瞳の中の星。
セレスティアナ視点です。
作中冬です。
冬になった。
外に出れば吐く息も白く、身を震わせるほど。
私は暖炉で温められたサロンにて、家族とお昼におやつの時間を楽しんでいた。
「お父様、赤スグリのお酒が出来ましたよ」
「お、まだ昼だけど、ちょっとくらいいいか。……うん。甘酸っぱくて……美味い」
「ええ、サイダーで割っていると、飲みやすいですね」
両親に弟が採って来た赤スグリで作ったお酒を振る舞った。
「ボクが採って来た赤い実がお酒になったの?」
「そうよ、ウィル。お父様とお母様が美味しいって、良かったわね」
「えへへ、嬉しい」
「私達は赤スグリのジャムをのせたパンケーキをいただきましょう」
弟がもぐもぐとふわふわのパンケーキを咀嚼する。
「……おいしい!」
「そう、良かったわ」
「ティア、今日はギルバート様はどちらに?」
「はい、お母様。ギルバート様はロルフ殿下の結婚式が近いので、王都でバタバタしてるようです」
「あら、そうなの」
「姉様、ロルフ殿下の結婚式はいつですか?」
「冬の聖者の星祭りの日ですよ。ロルフ殿下とアドキンス伯爵令嬢が結婚するのは」
「そうだ、想定外の戦争とかあったが、聖者の星祭りと一緒にして、華やかにという事だそうだ」
お父様は赤スグリサワーを飲みつつ、チョコなども摘んでいる。
記念日のクリスマスに結婚するみたいな感じね。
別れたら毎年同じシーズンに切なくなるやつだけど、大公ともなる人だし離婚はしないよね。
「お祝いが重なってるとプレゼントが減らない?」
子供らしい懸念事項だ。
「大丈夫、ロルフ殿下とパトリシア嬢はきっといっぱい贈り物を貰えるわ」
* *
数日後、ギルバートがライリーに戻って来た。
「セレスティアナ、星祭りだが、弟君への贈り物は何にするのか、もう決めて有るのか?」
「私は既に新しい靴を注文しています。そしてお母様がマント、お父様がベルトを贈るそうです」
「ではそれらに被らないものとして、クラバットの飾りにエメラルドを贈るか」
「ではそのエメラルドにお守り効果を付与させて下さいませ」
「そうだな、其方がそれをやってくれるのなら良い御守りにもなる」
最近は弟も貴族の子女のお友達の誕生会などにお呼ばれして他領に行く事もあるから、見た目も綺麗な御守りがあっても良いわよね。
「それと、ラナンやユリナやリーゼの女性陣にはドレスを贈る予定です」
「そうか、其方は何が欲しい?」
「私……? もう結婚祝いの方でざんざん欲張りましたので、特には」
「其方にも新しいドレスは必要だろう、ロルフ兄上の結婚式も有る訳だし」
「……えーと、じゃあ、もう一度、布に星を撒いて下さい。
今のサイズに合わせた星のドレスを作ります」
「ドレスの生地を今から用意して間に合うのか?」
「ミシンが有りますから、なんとかなります」
私は早速生地を用意して、またギルバートに風魔法スキルと布用インクの白で群青の布に星を撒いて貰った。
これで新しい星祭り用の星のドレスが作れる。
ドレスのデザインを変えればきっとまたかよとは思われないと思う。
多分。
* * * *
──そして、時が流れた。
星の降る夜に、聖者の星祭り、そしてロルフ殿下とパトリシア嬢の結婚式当日。
大神殿に響く美しい楽師の奏でる音色と、神官と巫女の厳かな聖歌。
華やかな装いの、貴族の参列者達。
「では、この聖なる蝋燭に二人で新しい火を灯してください」
聖下の導きで、ロルフ大公とパトリシア大公妃のお二人は手を重ね、蝋燭に火の魔石を使い、火を灯した。
「聖火に火が灯りました」
わああ!!
周囲から歓声が上がった。
グランジェルドの国王夫妻も感慨深げにお二人を見つめておられる。
おお……。
こちらの世界における二人でケーキ入刀の代わりかな?
その後の宣誓とか誓いのキスとかは、前世と似た感じだった。
新郎新婦のお二人とも! お幸せに!
神殿から外に出た。
自然と夜空を見上げたら、そこには────
「あっ、空凄い! 流星がいっぱい! あ! 願い事!」
ユリナが流星群を見て興奮しつつ感激している。
今日は私が新しく贈った淡い水色のドレスを着ていて、月光の妖精のように可憐だ。
「……願い事、言えた?」
「せ、世界平和を、心の中で」
「ふふ、優しい子ね」
「ティア様は何を願ったのですか?」
「家内安全?」
「私と似たようなものではないですか」
「そうかもね」
「セレスティアナ」
空を眺めていたら、正装をしたギルバートが私を呼びに来た。
ダンスパーティーの会場に移動するためにギルバートと馬車で移動する。
「行って来るわね。皆、ユリナをよろしく」
護衛騎士達にユリナの事も頼んでおく。
護衛騎士にはリリアーナの秘密は話してある。
「はい、我々は後方から別の馬車と馬で追います」
「こちらは気にせず、ごゆっくりどうぞ〜」
ユリナがぬいぐるみに入っているリナルドを抱っこしながら、どこぞの店員さんみたいなセリフで送り出してくれた。
おもしろい子だ。
グランジェルドの王都の街道には多くの人がいて、祝祭モードで賑やかだ。
赤ら顔で歌ってる人もいる。
祝い酒がそこかしこで振る舞われていた。
お外が寒くてもお祝いでお酒や料理が振る舞われるなら、皆喜んで出て来るのだ。
パーティー会場前に到着した。
星祭りの本番は夜なので通路と星見用の外会場の至る所には篝火が炊いてあるし、ランタンも有る。
ロルフ大公とパトリシア大公妃の結婚記念品がオシャレな見た目のランタンだった。
可愛い。
ボールルームの中は流石に暖かく、見た目も豪華絢爛だった。
最初にパーティーの主役、ロルフ大公とパトリシア大公妃が踊る。
お色直しして来たので、衣装が違う。
パトリシア嬢は星の輝きのような明るく淡いイエローのドレスを着ていて、ロルフ大公は黒に銀糸の装飾の正装から群青に金糸の刺繍入った正装になっていた。
華麗にして優雅。
元、伯爵令嬢の大公妃もダンスを失敗する事もなく踊り終えた。
パトリシア嬢、ダンスの練習も頑張ったんだろうな。偉い。
私も完成した新しい星のドレスでギルバートと踊った。
周囲から感嘆の声が漏れる。
ダンスを踊りながらこんな会話もした。
「今日の其方も、誰よりも綺麗だ」
「あら、本日の主役の花嫁より目立つ訳にはいかなかったのですが」
「いつもの事だから仕方ない」
「いつもの……」
私は苦笑いをして、「他の人にはそれ、言ってはいけませんよ」と、忠告した。
「どうせ周囲にはバレてると思うんだがな」
またそんな事を言って! 照れるわ!!
ギルバートの星のように輝く真っ直ぐな瞳は、今日も私を映していた。
* *
賑やかなパーティー会場からそろそろ帰る事にした。
祭りは夜通しで行われているが、ドレス姿でオールは無理だわ。しんどいわ。
パジャマ姿でベッドの上で寝転びながらTV見るだけ。とかなら徹夜も出来るけど。
転移陣で同行者のギルバートや護衛騎士達とライリーに戻る。
冬の夜だ。
転移陣から城内への石畳の道は寒い、さりとて寒さをしのぐ為の魔力結界を張るまでの事もない。
魔力の無駄使いはしない。ゆえに自然と足早になる。
ギルバートが私の手を引いて、自分のマントの中に入れてくれた。
私に歩調を合わせて隣を歩くギルバートはまだ知らない。
聖者の星祭り、若者達にはつきものであるプレゼント。
実は私からの彼へのプレゼントは私が描いた絵だ。
最近はサプライズっぽく渡すので、後はもう寝るだけの状態までプレゼントの話題を出さずとも、誰も何も突っ込んで来ない。
絵の内容は、ギルバートと彼の可愛がっている白い竜。メイジーとのツーショット。
今回も執事に頼んである。
布に包んで枕元に置いて来るように。
愛だけは込めたつもりだから、気に入ってくれると良いのだけれど……。
私はマントの中で、贈り物を見た時の、少しはにかんだ笑顔のギルバートを勝手に想像して、ほっこりした。
リアルじゃ夏なのに冬の話になってしまいました。




