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旅路の徒然 ~おい、相生。その程度で旅人を気取るたぁ、てめぇはまだまだ、蒼い!~  作者: 相生蒼尉


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またしても山から海へ。勧善懲悪の街と聖地観光。だが、旅はここで、終わるの、か……

かつて訪れた茨城でのこと。そこでの思い出に、私が思ったこと。旅路にて相生が思ったことを徒然に。鉄旅。歴史旅。聖地観光。水戸、弘道館、配水塔、偕楽園、大洗、マリンタワー、ガルパン、さんふらわあ。相生の旅エッセイです。


カクヨム先行で公開しています。




 朝、昨日からの雨は勢いを失ったものの、まだ降り続いていた。

 雨に気落ちして、少し出発が遅れたため、予定していた時間には乗れず、一本、遅らせることになってしまった。やはり雨は旅の天敵。


 東武日光を横目にJR日光駅を目指して、小さな折り畳み傘の下で歩く。

 今夜は水戸のホテルを予約している。どれだけ雨が嫌でも、水戸までは必ず移動しなければならないのだ。


 JR日光駅は、果ての終着駅だ。今回の旅なら、男鹿駅と同じ。この先はない。ここまで、という限界がどこか切なさを感じさせるのだ。

 伊豆急下田駅も果ての駅だが、JR日光駅のようなここで終わり、という侘しさのようなものはそれほど感じられなかった。到着したのに、ここから始まるとさえ感じたのだ。伊豆急行では伊豆急下田駅がもっとも立派な駅、というのもあるのかもしれない。

 例えば南海なんば駅も南海沿線利用者にとっては終着駅でもあるが、果ては果てでも、それは同時に起点となるターミナル駅でもあり、その先はどこにでも繋がっている。あと、ホームの数が多い。阪急梅田とか、近鉄上本町とか、西鉄福岡とかも同じだろう。あれはあれで、また違った味わいはあるのだが。


 日光駅からまずは宇都宮駅へと戻る。宇都宮線の上野行きに乗り換えて、次は小山駅だ。ここからは水戸線で勝田行きに乗り換えて、そのまま水戸駅で降りる。意外と近いと感じてしまった。隣の県とはいえ、こんなものなのだろうか。


 水戸駅の改札を出ても、まだ雨は降っていたのだが、空は思ったよりも明るい。これはそのうち止むのかもしれないと、駅ビルの中のマクドでタブレットを充電しながら活用し、天気予報を確認する。少し時間を潰せば、なんとかなりそうだ。

 そのままマクドで今回の旅の思い出を振り返ってそれをノートにまとめて時間を潰した。

 そんなことをしていたから、感傷的になっていたのかもしれない。


 雨が止んだのでホテルを目指そうと思ったのだが、先に少しは観光もしておこうと、駅を出てまず弘道館へと向かった。失敗だった。かつてはお城があった方向だ。城と言えば高台。駅からは登り坂だったのだ。ふとももがまた、ダメージを負ってしまった。背中のバックパックがやたらと重く感じる。

 最後の将軍の反省室もあるという江戸期最大級の学びの場は、当時の日本の意外なほどの高度さを感じさせてくれた。


 そこからは少し遠回りになるが駅の方向には戻らずに進むことにした。


 なんだか、レトロな味のある建物が見えてきた。なんだろうと思って近づくと、それは配水塔だった。文化財に指定されているらしい。納得の雰囲気があった。遠回りしてみるものだと思った。


 高校のグラウンドの角を曲がって、国道をふたつ乗り越えて、少し細い道へと曲がる。その先に宿泊予定のホテルがあった。


 いつものようにバックパックを預けて、小さなリュックだけを背負ってリスタートだ。

 ここからはまず、水戸と言えばここ、という場所、偕楽園を目指す。

 歩くのなら大通りではなく、このまま裏道っぽい感じで進もうと、地図を片手に進んで行く。


 しばらくは特に何も感じなかったのだが、それは嵐の前の静けさだったのだろう。突然、前方に派手な空間が現れた。そこには大人の街があり、大人のお店が並んでいた。

 私は偕楽園を目指していたはずなのだが、どうやら快楽園に足を踏み入れてしまったようだ。どうする? いや、どうもしないな。そのまま、努めて冷静な感じを装って足早に通過した。特に客引きとかもなく、大人の世界は過ぎ去っていった。


 左へ曲がってしばらくすると、民家の間を抜ける細い道へと入っていく。いい雰囲気だ。

 そして、見えてくる門。ここが表門らしい。


 入園料を支払い、中へと突入する。こっちの偕楽園は300円で3ケタ、あっちの快楽園はおそらく5ケタ、必要だろう。


 梅の頃でも、桜の頃でもない、庭園。だが、雨上がりのしっとりとした空気が心地よい。


 のんびりと樹々の間の空気を吸い込みながら歩いて、東門を抜けて臨時駅である偕楽園駅を見下ろしながら陸橋を渡り、千波湖へと辿り着いた。


 旅人ではない街のウォーカーがたくさん、おそらく健康のために歩いていた。


 私も、吹き出している大噴水を横目に千波湖と桜川の間を歩く。そこで人を怖れないカモが並走してきた。なかなか面白い。いや、キミたちは川でも湖でもどっちでも行けるよな? 空路もありだろ? なぜ陸路?

 与える餌もない。私は人間の歩幅でカモを置き去りにして引き離した。


 千波大橋を渡り、線路の上の陸橋も渡って、水戸駅の北口へ。あの陸橋、なかなかのトレインビューだ。偕楽園駅のところもいい感じだった。


 水戸市街をぐるっと一周するようにして戻ってきた水戸駅。

 ここからは『課金プレイ』が始まる。

 私は水戸~大洗間の往復乗車券を購入して、鹿島臨海鉄道に乗った。


 単線の高架線で、臨海を名乗る割に、車窓は田園風景が広がる。鹿島アントラーズのホームスタジアムもちょっとだけ見てみたい気もしたが、今回は大洗駅だ。もちろん、聖地観光も意識しているのだが、一番はフェリー乗り場があるから。

 私が生まれ育ったところもフェリー乗り場があった。だから、そういう港は気になってしまうのだ。


 大洗駅は全力でガルパン推しだった。ラッピング車両は停まっていたし、駅のいたるところにガルパンが描かれていた。

 駅だけではなく、街中のいたるところにガルパンだ。マンホールさえも、ガルパンとは……。


 まあ、ガルパン以上に気になったのは、町営の温泉施設がある健康館の看板だ。あのお姉さんの写真、ちょっとセクシー過ぎないだろうか? 町営なのにいいのか? などと余計な心配をしてしまった。いっそあれもガルパンの子たちにすればいいのに……。


 そして、到着した大洗マリンタワー。


 展望室まではエレベーターが有料なんだが、そのひとつ下の2階、2階といっても50メートルの高さがある、ガルパン喫茶までのエレベーターは無料。いいのか、これ……? 50メートルなら十分展望ではないだろうか?


 もちろん、エレベーター料金を払わずに2階の50メートルを選択して、ガルパン喫茶を利用した。注文は大洗女子の学食でも一番人気という、サバ味噌煮定食を頼んだ。っていうか、このイス、懐かしの学校の生徒イスじゃん……まるで高校の文化祭の模擬店……。

 呼び鈴は戦車……でも、壊れているのか、押しても誰も来てくれない。というか、お客は私だけなんだが、このお店、大丈夫なんだろうか……いや、きっと休日はファンで溢れているに違いない。町全体でガルパン推しだからな……。


 窓から港を見下ろせば、そこにはさんふらわあが停泊していた。


 フェリーを見た瞬間、どきり、としてしまう。


 さっき見た、ポスター。ガルパンの大洗女子のあんこうチームの5人が、大洗マリンタワーをバックに記念撮影しているヤツ。


 そこには、『はじまりの場所はここから』と書かれていたのだ。


 ……あのさんふらわあに乗れば、北海道へ行ける。JR北海道も、この乗り放題切符は使える。


 それが、とんでもなく魅力的に思えたのだ。


 ここから、もう一度、新たな旅を始められるのかもしれない。


 そんなことを本気で思ってしまった。


 ……いや、無理か。みんなが嫌がるお盆前後の勤務を詰め込む代わりに夏休みを先取りしての長期休暇なんだから、これ以上、休めるはずがない。


 冷静になったら、それは当たり前のことだ。


 それでも人には、魔が差す瞬間があるのかも、しれない。


 水戸に戻ってホテルの部屋でごろりと横になっても、あのフェリーに乗れば、と後ろ髪引かれる思いは残る。


 旅の終わりが近づくと感傷的になるのは、修学旅行の帰りのバスが1秒でも遅く学校に着くことを願うようなものなのかもしれない。


 そんなことを思ったのだった。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 旅が終わろうとしている切なさが、別ルートへの憧れという形でこんなにうまく表現されるとは! [気になる点] これだけの休みを取った後の夏の勤務とは一体……(^^;(^^; [一言] 更新あり…
[一言] 水戸駅から常磐線を一つ下って勝田駅へ行き 那珂湊線に乗り換えて終着駅の阿字ヶ浦駅まで行って欲しかった 海水浴場で有名です また阿字ヶ浦駅は最果てのドンづまりのイメージ  写真撮って、北海道や…
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