していた。

それは、藤堂側の正当防衛と片付けられつつあった本件が、どう考えても藤堂の殺意に対する看護婦の正当防衛にしか見えないからだった。

近いうちに続きを上げます。

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