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目を開けると、少し離れた所にシャロとマリが立っていた。
念のために空を見上げてピンク色だと確認する。
あたりを見れば地面にささった大量のお菓子だ!
ぼくは思わず「やったー!」と、声をあげて二人の元へ走って行った。
「こうも夢主にセッショクを望まれるとは思わなかった」
シャロが驚いた調子で言ったのを、マリはふふんと笑う。
「あら。ワタクシはよくあるわよ」
「ふうん。それは良かったね」
シャロは面白く無さそうにそう返すと、今度はぼくの方を見た。慌てて説明しようとするぼくをシャロはやんわりと止める。
「こんにちは。私たちの夢主。君のことは大体分かっている。視ていたからね」
そう言うシャロはどこか嬉しそうだった。
「スイミンコウリツも良く、成績もあがり、規則正しい生活を送っている。なにより、事件の情報収集も出来ているようだ」
「事件ってオオゲサだよ」
「事件よ。大事なアナタがケガをしたんですもの」
照れるぼくにマリは言う。
「”調子にのるなよ”ですって! それで突き飛ばすなんて酷いじゃない!」
どうやらマリもしっかりとぼくを視ていてくれたらしい。
「事件なのは、大貴のヤツに突き飛ばされたことよりも、この夢の世界に来れなかったことだよ。どうしてぼくをこの世界に連れて行ってくれなかったの?」
ぼくがそう言うと、シャロはやれやれと言いたげに首を横に振った。
「レムスイミンの入り口になかなか引っかからなくてね。それに、勉強した内容をテイチャクさせる方が大事だ。我々が来たことによりキオクのテイチャクがおろそかかになるのは、申し訳が立たない」
「キオクノテイチャク?」
「そうさ。眠るというのは今日あったことを整理する時間なのだよ。誰かにこう言われたということを覚えたり、いらない記憶を捨てたり」
「だったらイヤなことを全部忘れた方がいいのに……」
「イヤなことだから覚えておくのだよ」
シャロに断言されて、ぼくは驚いた。
「なんで? 楽しい事を覚えていた方が絶対に良いよ」
「だが、生きるためと考えると二の次だろう?」
「生きるため? オオゲサ」
ぼくが言うと、シャロは益々真面目な顔をする。
「火に触れたら熱い、そんなことを当たり前と君がニンシキするまで散々注意されたはずだ。注意を聞くのと、頭の中にしっかり残すということはまた話が違うんだよ。……まあ、そんなことよりも、君のユウジンは実に面白い。録音という証拠まで手に入れるとはね」
「面白くないよ!」
ぼくがそう叫ぶと、今度反応したのはマリだ。
「あら、どうして? アナタを苦しめる子をこらしめるコトができるのよ?」
「そうだけど、そうじゃないんだ」
ぼくは俯いて答える。
「大貴のやったことはイヤだよ。すごくイヤだ。だけど、大貴は仲良しだったし、やっぱり何かあるんじゃないかなって思ってるんだ。先生と大貴のお父さんやお母さんに言いつける前にさ……。きっと、このままじゃいけない気がする」
あれだけ辞書を引いたのに、本を読んだのにこれ以上言葉が出てこなくて、ぼくは悔しくて泣きそうになる。
ぼくが何も言えなくなって、シャロもマリも黙ったままのせいで、夢の世界は静まり返った。
夢の世界らしいカワイイ色や形をした鳥たちも、今は枝にとまったまま動かず心配そうにぼくらを見ているだけだ。
「なにもわからないんだ」
ぼくは小さな声で言った。