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「うわ!」
夢を渡ってすぐ、ぼくは声を上げた。
場所は教室だけれど、ごうごうと燃えている。
火事だ。
「逃げなきゃ!」
「逃げる必要は無いよ。ココは君の夢ではないから、火傷もしない」
シャロがのんびりそう言いながら、真っ赤な火に触れる。その様子を見ると本当に熱くなさそうだ。それに、足元を見れば、ぼくはごうごうと燃える火の中にいる。
「どうして燃えているの? 大貴の――……」
「ちょっと、シャロ! どうして部外者が来るかなぁ! 今から面白いところなのに!」
第三者の声に驚いて振り返ると、そこには青い髪の王子様が立っていた。
青いグラデーションのかかった髪を肩まで伸ばしていて、服は真っ白。絵本に出てくるような王子様、といった表現がぴったりだ。
「見学だよ。クラ。どうしても我々の夢主が君の舞台を見たいと言うから来たのさ。言うなれば観客」
シャロがそう言い終わらないうちに、クラと呼ばれた王子様は水色の瞳を輝かせてぼくを見た。
「観客? シャロ! 嗚呼、嬉しいよ!」
クラは本当に嬉しそうにそう言った。リアクションもすごく大きい。
「まさかキミがボクのために思春期真っ只中の観客を連れてくるとはね! こんにちは! 思春期真っ只中のなボクの夢主! 今から最高の舞台が始まるよ! シャロも来たし、今回の舞台は現実味も追及された最高の物になるだろうね! ボク、急いで脚本を見直さなきゃ! アイツの凶行も演出になるぞう!」
クラはここまで早口で言うと、シャロに小さく折り畳んだ紙を渡して走り出してしまった。
まるで嵐のような人だ。とぼくは思うけど、シャロもそうなのだろう。
「彼はクラ。夢の主にキャクショクした現実を――……。夢の主にとってイヤな現実をもっとオオゲサに、更に悲劇的にして見せつけるのが好きだ」
「どういうこと?」
「見ていれば、分かるよ」
シャロは呆れながらもそう言って、小さく折り畳まれた紙を広げた。
「マリが甘やかしの天才ならば、クラは悲劇のヒロインを創る天才だ。……ふむ。体育館で上映するらしいね。案内してくれるかい?」
ぼくは言われるがまま、シャロの手を引いて歩き出した。
ここは三階だから体育館に行くまでちょっと遠い。
廊下にも、教室にも火がついているのに、煙の臭いもしないし眼も痛くない。
――…… 学校なんて火事になって無くなっちゃえばいいのに。
校内放送から大貴の声が聞こえる。学校で大イバリのアイツがどうしてそんなことを言うんだろう。
「失礼。ココは危ないですよ」
声がして振り返り、ぼくは驚いた。
そこにはゲームに出てくるような銀色のプレートアーマーを着た女の人がヤリを持って立っていた。
周りに広がる火と同じ色をした髪の毛と瞳を持つ女の人は、ぼくたちをまじまじと見つめた。
「君がそんなに弱体化するなんて、とても珍しいことだね。ジャン」
やっぱり二人は知り合いなんだろう。シャロは驚きもせずに言う。
「ええ、同感です。シャロ。オマエもあのピエロに協力しているのは珍しい。それに――……」
ジャンと呼ばれた女性は、ぼくを見た。
「ゾウオもケンオもコウカイもトウヒもない。だから、私はオマエの前ではこのような姿にされてしまうのでしょう」
ぼくは首を傾げてジャンを見た。
確かにそんな格好しているジャンには驚いたけれど、でも悪人のようには思えない。
それだったら、矢継ぎ早に話して言ったクラの方がもっと怖く感じた。
「私の夢主は、純粋にココの夢主を助けたくて来たんだ」
シャロの言葉に、ジャンは少しとまどったようだった。
「救出ですか? それもまた、珍しいことです」
そして、ジャンは再度ぼくを見た。一瞬だけ優しい顔をしたけれど、それはすぐけわしい顔に戻ってしまった。
「ですが、私は求められたことを成すだけ。夢主が逃げていますので、私はこれで」
ジャンは左手を胸の前に掲げると歩き出してしまった。
「今のがジャンだよ。ジヒ深き処刑人」
「ショケイニン?」
ぼくはおどろいてシャロの言葉を繰り返す。
「罪深き夢主にバツを与えるため、彼女は業火と共に君臨している。クラが言っていた「アイツの凶行」はジャンのことだ」
シャロはぼくの腕を掴むと、大股で歩き出した。
「君のユウジンの危機かもしれない」
ぼくらは急いで体育館へ行き、その扉を開けた。