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「さわいだりしません!」
気が付いたら、ぼくは教室のトビラを開けていた。
「大貴は勉強を頑張っています! 本当に、本当です!」
教室には先生と、静かに泣いている大貴と、クラの劇場で見た鬼の顔にそっくりな大貴のお父さんがいた。
「和人君。まだ順番じゃ――……」
「大貴は俺と遊ばないくらいずっと勉強してます。きっと、教室が火事になっても、頑張って勉強を――……! だから、怒らないでください!」
心臓がバクバクとうるさい。だというのに、思った以上に声が出た。
それのせいで隣の教室で面談をしていた別クラスの先生とその親子、そしてやって来た陸君のお母さんが何事かと覗いてくる。
「この学校は勉強方針がなってない。子供も入ってくるし、一体何なんだ? アンタも担任は初めてなんだろう? こんなに若い先生なんて、普通はベテランがつくものでしょう?」
ぼくを見向きもせず、大貴のお父さんが先生に言う。
「私はトモキ君の担任もしましたよ。大貴君のお父さん。兄弟でのヒカクは良くないと先生たちと話し合って決めたことです」
だけど、先生は静かに大貴のお父さんに言った。
「大貴君の成績は今まで良くなかったかもしれませんが、誰とでも仲良く出来る柔軟さを持っています。責任感もあって、真面目です。それは大貴君にしかない強みで、個性です。だから、こうして友達が彼をかばってくれるんです」
先生の凛とした態度に、ぼくは驚いていた。全然見てくれないわけじゃなかった。
そうしているうちに、ぼくは他の先生によって生徒相談室に連れられた。
ぼくは乱入したことを怒られるかと思ったけれど、先生は盗み聞きについてだけを注意しただけだった。
陸君も自分の三者面談を終わらせてから生徒相談室に来た。そして、ぼくの隣に勢いよく座った。
「聞いた? 大貴のお父さんの声。ぼく、驚いて録音を消しちゃったみたい」
陸君のことだから、そんなミスはしない。
だけど、ぼくはそのことを言わず笑っただけにした。
「友達思いですね」
と、生活指導の先生からナイショのお菓子をもらった。
マリの出すお菓子よりも相当地味な色をしていたけれど、味は悪くなかった。
ぼくらが帰ろうとした時、廊下で大貴に会った。
大貴はぼくらを見るとばつが悪そうに俯いた。
「ありがとう。今までゴメン」
「本当だよ」
と、ぼくは言う。
「また遊んでくれたら許す」
「そーだ、そーだ!」
ぼくのジョウダンが分かったのか、陸君も囃し立てた。
それを聞いた、大貴はくしゃりと笑った。