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朝の時間で先生が今月末から三者面談が始まることを伝えたけれど、ぼくはそれどころじゃなかった。
シャロの言う情報収集・聞き込み。それをいつ、どうやってするのかが思い浮かばないからだ。
女子が集まって何かウワサ話をしているのをこっそり盗み聞きすることくらいしかない。大貴は最近、帰るのが早いのでその時間だけはビクビクしなくて済む。
「大貴君。ジュクに行ってるらしいよ」
そんな噂を聞いたけれど、あの大貴が大人しく勉強するとは思えなかった。
他にも女子は何か話をしていたけれど、もうぼくにとってはつまらないことばかりで大貴にも関係がなかった。
「あの……、和人君」
放課後、陸君が声をかけてきた。
ぼくは大貴がいないかを確認してから陸君を見た。
「やっぱり、ぼくと話をしてると恥ずかしい?」
陸君にそう言われて、ぼくはとまどう。
「別に。そうじゃないよ。大貴がいたら、ぼくら、またからかわれるだろ?」
「そうだね」
「どうして、ぼくらにばっか言ってくるんだろうね」
「いい点数が取れなかったからって、八つ当たりをしてるんだよ」
陸君が冷たくそう言う。ぼくはおどろいて陸君を見た。
「八つ当たり?」
「大貴の机の中に、クシャクシャになったテストがいっぱい入ってたんだ。そうじの時間、机を動かしてたら落ちてきたんだよ。中を見たら七十点とか八十点とかだったんだよ」
七十点、八十点……。ぼくがその点数を取ったらじいちゃんやばあちゃんは喜ぶだろう。クシャクシャにする必要なんてないと思うけど、大貴はそうじゃないらしい。
「大貴のヤツ。塾に行ってるんだってさ。それで、自由に遊べなくなったからってぼくらを羨ましがって八つ当たりしてるんだ。そうに違いないよ。……だって、ぼくら大貴に何もイジワルしてないだろ?」
そうか、八つ当たり!
これは良い情報かもしれない。有効活用できるか分からないけれど、シャロとマリなら何か思いついてくれるはずだ。
「……三者面談の順番さ。ぼくの前が大貴なんだよ」
声を低くして陸君が言った。
「だから、話の途中で教室に入って訴えようと思うんだ。今までの全部、録音してたんだ。姉ちゃんが教えてくれた。”イジメの動かぬショウコ”になるんだって。これを先生や大貴に聞かせれば、大貴のヤツもう二度と、学校に来なくなるよ。そうしたらぼくら、一日中大貴のやつにビクビクしなくて済むんだ」
ぼくは何も言えず、陸君を見た。
やっていることは、きっと正しい事なんだと思う。……けれど、なんだか、陸君まで悪い人のように見えてしまった。
大貴のことは嫌いだけど、「二度と学校に来れなくなる」って言うのは、なんだかちょっと違う気がする。
「大丈夫。和人君がイジめられてるのも録音してた。三者面談が近くなったら作戦を立てようよ」
ぼくが慌てて止める前に陸君はそう言って、教室を出て行ってしまった。
折角、情報収集が出来たのに――。