表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくと妖精とときどき悪夢  作者: 和鏥
クラの劇場!
13/18

「ようこそ、みなさま! ごきげんよう!」


 まだ体育館についてないのに、校内放送からクラの声がする。


「こよい観るは、哀れなコドモ。友を裏切り、父も母さえも悲しませる、大悪党!」


 嬉しそうな声が体育館に響き渡る。


「いいかい。これは君のユウジンが思っていることを、クラがわざわざ声に出しているんだ」


 そんな声を聞きながらシャロが小声でぼくに言う。


「大貴が、自分のことを大悪党って?」

「そう言うことだ。……見ろ」


 シャロが校庭を指さす。

 そこにはヤリを構えて歩く全身甲冑の――……おそらくジャンと、必死の顔で逃げる大貴の姿があった。


「ジャンが持つヤリは全てを赦す。刺した時のその痛みに耐えられれば夢から覚めることができる」


 シャロがジャンの持つヤリを指さして言った。


「ヤリで刺されるってこと?」


 あんなので刺されたらぜったいに死んじゃう。それはぼくにだって分かる。


「夢の主が心の奥でそう望んでいるんだ。自分は悪いことをした、だからバツが必要だ、と」


 校庭はいたる所が燃えていて、とてもじゃないが二人に近寄れそうにない。


「アワれな少年は、救われることもなく体育館(シヨケイジヨウ)へ! 自分の罪を他人に擦り付けたその業は、はるかに罪深い」


 その間もクラの声が響き渡る。


「ねぇ、シャロ! あの二人は大貴に何をさせる気? ヤリでさされちゃうの?」

「そうだよ。あの二人は、夢の主が望んでいることを代わりにやっているだけだ。ひどくオオゲサに、悲劇的にしてね。この夢の主は、日頃から自分の在り方を”悪い”と思っている。それどころか、”後悔しているが謝ってはいけない”()()()()()()()()()()()と、強く思っている。だから、処刑人(ジヤン)悲劇作家(クラ)がこの夢に目をつけて、入って来てしまった」

「止めなきゃ! 体育館に行けば止められる?」


 シャロの答えを聞く前に、ぼくは全力で走った。

 通路を抜けて校庭へ向かう。

 だけれど、間に合いそうにない。


「この悪夢を止めたら真実が分かるはずなんだ」


ノドが燃えるように熱いのは、校庭が燃えているからじゃない。

 全力で走って、走って、そしてシャロに向かって叫んでいるからだ。


「シャロ! お願いだから力を貸して!」

「良いとも」


 シャロは静かに答え、持っていた傘で地面を叩いた。

 すると、地面から大きな歯車が音もなく沢山生えた。沢山ある歯車は、どれも?み合っていないのに、カチカチと回転し始める。

 それだけじゃない。

 ザアザアぶりの冷たい雨が降り、地面が揺れるほどに大きな雷が鳴り出した。


「この雨は彼の涙。この雷は彼の怒り」


 シャロはそう言って、大きな傘を広げる。

 今時の傘じゃない、じいちゃんが見ていた時代劇であるような傘だ。シャロの目と同じように血のような赤。


「私の夢主(イライニン)は君であって、この世界の人物じゃない。だから、この世界に影響を与えるのは、ほんの少しの間だけだよ」


 雨のせいで火は消えている。だけど、校庭にはジャンも、大貴もいない。


「クラに演目を変えてもらった。この世界の人物のためじゃなく、君のためにね。さあ、体育館へ行こう」


 ぼくたちは、それでも急いで体育館へ向かった。


「君が彼として全てを体感するんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ