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「ようこそ、みなさま! ごきげんよう!」
まだ体育館についてないのに、校内放送からクラの声がする。
「こよい観るは、哀れなコドモ。友を裏切り、父も母さえも悲しませる、大悪党!」
嬉しそうな声が体育館に響き渡る。
「いいかい。これは君のユウジンが思っていることを、クラがわざわざ声に出しているんだ」
そんな声を聞きながらシャロが小声でぼくに言う。
「大貴が、自分のことを大悪党って?」
「そう言うことだ。……見ろ」
シャロが校庭を指さす。
そこにはヤリを構えて歩く全身甲冑の――……おそらくジャンと、必死の顔で逃げる大貴の姿があった。
「ジャンが持つヤリは全てを赦す。刺した時のその痛みに耐えられれば夢から覚めることができる」
シャロがジャンの持つヤリを指さして言った。
「ヤリで刺されるってこと?」
あんなので刺されたらぜったいに死んじゃう。それはぼくにだって分かる。
「夢の主が心の奥でそう望んでいるんだ。自分は悪いことをした、だからバツが必要だ、と」
校庭はいたる所が燃えていて、とてもじゃないが二人に近寄れそうにない。
「アワれな少年は、救われることもなく体育館へ! 自分の罪を他人に擦り付けたその業は、はるかに罪深い」
その間もクラの声が響き渡る。
「ねぇ、シャロ! あの二人は大貴に何をさせる気? ヤリでさされちゃうの?」
「そうだよ。あの二人は、夢の主が望んでいることを代わりにやっているだけだ。ひどくオオゲサに、悲劇的にしてね。この夢の主は、日頃から自分の在り方を”悪い”と思っている。それどころか、”後悔しているが謝ってはいけない”そうしなければならないと、強く思っている。だから、処刑人と悲劇作家がこの夢に目をつけて、入って来てしまった」
「止めなきゃ! 体育館に行けば止められる?」
シャロの答えを聞く前に、ぼくは全力で走った。
通路を抜けて校庭へ向かう。
だけれど、間に合いそうにない。
「この悪夢を止めたら真実が分かるはずなんだ」
ノドが燃えるように熱いのは、校庭が燃えているからじゃない。
全力で走って、走って、そしてシャロに向かって叫んでいるからだ。
「シャロ! お願いだから力を貸して!」
「良いとも」
シャロは静かに答え、持っていた傘で地面を叩いた。
すると、地面から大きな歯車が音もなく沢山生えた。沢山ある歯車は、どれも?み合っていないのに、カチカチと回転し始める。
それだけじゃない。
ザアザアぶりの冷たい雨が降り、地面が揺れるほどに大きな雷が鳴り出した。
「この雨は彼の涙。この雷は彼の怒り」
シャロはそう言って、大きな傘を広げる。
今時の傘じゃない、じいちゃんが見ていた時代劇であるような傘だ。シャロの目と同じように血のような赤。
「私の夢主は君であって、この世界の人物じゃない。だから、この世界に影響を与えるのは、ほんの少しの間だけだよ」
雨のせいで火は消えている。だけど、校庭にはジャンも、大貴もいない。
「クラに演目を変えてもらった。この世界の人物のためじゃなく、君のためにね。さあ、体育館へ行こう」
ぼくたちは、それでも急いで体育館へ向かった。
「君が彼として全てを体感するんだ」