まとめ
玉座の間へと帰ってきた。朝と同じように魔王様の前に跪くのだが、もう日は落ちているからこれは超過勤務だ。もう窓の外から蝉の声は聞こえない。
「いやいや、それよりも魔王様、『まとめ』ってよろしいのですか」
誰も読みたいと思わないサブタイトルですよ。
「分かり易くていいぞよ」
「パワポみたいでいいじゃない」
……剣と魔法の世界に「パワポ」って言うのはやめてほしいぞ。
「パワーポイントの略よ」
「そこまでのご説明、ありがとうございます……」
「暑い時に暑いところに居るから電力状況が逼迫するのはよく分かった。だが、電力の逼迫を無限の魔力で補ったとしても、さらにそれ以上の電力を必要とするだけであろう」
「どういうことですか」
魔王様の魔力では、やっぱ発電できないってことですか。
「逼迫したときだけとはいえ無限の魔力に頼ってしまえば、もし予が電力の供給をやめれば大変なことになるであろう」
「……」
魔王様の気分次第で……電気代が変わるかもしれない。まさに魔王様だ。
っていうか、無限の魔力で電気代など稼がれたら……魔王軍の財源は右肩上がりの鰻の蒲焼だ――!
「今ある現状が当たり前だと頼り過ぎてはならぬのだ。必要なのは我慢することではなく、当たり前の物が無くなった時への備えなのだ」
「備えですか」
真夏に急にエアコンがすべて止まった時の備え……。いったいなにができるのだろうか。
「日陰とか木陰とか」
「……」
いま、なんとおっしゃったのだ。
「日陰とか木陰とかよ。魔王様のお言葉をちゃんと聞きなさい」
……まだいたのか……。
「ですが魔王様、日陰と木陰ではエアコンの代わりにはなりません」
涼しいですが気温は変わらないのです。
「真夏にエアコンが壊れたり止まったりするのは危険なのだ。修理もすぐにはできない。日陰や木陰とは言わぬが、危険と感じて涼しいところに避難する備えこそが大切なのだ」
――エアコン壊れたけどぉ今日だけなら大丈夫。では手遅れになるのだ――。
「無限の魔力に頼ってはならぬ」
「御意」
厚手のローブ姿がいつにもまして暑苦しいとは言えない。魔王様は魔王バリアーで温度管理されているのが……羨ましいとは言えない。
無限の魔力をお持ちなのにケチなのが身に染みてよく分かった。
「魔王様はケチではないわ」
魔王妃が首を横に振る。パイプ椅子に座って。
「ドケチよ」
「それなー」
それなーなのに魔王妃がニヤニヤ笑っているのが理解できない。首筋や横顔に汗をダラダラかいている~――!
魔王妃も……ひょっとしてドMなのだろうか。
「ほら、もうじきアレが来るであろう。さすれば通信障害や停電が同時に起こり、テレビすら映らないかもしれぬぞよ」
「アレって……」
いいのだろうか。アレって……。
「太陽フレアよ」
「……言ってるし」
いいのだろうか。剣と魔法の世界に太陽フレアって……。まあ、禁呪文みたいだからセーフとしようか。
「便利な物を使ってはいけないのではないのだ。そういった物が使えなくなったときにも困らない備えが必要なのだ」
脱スマホとか、脱ネットとか、脱水ネットとか、脱炭素とか。
「……分かりました」
「うむ。予の言いたいことが分かったのなら、さっさと風呂へ行ってその汚い背中の汚れを落とすがよい」
……風呂?
「――!」
しまった! 醜態をさらしっ放しだった――! 背中に「↑顔無し」と書かれたままだった――!
「女勇者が笑うのをこらえるのに必死だったわよ」
時折肩をヒクヒクさせていたのは……それだったのか。寒かったわけじゃなかったのね……。
「だっさ」
「……」
そういう魔王妃のドレスも焼肉のタレでシミができたままなのは……触れないでおこう。明日、洗濯して差し上げよう。ジャージで過ごしてもらおう。
今日は暑いが……湯船にゆっくりと肩まで浸かろう。焦げた汚れをふやかすために。
シャワーだけでは疲れが取れないからなあ……。
「肩まで浸かったら全身浸かるの同じね。首から上が無いのだから」
「いちいち細かいご指摘、ありがとうございます」
なんか今日は、倍疲れたぞ……。
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