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魔王様、無限の魔力を電力に変換してください


「なぜだ!」


 魔王様のお声が広い玉座の間に響き渡り、窓の外の蝉も一瞬だけ鳴きやみ……すぐに再び鳴き始める。

 連日の猛暑で頭がどうにかなりそうだ。首から上は無いのだが……。


「デュラハンよ、卿は予を手回し発電機か何かと勘違いしておるのか!」

 魔王様の前で跪き、深々と頭を下げて答える。

「ははー。おおせのママに」

「……」

 別に勘違いしている訳ではございません。熱中症になりそうな熱帯夜に考えた私めの秘策にございます。

 魔王様は急に玉座から立ち上がられた。――スタンドアップされた。

「おおせのママって誰だ!」

「――?」

 さあ。知らんがな。おおせの……お母さん?

「魔王様、この夏の異常な猛暑で電力状況が逼迫(ひっぱく)しております」

「逼迫とな」

「はい。簡単に言うと、電気がぜんぜん足りません」

「電気って……剣と魔法の世界で使っていいの?」

 キョトンとした瞳で魔王様がおっしゃるのが可愛い。

「使っていいのです。いえ、むしろ使い過ぎなので逼迫しております」

「う、うん」

 魔王様は玉座に着席された。シットダウンされた。

「その意味不明なカタカナ英語注釈はやめよ」

「ありがとうございます」

「……」


「玉座の間にもコンセントがあるではありませんか。黄ばんだ」

 コンセントの差込口が壁際の柱にあるのだが、雑巾で拭いて掃除しても長年の黄ばみは取れない。この色合いはもはや「味」と呼んでもよいだろう。

「使っているの? それ」

「はい。稀にここで電動髭剃りの急速充電をさせてもらってます」

 私は紳士な騎士なのです。

「……どこ剃るの」

「――!」

 迂闊だった――。私は全身金属製鎧のモンスターだから……。

「スネ毛とかです」

「え、スネ毛生えるの!」

「はい。放っておくとぼうぼうに」

「引くぞよ。金属製鎧から生えるスネ毛って……」

 魔王様が鳥肌を立ててドン引きされている。そこまで引かないで頂きたい。魔族なのだから多種多様な個体差を理解してほしい。

 いや、別に理解しなくてもいい。あまり知られたくもない秘密だから……。

「レーザー脱毛器使えば手入れが楽ぞよ」

「なにそれ! いや、あのピカッと光るのは反射して駄目なのです」

 サングラスはかけられないのです。似合わないのです。

「予が禁呪文で永久脱毛してやろうか」

 魔王様の両手が怪しく青紫色に光輝く。

「いや、いいです、お気持ちだけで」

 魔王様の怪しい禁呪文を掛けられると、永久に他の物も生えてこなくなる気がして怖い。

 ……首とか頭とか。きっといつかは生えてくる筈なのだ。



「話が事故レベルに脱線してしまいましたが、魔王城内には居住区もありたくさんのモンスターが自室で電気を好き勝手に使っています」

 恐らく無駄遣いしています。照明やエアコンの点けっぱなしなどは日常茶飯事です。

「うむうむ」

 他人事のように頷くのはやめてほしいぞ。

「しかも、魔王城内にはガスが抜けて冷えの悪いエアコンがたくさんあります」

 室外機がウオンウオンと唸っております。その中には冷たい風が出ていないのに扇風機代わりに点けている輩もいます。炎系のモンスターもエアコンをガンガンに点けています。

「古いエアコンは節電効率も悪いのです。なので真夏に魔王城の電力状況が逼迫するのです」

 遠回しにエアコンを更新して欲しい、とは言わない。魔王軍は電力以上に経費が逼迫している……とも言えない。

 言いたいことを言わないのは……優しさだ。ゴマすりとは違う。

「ほぼ言っておるぞよ。遠回しでもないぞよ」

「テヘペロ」

「耐えよ!」

「御意!」

 広い玉座の間に魔王様の声と私の返事がこだまする。

 玉座の間はとっくに30℃を超えており、廊下の方が涼しい。これが世に言うパワハラです。精神的にも肉体的にも追い込まれていくのだ。

 それが気持ちいいのは……内緒だ。


「魔王様は無限の魔力で体温調整ができるからいいかもしれませんが、他のモンスターはそうはいかないのです」

「人を爬虫類のようにいわないで」

「いや、爬虫類は体温調整できない筈です」

 変温動物だろう。そもそも、魔王様って人だったんですかと突っ込みたくなる。

「スライムはまだしも、ゾンビやグールは夏場……凄いのです! 詳しくは言わないですけれど、本当に凄いんです」

 近くに居られたものではありません。ミイラ男も凄いです。冷凍保存したくなる気持ちがお分かりになりますか?

「攻撃力3倍ぞよ」

「うーん。微妙」

 敵が攻めて来ないのに攻撃力って重要なのだろうか。

「油断は禁物ぞよ」

「承知しております。ですが、今は攻めてくる敵よりも熱中症と電力の逼迫のほうが怖いです」

 人間共もこのクソ暑い中、魔王城を目指して攻めては来ないでしょう。

「魔王城が停電し全室のエアコンが止まれば、敵に攻められずして自爆です」

「え、停電するの」

「このままだと、遅かれ早かれ確実にします。電気は作る量に対して使う量が増えると停電が起きるのです」


 すなわち――100Vの電圧や周波数60Hzをキープ出来ないので、容赦なく停電します――。


「え、魔王城は――関西なん?」

 突っ込むのはそこですか。

「おやめください。剣と魔法の世界に関東も関西もございません」

 剣と魔法の世界から節電と猛暑の現実に引き戻されてしまいそうで――興醒めしてしまいます。

「危機的な状況とお考え下さい。他の四天王も危惧しています」

 私だけの意見ではないのです。たぶん。

「ほほう、他の四天王もか」

「はい」


 ほぼ自室に引きこもりゲームばかりやっているソーサラモナーは、魔プレステの電源が急に落ちればデーターとかが消えます。途中まで進めていたデーターが消えれば、やり直しとなり、絶望感に打ちひしがれることでしょう。クックック。

「オートセーブ機能があるぞよ」

「……」

 必要なようで要らない機能だ――。ゲームばかりしていないでたまには玉座の間で魔王様のお相手をしろと言ってやりたい。面白くもない。


「停電でエアコンや扇風機が使えなくなれば、サッキュバスは今以上に露出の多い淫らな服装をするでしょう」

 魔王城の風紀が乱れます。

「下着とかでウロウロするくらいなら……まだなんとかなりますが、それ以上になると放送事故です」

 R18になればたちまち……どうなるのだろう。

「読者はそれが望みぞよ。ちょいエロくらいがちょうどPVが盛り上がるぞよ」

「おやめください」

 読者とかPVとかって、不用意に言わないでください。

「それに、スライムや他のモンスターは真っ裸ぞよ」

 それなー。

「人の姿から大きくかけ離れているのでよいのです」

 一糸まとわぬ姿でもよいのです。

「デュラハンも裸ぞよ。ある意味」

「――ある意味――!」

 なんか、ガーンと気分が落ち込むのは何故だろう。全身金属製鎧なのだが……これは一生脱げない。体の一部だから……。

「毛も生えるのだろキモ」

「やーめーて」

 語尾にキモって付けないで――。……立ち直るのに30分掛ったのは内緒だ。


「最後に、クーラーの効かないフィットネスジムでは、筋トレしているサイクロプトロールが熱中症で倒れてしまうでしょう」

「それは自業自得ぞよ」

「私もそう思います」

 そこまでの責任は負えません。四天王なのだからそれくらいの自己管理はしろと言いたい。

「この暑さの中、クーラーをガンガンにかけて筋トレするのは、いささか考えものかと思います」

「汗をかくのが目的ではないから仕方ないぞよ」

 魔王様は……寛大でいらっしゃる。

 私以外にはお優しいのが……涙が出るほど嬉しい。


読んでいただきありがとうございます!


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