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第一曲 プロローグ

 小さい頃……月明かりが照らす夜の東京で俺、駒板盤理(こまいたばんり)は路上ライブを見ていた。

 俺と同じくらいの年に見えるのに、なぜか買い物帰りの俺には目を惹くものがあった。無名バンドみたいなグループ系じゃなくたった一人の幼い少女が道中で歌を歌っていたのだ。

 長い黒髪をした青い瞳の少女は、まるで世界の全てを呪っているみたいな、怨嗟の歌みたいな歌だったように記憶している。怨嗟って言っても、世界を憎んでいるというか自分の感情をむき出しにしているというか……そんなまるで、自分のすべてをさらけ出しているとすら思える歌に、俺は一人道で立ち止まっていた。あの時はまだ英語も習ってなくて、よくわからなかったけどなぜだか彼女の歌が胸に響いた。

 

「…………すごい」


 俺はその日から、元々好きだった音楽がさらに好きになった。

 ポップも、クラシックも、J-POPも、ロックも。

 音楽と言うジャンルそのものが、俺の生きる生きがいになった。

 何か音楽に携われる仕事に着けたらと、色々と努力する学生生活を謳歌するようになったせいか、友達もできず、俺は一人自分の音楽を作っていた。

 あれから数年後、俺は運命のような出来事がその日、舞い込んできたことを生涯忘れないだろう。



 ♪



 盤理は掃除が終わった教室で、スマホの作曲アプリで作業をしていた。

 俺は鼻歌を歌いながら、ストレスの発散としてSNSにとか公の所にたまに投稿したりして自分のスマホに未発表のデータが溜まっていってる、という感じだけど。


「……あ、教科書音楽室に忘れてたっけ」


 盤理は面倒そうに呟いてから、音楽室へと向かった。

 音楽室から流れてくる楽器の音を聞いて、盤理は心の中で憧憬してしまう。


「……駒板ぁ、また忘れ物かぁ?」

「す、すみません、今野(こんの)先生」


 合掌部の副顧問である今野先生に注意され、俺は笑いながら対応した。

 盤理は音楽室にわざと忘れた音楽の教科書を学校机から取り出して、ササっとすませて音楽室から出る。

 盤理はそのまま玄関へと歩いて行き、上履きから靴へと履き替えた。

 

「ピアノ、弾けたらなぁ……ピアノ教室とか通ってれば違ったのに」


 盤理はもう一度肩に学生鞄をかけ直した。

 音楽の授業の後とかに地味に弾いたりできる程度で、家でもピアノはあると言っても電子ピアノしかないからやはりグランドピアノの音は違う良さがあって羨ましくなる。

 親の経済力的に習い事は難しく、結果的には俺は将来サラリーマンとかになったりしなくちゃいけないというのは重々承知だ。

 でもボカロ曲とか、編集とかで色々変えられるんだろうけど俺の家防音室なんてないし。


「グランドピアノの値段を見たら安価なら100万円くらいだけれど、海外の一流メーカーなら400万円以上かかるとか見た時は、絶句したよなぁ……はぁ。金持ちに生まれてたらなぁ」


 アルバイトできたら色々違うんだろうけど……コミュ力がなぁ。

 一度俺は家に帰って、自分で晩御飯を作ると決意し帰宅することにした。

 茜色の夕焼けが自分を照らすのを無視して、盤理は一人家へと帰宅するために歩道を歩いていく。

 街路樹にある花はやけに綺麗に見えるのは、自由に咲いているように見えるから、なのかな。

 ……何、詩的なこと考えてんだか。


「……今日のメニュー、なんなんだろう」


 これが、俺の普段通りの日常。

 駒板盤理(こまいたばんり)の、ありふれた日々が詰まったガラス瓶に罅が入り始めることを盤理は後に気づかされることになる。

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