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「あら、シャロ。そんなつれないことを言わないで。これは彼の問題なのだから」
”シャロ”と呼ばれた男の人は、マリと知り合いなのだろうか。だけど、二人は静かににらみ合っている。
「そうはいかないよ。マリ。私は彼のタンキュウシンに呼ばれたのだからね。真実を知りたがっているのをどうして無視できるかな」
「タンキューシン?」
ぼくは思わず繰り返しています。
「本当のことを知りたいと思う心。君、あまり彼女と話さない方が良いよ。マリは君のトウヒガンボウに呼ばれて心にスクウ者だからね」
「トーヒガンボウ? スクウ?」
ぼくが繰り返すと、シャロはとても残念そうに溜め息をついた。
「君は国語の勉強をしていないのかな。どうも話し難い。彼女は君をダメ人間にしたいんだ。まるで”赤ちゃん”みたいにね」
「ぼくは、赤ちゃんじゃない」
「そうと言うけれど、君の心の奥深くでは”赤ちゃんみたいに扱って欲しい””甘やかして欲しい”と、願っているんだ。だからこそ、マリは今こうして君の夢にやって来ている」
シャロがそう言うと、ぼくの隣にいるマリが腰に手をあてて言い返す。
「だって、彼は学校で嫌な思いをしているんだもの。「明日なんて来なければいいのに」なんて悲しい事を思うのよ? だったら夢の世界に永遠にいる方が安全だわ」
マリに言われて、ぼくは学校でのことを思い出す。
せっかく良い気分だったのに、それだけで落ち込んだ。
「ほら、シャロのせいで雲行きが怪しくなっちゃったじゃない」
マリに言われて見上げれば、ピンク色の空は淡いムラサキ色に変わっている。
「夢の世界に逃げ込むのは良い。時には必要さ。だが、永遠というのは良くない。寝たきりの彼が目覚めるまで彼のカゾクはずっと待つことになる」
シャロの言葉にドキッとする。
「それって、ずっと起きないってこと?」
「現実を怖がり、マリと共に夢の中に逃げるのだからね。夢の中では自由だけれど、現実では動けもしないただ寝ている人さ」
そう答えるシャロにぼくは何も言えない。マリは腰に手を当てたままシャロを睨み続ける。
「ズルいわ。キョウハクだなんて」
「説明も無しにエイキュウスイミンにオトシイレヨウとする君よりはマシさ」
「学校も、明日も、怖いと思う彼には安全な場所が必要よ」
「ぼく、学校は好きだよ。だけど、イヤなことがあるんだ」
ポロッと言葉が漏れた。
すると、マリとシャロが黙ってぼくを見た。