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今日が、大貴と陸君の三者面談の日だ。
ぼくは陸君を止めるため、静かにだけど出来るだけ早く教室へ走って行った。
「お母さんは五分前に来るって」
まだ順番じゃないのに、廊下にはすでに陸君がいる。
陸君はポケットに手をつっこんだまま言うので、おそらく作戦を実行するつもりなんだろう。
「陸君。やっぱりやめよう」
ぼくがそう言うと、陸君はギロリとぼくを睨んだ。
「どうして?」
「大貴は、何か悩んでるんだよ」
「何を悩んでるの?」
「……分からないけど。でも、そんな気がするんだ」
「だとしても、友達だったボクたちをイジメていいってコトにはならない」
教室の中にいる三人に聞かれないよう、ぼくらは小声で話をする。
「そうかもしれないけど……」
「じゃあ、和人君はこのままでいいの? ぼくはイヤだよ。いつだってこんなにコソコソ――……」
「なんだこの点数は!」
教室から聞こえた男の人の声に、ぼくらは飛び上がった。
なんだこれ、クラの舞台で聞こえた鬼の声にそっくりじゃないか。
「トモキはこんな点数をとったことなかったぞ! 何のために塾へ行かせたと思ってるんだ!」
多分、これは大貴のお父さんの声だ。
ぼくらは、お互い顔を見合わせるだけで動くことも出来ない。
シン……。
と、静まり返った教室から、大貴の「ごめんなさい」と言う小さな声が聞こえた。
ぼくらは扉にくっつくようにして中の話を盗み聞く。
「大貴君のお父さん。大貴くん、成績は良くなりましたよ。前まで平均以下でしたけど、今はもう――……」
「その分、授業態度が悪くなったんですよね? 石田さん家から聞きましたよ」
ぼくは、大貴が「ブス!」と言った女の子、石田奈々ちゃんを思い出す。
「それに、田沼さんと相原さんのお子さんにも――……」
(ぼくらのことだ!)
ぼくと陸君は驚いて顔を見合わせる。
「これで、もしイジメだと騒がれてみろ。トモキの将来に傷がつくだろ。勉強もできないくせに、本当にろくな事をしないんだから! お父さんは恥ずかしいよ。お母さんにどう報告しようか……」
ここはクラがいる夢の世界じゃないのに、あまりにもオオゲサに大貴のお父さんは嘆く。がっかりした溜め息もぼくらには聞こえた。
それを聞いていたらぼくは、だんだんと腹が立ってきた。
大貴はイジワルかもしれないけれど、それでも友達だったのには変わらない。
大貴は大貴なりに頑張っていたはずだ。
そうじゃなかったらあんな怖い夢を見ない。