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ぼくは気が重いまま家へ帰った。
どうしよう。何も良い案が思い浮かばない。
陸君を止めたい。
けれど、陸君の気持ちだって痛いほどわかる。ぼくだってビクビクしながら学校に行くのはイヤだ。
――……シャロたちに相談しなくちゃ。
早く寝るために宿題も、お風呂も終わらせて、夕飯を一気に流し込む。
「ねぇ。和人。最近、学校のことを話をしてくれないけど、何かあったの?」
心配そうにお母さんが言う。
「別に、何も無いよ」
「でも、前は大貴君や陸君の――……」
「今月の終わりころ、三者面談があるからその時にどうせ聞けるでしょ?」
これ以上、話す気にも、聞く気にもなれなかった。
どうせお母さんたちは話を聞いてくれない。
説明するんだったら、マリやシャロの方がぜったいに良い。だって、二人はちゃんと真剣に最後まで聞いてくれるんだし。
ぼくは、ランドセルから三者面談のプリントをテーブルに出して、自分の部屋へと走っていった。
時計を見ると、寝る時間まであと一時間もある。でも、今すぐシャロと話がしたい。
ぼくは、じいちゃんとばあちゃんが「みんなで一旦、話をしよう」と言うのをむししてベッドに潜り込んだ。
その日、夢は見なかった。
あの夢が見たくて、二人に会いたくて早く寝るようにしたのがいけなかったのかもしれない。
だけど、次の日も、その次の週もぼくが望む夢は見られなかった。
もちろん、情報収集はかかさなかった。
それどころか次またシャロが難しい話をしてもいいように国語の宿題は念入りにした。
国語だけじゃなくて、数学のことも話すかもしれない。社会も理科も、シャロは何を話すかわからない。そうしていたら色々と忙しくなって大貴どころじゃなくなった。
シャロ対策のおかげか、この前の小テストは百点をとれた。
クラスで百点は、ぼくを入れて三人しかいないらしい。
大貴の方をちらっと見れば、顔が暗かったので百点をとってないのがすぐに分かった。
「小テストぐらいで調子にのるなよ」
掃除の時間、大貴に机を蹴飛ばされたけれど、ぼくは動じなかった。
それを陸君がしっかり見ていた。きっと陸君のポケットには、お子様用スマートフォンが入ってて、しっかりこれも録音されているんだ。
「なんだ、和人もようやく勉強に目覚めたか」
自分の部屋でいつものように勉強していると、じいちゃんがそう言ってきた。
「目覚めた?」
「磯原さん家の大きい兄ちゃんは、四年生の時からオジュケンの勉強をしてたみたいだからなあ。ずっと塾に通い詰めでなあ」
大きいお兄ちゃんは大貴のお兄ちゃんのことだ。
「トモキ君が、オジュケンの勉強?」
トモキ君がオジュケンしたのは知ってた。けど、勉強をしていたなんて思わなかった。だってトモキ君は頭が良いし、それ以上勉強する意味なんてなさそうに思えたからだ。
「あそこの家はみんな頭が良いからなあ。じいちゃんは運動が出来れば良いと思ってるけど、やっぱり今を生きるには頭も使わにゃいけんからな」
「大貴の家って、みんな頭良いんだ」
そういえば、大貴のお父さんは学校の先生だし、お母さんはジュクの先生をしていたっけ。
「でも、大貴は関係ないよ。この勉強は、ぼくのためだし」
「そりゃ、勉強は自分のためだろ」
じいちゃんはあきれて笑うと、「散歩の時間だ」と歩き出してしまった。
宿題、ご飯、お風呂も済ませたぼくは、祈るような気持ちで布団に入った。