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ぼくと妖精とときどき悪夢  作者: 和鏥
燃える教室!
12/18

「うわ!」


 夢を渡ってすぐ、ぼくは声を上げた。

 場所は教室だけれど、ごうごうと燃えている。

 火事だ。


「逃げなきゃ!」

「逃げる必要は無いよ。ココは君の夢ではないから、火傷もしない」


 シャロがのんびりそう言いながら、真っ赤な火に触れる。その様子を見ると本当に熱くなさそうだ。それに、足元を見れば、ぼくはごうごうと燃える火の中にいる。


「どうして燃えているの? 大貴の――……」

「ちょっと、シャロ! どうして部外者(キミ)が来るかなぁ! 今から面白いところ(クライマツクス)なのに!」


 第三者の声に驚いて振り返ると、そこには青い髪の王子様が立っていた。

 青いグラデーションのかかった髪を肩まで伸ばしていて、服は真っ白。絵本に出てくるような王子様、といった表現がぴったりだ。


「見学だよ。クラ。どうしても我々の夢主(イライニン)が君の舞台を見たいと言うから来たのさ。言うなれば観客」


 シャロがそう言い終わらないうちに、クラと呼ばれた王子様は水色の瞳を輝かせてぼくを見た。


「観客? シャロ! 嗚呼、嬉しいよ!」


 クラは本当に嬉しそうにそう言った。リアクションもすごく大きい。


「まさかキミがボクのために思春期真っ只中の(ステキな)観客を連れてくるとはね! こんにちは! 思春期真っ只中の(ステキな)なボクの夢主(オキヤクサマ)! 今から最高の舞台が始まるよ! シャロも来たし、今回の舞台は現実味(リアリティ)も追及された最高の物になるだろうね! ボク、急いで脚本を見直さなきゃ! ()()()の凶行も演出になるぞう!」


 クラはここまで早口で言うと、シャロに小さく折り畳んだ紙を渡して走り出してしまった。

 まるで嵐のような人だ。とぼくは思うけど、シャロもそうなのだろう。


「彼はクラ。夢の主にキャクショクした現実を――……。夢の主にとってイヤな現実をもっとオオゲサに、更に悲劇的にして見せつけるのが好きだ」

「どういうこと?」

「見ていれば、分かるよ」


 シャロは呆れながらもそう言って、小さく折り畳まれた紙を広げた。


「マリが甘やかしの天才ならば、クラは悲劇のヒロインを創る天才だ。……ふむ。体育館で上映するらしいね。案内してくれるかい?」


 ぼくは言われるがまま、シャロの手を引いて歩き出した。

 ここは三階だから体育館に行くまでちょっと遠い。

 廊下にも、教室にも火がついているのに、煙の臭いもしないし眼も痛くない。

 

 ――…… 学校なんて火事になって無くなっちゃえばいいのに。

 

 校内放送から大貴の声が聞こえる。学校で大イバリのアイツがどうしてそんなことを言うんだろう。


「失礼。ココは危ないですよ」


 声がして振り返り、ぼくは驚いた。

 そこにはゲームに出てくるような銀色のプレートアーマーを着た女の人がヤリを持って立っていた。

 周りに広がる火と同じ色をした髪の毛と瞳を持つ女の人は、ぼくたちをまじまじと見つめた。


「君がそんなに弱体化するなんて、とても珍しいことだね。ジャン」


 やっぱり二人は知り合いなんだろう。シャロは驚きもせずに言う。


「ええ、同感です。シャロ。オマエもあのピエロ(クラ)に協力しているのは珍しい。それに――……」


 ジャンと呼ばれた女性は、ぼくを見た。


「ゾウオもケンオもコウカイもトウヒもない。だから、私はオマエの前ではこのような姿にされてしまうのでしょう」


 ぼくは首を傾げてジャンを見た。

 確かにそんな格好しているジャンには驚いたけれど、でも悪人のようには思えない。

 それだったら、矢継ぎ早に話して言ったクラの方がもっと怖く感じた。


私の夢主(イライニン)は、純粋にココの夢主(ヨウギシヤ)を助けたくて来たんだ」


 シャロの言葉に、ジャンは少しとまどったようだった。


「救出ですか? それもまた、珍しいことです」


 そして、ジャンは再度ぼくを見た。一瞬だけ優しい顔をしたけれど、それはすぐけわしい顔に戻ってしまった。


「ですが、私は求められたことを成すだけ。夢主(ザイニン)が逃げていますので、私はこれで」


 ジャンは左手を胸の前に掲げると歩き出してしまった。


「今のがジャンだよ。ジヒ深き処刑人」

「ショケイニン?」


 ぼくはおどろいてシャロの言葉を繰り返す。


「罪深き夢主(ザイニン)にバツを与えるため、彼女は業火と共に君臨している。クラが言っていた「アイツの凶行」はジャンのことだ」


 シャロはぼくの腕を掴むと、大股で歩き出した。


「君のユウジンの危機かもしれない」


 ぼくらは急いで体育館へ行き、その扉を開けた。

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