諸岡は刮目する
さぁ!盛り上がってまいりました!え?まだ読んでないからわかんない!?
いやいやいやいや、作者的にはガンガン盛り上がってきております!
もう興奮して寝れません!!!!
もっと緊迫感を!!
もっと恐怖を!!
もっと不気味さを!!
それを求めるたびに藤堂は苦しみ、一歩、また一歩暗闇へと歩んでしまいます。
それではご覧下さい!
あ、後ろの人にも見えるようにしてあげてくださいよ?
ホラ、あなたの後ろの人、さっきから読みたそうにしてますけど?
食器を下げて回った看護婦は、ナースセンターに戻ると、婦長や同僚と患者の申し送りを行った。
看護婦A
「--------次に、504号室の梨本さん、バイタルチェック異常なし。」
全員
「異常なし、了解」
看護婦B
「次に、505号室の藤堂さん、バイタルチェック異常なし」
全員
「異常なし、了解」
看護婦B
「加えて藤堂さんなんですが、病院食を残し気味で、赤い物だけ避けています。恐らく事件後、何らかの心的症状が出ているようです。担当の先生に連絡お願いします」
それから一通り5階の病室全ての申し送りが行われ、夜勤組と昼組は交代した。婦長は藤堂の担当医へ提出書類を書きながら「PTSD・・・少し面倒ね・・・」と、愚痴った。
午後11時
まだ藤堂の病室は明るかった。事件の関係もあり、藤堂は個室に入れられたため、消灯時間は無視しても問題は無かった。ただ、2時間ごとに来る看護婦は、あまりいい顔をしない。
勿論当直の諸岡看護婦も、同じであった。
「照明が消えてれば、私も仮眠ができるのに--------」
看護婦歴2年目の新人看護婦である諸岡は、看護婦の仕事に熱心ではない。何故なら彼女が看護婦の仕事を選んだのは、医者と結婚して玉の輿に乗ることが目的の半分であって、患者さんの為に尽くすという志しはおおよそ他の看護士よりは低かった。
諸岡
「やっぱり・・・・」
入り口のカーテン越しに見える藤堂の病室は、まだ明るかった。
この病院では当直の看護士は、明け方までの時間、看護士の半分が仮眠をとり、もう半分が当直勤務をこなす。
諸岡の算段では、藤堂が寝ているならば3,4時間程仮眠をとって、もう一人の看護士に申し送りをした後、もう一度正規の仮眠を取る、というものである。別に後ろめたくはない。誰でもやっていることだし、それで問題が起きたことはない。おまけに明日の夜は、合コンが企画されている。いつもは寝よう寝ようと思って、カタログを見て終わってしまう当直勤務であったが、今日こそはなんとしても寝ておきたかった。
諸岡
「藤堂くーん、まだ寝てないのー?」
先ほどまでの本心を笑顔の下に隠すことだけが上手くなった諸岡は、カーテンをそっと開けて入った。
そこで彼女は、一心不乱に切り絵に勤しむ藤堂を見た。変な子、という感情しか沸かなかった。しかしもし、彼女が申し送り書を読み込んでいれば、彼の異常を見抜けたかもしれない。
藤堂は看護士の声で我に返った。藤堂があらためて手元を注視すると、自分が裁ち鋏で赤い紙を切って、切り絵をしていることに気付いた。
藤堂は看護士に騒がれないように、静かにパニックをおこした。
諸岡
「切り絵の才能は認めるけど、こんなに病室を汚したらダメですよ?それより怪我もふさがってないんだから、早く寝て下さい?」
藤堂はそれに対して、ハイと返事するだけで精一杯だった。
何故自分は切り絵なんかを?
この紙はどっから?
何故裁ち鋏で?
・・・・・・・・・・・・何故赤い紙だけを?
パニックを諸岡に知られたくなかった一心で適当に嘘を付いた。動機が激しい。喉が乾いてへばりつく。そんな中、手だけが動き続けている。自分は何を切っているのだろう。
藤堂は怖くなって、右手の裁ち鋏を左手で取り上げた。良く見渡せば、病室中が赤い紙の破片だらけだ。
-----アカマント・・・
-----ヤツの仕業なのだろうか。しかしここは、あの時と違い病院であり、いざとなればナースコールで看護士が24時間呼べる。問題はない。そんなリスクを省みずにノコノコやってくるような愚かさはあの時感じなかった。それに、病院の前には警察が待機しており、何かの際には彼らが飛んでくるはずだった。一応自分は重要参考人なのだから・・・
気持ちを落ち着けるために藤堂は水を飲もうとしたが、水差しには一滴も残っていなかった。
仕方がないので、藤堂は共同洗面所に行くことにした。幸いなことにナイフの傷は深くなく、左手が上がりにくいだけで済んでいた。
暗い病棟、とは言ってもここは最新の設備が整った病院であり、足下には24時間電気が点いている。恐怖心を煽るような暗さはない。それに安心しながら藤堂は洗面所へ向かった。途中、諸岡を見つけたが、見つかるとドヤされるので隠れてよけた。
洗面所は廊下より暗かったが、水差しに水を入れるくらいのことは可能だった。
藤堂は蛇口をひねり、諸岡に見つかることはないだろうな、と後ろを警戒していた。水はちょろちょろ出しながら貯めた。あまりいっぺんに入れると、音で感づかれる可能性がある。
しかし諸岡という女はつくづく適当な看護士だな、と苦笑する。患者が寝てれば自分も寝れると考えている。看護士としてあるまじき行為であったが、藤堂は不思議と彼女が憎めなかった。以前夜中にナースセンターを横切ったときに見た彼女の横顔は、上杉さんに優る劣らず可憐だった。藤堂はその時、まるで歳離れた姉を見ているかのような気持ちになり、事件の直後であった彼にとっては何より癒された。それに、腕が悪いわけでなく、頭も悪くない。同年代に産まれなかったことが、少し悔やまれる程器量は良かった。上杉さん一筋を決め込んでいた藤堂でも、彼女を前にすると、その決意も物陰へ隠れてしまうのだった。
水差しに水が溜まったようだ。「さて、病室へ帰るか」と独りつぶやき顔を上げると、鏡に自分の顔が映っていた。濡らした手で髪を触り、少し整える。銀の髪がサラリと形良くまとまった。
藤堂
「・・・?」
はて、自分はいつから銀色の髪だっただろうか。
そういえばこんなに輪郭も長かっただろうか。
口はこんなに裂けたように真っ赤だっただろうか。
両目は絶望をたゆたえたこのように、真っ暗だっただろうか。
藤堂
「あぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
狂気を纏った叫びは病院中に響き渡った。
とっさのことなのに、諸岡は急いで洗面所へと走る。
突如バァァァーン!!、という爆発音の様な音が聞こえ、さらに足を早めて洗面所に駆け込み、電気を点けた。
そこには、虚ろな目で鏡を睨んでいる藤堂が居た。
何故だかその手に握った裁ち鋏を、目の前の鏡に深々と刺していた。
っしゃぁああ!
こんな時間に投稿しますけど明日部活ですって(笑)
ちなみに同時進行で、青春部活物をやろうか迷ってます。
プロットは出来ている上、こっちはテンションバリ高なので、割と楽しく、サクサク読めると思います。もしこっちの完結前に書き始めたら、そちらもよろしくお願いいたしますm(_ _)m