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「やったー! 夢の世界だ」
目を開けてぼくは周囲を見てそうさけんだ。
ピンク色の空。
地面にささった沢山のお菓子!
「ようこそ。いらっしゃい」
ピンク色の空の下、出迎えてくれたのはマリだけだった。
「あれ、シャロは?」
「シャロはあっち。やっぱりアナタは、最初の予定通り、夢の世界にいるべきよ」
マリの言い方がなんだか怖くて、ぼくは思わず後ずさりをする。
「だって、そうでしょう? シャロもやる気を失くしたし……」
振り返ると、シャロはチョコで出来たベンチに寝転んだまま動かない。
シャロの顔にかぶさっていた新聞紙を、ぼくは乱暴に取り払う。シャロは浮かない顔で、ぼくを少しだけ見るとすぐに目をそらしてしまった。
「シャロ! どうしたの?」
「君、”どうでもいい”って思っただろ?」
シャロの答えにぼくは一瞬だけ冷や汗をかいた。
ちょうど、今日考えたことだ。
何もかもイヤになって、どうでもいいと思った。
「”本当のことを知らなくてもいい”って思ったのならば、もう私の出番じゃない」
たしか、シャロは、ぼくの探求心に呼ばれてやって来たんだ。
「シャロ。ねえ、シャロ。しっかりしてよ。ぼく、シャロの言ってた言葉の意味を調べたんだよ」
「ムダなロウリョクだったね」
シャロは冷たくそう言った。
昨日とはまるで全然違う、別人になってしまったようだ。
「意味なくないよ。ぼくはシャロとも話をしたかったし。だって、ぼくは……そう。現状打破したいから」
現状打破。じいちゃんが朝言っていた言葉。今の状況を変えるってことだ。
「本当に?」
ぼくの言葉にシャロはようやく起き上がった。
「本当の本当! ぼくだけじゃ分からないんだ。だからイヤになっちゃったんだけど、シャロとマリがいたら解決できるんだよね?」
「それでは意味がない。君が主役で、私たちが助手でなければならないのだから」
「ぼくの問題だから?」
すると、シャロはにっこり笑って頷いた。
「では、事件についてコウサツしよう」
「事件?」
驚くぼくに助け船を出したのはマリだった。
「アナタを悩ますことだもの。……それにしても、シャロをもう一度やる気にさせるなんて珍しいわ。せっかく、この夢に閉じ込める予定だったのに」
苦笑するマリにぼくは驚いてしまう。
マリはぼくを閉じ込めるつもりだったんだ。
「そんなことより、犯人はなぜ友人だった君にイジワルをするのか。その原因を探らなければならないね」
そんなマリを気にせずシャロは話を続ける。
「まずは情報を集めないといけないよ」
シャロはそう言ってぼくを指さした。
「大貴のスキキライは分かるよ」
「それも必要だけれど、今は関係がないかな。彼がイジワルくなりだしたのはいつ頃?」
シャロは大真面目に言うので、ぼくは真剣に思い出す。
「今年。四年生になってから」
「三年生の時は?」
「普通だった」
と、ぼくは答える。本当に三年生までは、フツウだったんだ。
「どうして彼がイジワルになったのか、君に心当たりは? ケンカをしたかい?」
「無い」
シャロは大きく頷いた。
「いかなるキョゲンも私の前では暴かれる。だから、ケンカが原因では無いというのも、君が原因でもないというのも君視点からすれば”事実”だ。では、彼の周りで何かあったかい? 例えば、ご両親がケンカしたとか」
「特に……。あ、でもトモキ君が。大貴のお兄ちゃんが中学生になった。オジュケンしたんだって」
「ほう? トモキ君。その子はどんな子かな」
まるでゲームの悪役のようにシャロの赤い目が光った。
「優しくて頭がすごく良いんだ。女子にも人気」
ふんふん。と、シャロは面白そうに話を聞いてくれる。
じいちゃんやばあちゃん、お母さんもシャロみたいに話を聞いてくれたらいいのになあと、ぼくは思いながらシャロを見ていた。
「君はどうやらなんとなくだけれど、原因が分かっているんじゃないのかな? さて、相手を更に知るには情報を集めなければね。基本は、聞き込みと――……」
ぴぴぴ!
目覚まし時計の音でぼくはまた目が覚めてしまった。