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終焉都市の雑草~凶悪な魔物達に侵略された都市で、たった一人の生存者~  作者:
第二章 森の守護者編

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40話 残滓の記憶

おぉ、気付かぬ内に999人が見て下さっているとは。

ぞろ目でなんか運が上がりそう(≧▽≦)

 手に伝わる感触は異質で、相手が頑丈とは別の理由で刃が進まないと判断する。

 フォルナは咄嗟に攻撃を切り替え、剣の柄から手を放し掌底を放つ。


 直撃を受け上半身を抉られた異形は、衝撃で体を壁にぶつけそのまま地面に倒れる。

 そして他の異形と同じように体を崩壊させた。


「・・・・・・はぁ」


 見つめる先は死んだ異形の上。

 空間が割け、また同様の姿をした異形が姿を現す。


 見た目は全く一緒、再誕かはたまた新たな異形が産まれているのかの判断はつかない。


 再び接近し殴打する。

 そして顔を歪めた、心底面倒くさそうに。


「面倒だな」


 思わず口にもする。

 フォルナが突き出した拳は先程の大剣での攻撃同様に異形に通用しない。


 この能力にフォルナは覚えがあった。

 異形ではないが、都市で殺し合ったSSに位置する魔物の一体が持っていた能力だ。

 効果は、一度受けた攻撃の無効化。


 攻撃という曖昧な括りの詳細をいえば、対象は攻撃を行った武器だ。

 大剣で攻撃すればその大剣の攻撃は効かず、肉体で攻撃すれば肉体での攻撃は効かなくなる。技の種類に関わらず無効化するこの能力の突破は当時のフォルナでは厳しく、長期戦を余儀なくされたのは嫌な思い出である。

 ついでにその姿を酒の肴にして笑っていた師匠に斬りかかり蝿を払うように一蹴にされたのも拍車をかけていた。


「フォルナ君ッ?!」


 ユナンが声を上げる。

 異形が錫杖を振るう。

 魔法だろうか。吹き上がる闇がフォルナに向かう。

 効果不明のそれだが、その攻撃に対してもこちらの攻撃が届かない訳ではないようで、フォルナは大剣で軽く払いのける。


(さて、どうするか)


 一瞬周囲に視線を回して手段を確認する。

 その中で、白骨化した死体が持っていた折れた剣に意識を向ける。


 剣は仄かに光を帯びて、通常の状態ではないように見えた。

 所有者の能力か、剣事態の特性なのかは不明だが、この場を容易に収められる可能性が零ではない。フォルナは攻撃をいなしながら咄嗟に方向を変えて加速し、折れた剣の柄を握った。


 瞬間、フォルナの脳裏に、ある男の記憶が流れ込む。







「うぇっ、まじかよ?! お前子供生まれたの!」


「ああ、女の子なんだ」


女王の森から帰ってきたら、いつの間にか親友に子供が生まれていた。


「お、おぉ~」


 顔を見せて貰いそっと指を出してみると、赤子は小さい手で指を握ってキャッキャと嬉し気な声を上げた。


 小さく、けれど力強い命に、新しい時代を感じた。

 種族間の戦争で憎悪にまみれていた時を生きた者達とは違う、安心して生きられる時代。

 まだ、各所にわだかまりはあれど、この子が伸び伸びと暮らしていける場所を作りたいと、アメリオと笑って頷き合った。


 それから数十年。

 種族間の戦争は起こっていない。

 それどころじゃないというのもあるだろう。

 この村の近く、人族の領土内、都市リーデンに突如として神龍アルドが現れた。


 神龍はそのまま都市に住み着き動こうとしない。

 遠目のスキルを持つ者が言うには、都市内部は地獄の様相らしい。

 生存者はいるはずもなく、高ランクの魔物が跋扈する都市内。未確認の魔物も散見されるらしく、正しく人外魔境だ。


 以前に物入りの時に一度足を踏み入れたことがあったが、あの笑いが絶えなかった通りの人々も殺されたのだろうと想像すると、なんだかやりきれない。


 どれだけ全力で生きても、安全だと思っていても、本物の強者がそれを壊そうと動いたら、砂上にあったかのように瓦解する。


 ひたすらにそれらが出てこないように祈る必要がある人生というのは・・・・・・


「おじさん!」


 背後から声を掛けられる。


 振り返れば、赤子と比べて随分と成長したアメリオの娘、イナの姿があった。

 今の今まで魔道具を弄っていたのか、作業着のままで飛び出してきたみたいだ。


「見て見て! 空飛ぶ蛙〜 可愛いでしょ! 」

「また変なの作ってるな。蛙に翼なんかあったら折角のジャンプ力が台無しじゃないか?」

「ぶぅぅ、可愛かったらなんでもいいんだよ! だってそれで皆笑ってくれるんだから!」


 機械仕掛けの翼が生えた蛙がパタパタと飛び回る。

 可愛いかと言われれば首を傾げるが、独創的で面白いというのはあるかもしれない。

 ここ数年でまた子どもが増えたが、イナはこんな魔道具を作っては子供達に渡して笑顔にしている。


「ま、なんでもいいんだけどな。にしてももう随分と色々と作ってるし、将来は魔導技師になるだろうな」

「ふっふっふ、いずれ世界をあっと沸かせる物を作って見せるよ!」

「そりゃ楽しみだ。一先ずお前の父親が分解された魔道具(最近購入したもの)を見て唖然としてたから、一人はあっと言わせたな」

「っ?! あわわわ、直さなきゃ!」


 慌ただしく去っていく姿を見て苦笑する。

 イナは生まれてすぐに魔道具に興味を示し、数年後には分解して再構築するまでになった。そして今では自分で新しい魔道具を作っている。

 

 残念なのはこの村に魔導技師がいないため、指導者なしのほぼ独学となっていることだろう。

 幸い、アメリオが既に動いているようで、優秀な知り合いに頼み込んでいるらしい。

 あの子が持ちうる才能を開花させればどのような魔道技師になるのか。そう想像するだけでなんだか笑みが漏れた。


・・・・・・


 森に不穏な空気が漂い始めた。

 瘴気と呼べるほどに暗い空気は、森の生態系を蝕み動物や魔獣が警戒の声を上げている。


 原因を調べるため、調査チームが組まれた。


 瘴気(想定)に対し、俺の神聖魔法で一時的に除去できたという点で俺がメンバーに抜擢された。どころか、ある程度こういう系統の依頼を受けていた経験からリーダーとして年長を率いることになってしまった。


「よう、リリク!」

「緊張するなよリリク!」

「びびってんじゃねえぞリリク!」


「・・・・・・いや、元気すぎっすよ」


「村長もあんま緊張してんじゃねえぞ? どっしりと構えとくもんだ。まあいざとなったら俺らがどうにかしてやるからな」

「「「「「あっはっはっは!!」」」」」


 破天荒というかなんというか、陽気なおっさん達ばかりだ。


 準備が終わり、発生源だと思われる場所へと移動する。

 切り立った崖の横脇の穴から続く洞窟。

 神聖魔法で空気を浄化しながら前進する。道中は軽口が飛び交っていたが、進むにつれて感じる怖気に、全員の表情が変わっているのが見える。


「リリクよ、最終判断はお前に任せる。が、お前が判断するまでの時間稼ぎは好きにさせて貰うぞ」


 戦争経験最年長のおっさんがわざわざその台詞を告げる理由は考えなくても肌で理解出来た。

 この先は俺の判断を待っていたら遅い世界だと認識したのだろう。


 そして事実、俺は僅かの間、それを見て硬直した。


 最奥、カンテラを左手に、錫杖を右手に持った何者かがいた。

 呪いの類であることは分かるが、今まで相対してきたどれとも違う。

 今まで呪いと呼んできたものが、ただ戯れる子供だったかのような明らかな存在の差があった。


 須臾の間、仲間の首が飛ぶ。

 温い液体が飛び散り、顔に張り付いた。


 目を逸らしたくなる現状に呑まれかけるが、数人が瞬時に状況を把握し魔法を発動する。


「呑まれるんじゃねえッ!!」


 そう叫ぶ一人が風魔法で洞窟内の土や岩を巻き上げ敵の視界を塞ぐ。

 風を切り裂いた黒い刃が術者の腕を斬り飛ばす。


 明らかな格上、差があり過ぎて戦闘にも至っていない事は明らかだった。


「一人は村に報告! 残りは俺に付き合って貰う!」


 一拍遅れた俺の指示に、それでも全員が反応する。

 入り口に最も近い者が外へと走り、残りは笑みを浮かべて盛大に笑い合う。


「はっはは! 腹ぁ決めろよ若造!」

「あんたらは覚悟決まり過ぎなんだよ!」


 片腕を失った一人が身体強化魔法で飛び出し敵に突貫する。

 軽く錫杖を振り、細切れにされる姿を横目に、神聖魔法を唱える。


「闇を払え――聖光」


 簡略詠唱におさめ発動させた魔法は、洞窟内を眩く照らす。

 呪いに対する神聖魔法の効果は大きい。格上の相手だとしても、致命的な部分に当てれば勝機に繋がることはままある。


「・・・・・・」


 効果はあった。

 カンテラを落とした、ただそれだけではあるが。


「すんません、死んでもらっていいっすか。時間が要ります」


 迂遠な説明を省き、直球で伝える。

 詠唱の時間が必要だ。

 魔力の操作と詠唱を合わせて時間にしておよそ1分、この場にいる人物が全員死力を尽くしてなんとか稼げるであろう時。


「任せろ」


 リリクの背中を軽く叩き、残りのエルフが向かう。

 血煙舞う戦場を目に焼き付けながら詠唱を始める。


「闇を祓う聖光、昏き盃を清めし浄声

魔を退け、道を照らす聖神に今冀う」


 仲間の四肢が飛び散り、洞窟内で張り付いた血がぽたぽたと音を立てて落ちる。


「悠久の代償をここに、

 現隔の囹圄にて捧ぐ」


 剣を持ち、最後の詠唱を唱えながら移動する。

 もう仲間の声は聞こえない。

 敵の視線が俺に向き、なにかの気づいたように焦った様子で攻撃を繰り出す。


「聖絶結界」


 剣を地面に突き刺し、その場を中心にして結界が完成する。

 敵の攻撃は結界に阻まれ、そしてその姿すらもぼやけて次第に消えていく。


「・・・・・・流石に命を代償にしてるだけはあるな。それにしても運悪ぃな。こんなのがいきなり出てくるとか、どこぞの都市みてえだな」


 口から漏れる血を拭って苦笑する。

 この魔法は相手を閉じ込める魔法だ。残念ながら倒した訳ではない。


 でも、今はこれでいい。

 時間さえ稼げれば後は誰かが解決してくれる。

 今は、村の仲間を、未来ある子供達を一時でも守れたことをただ誇ろう。


 こんな場面に出会ったら、俺はなんとなく逃げるだろうと思っていたが、まさか命を賭けてるとは・・・・・・

 自分でも知らぬ間に、そう行動するだけの理由ができていたのだろうと思い返すと、悪くない人生だったのかもしれない。


「・・・・・・じゃあな怪物・・・・・・地獄で、また会おう」


 霞む視界をゆっくりと閉じた。







 稀に、死者の記憶が武器や道具に残滓として残る現象がある。

 フォルナは驚きながらも折れた剣を離さず、白骨化した死体にそのまま視線を向ける。


 一人の男の死だった。

 彼の行動は、自分でも確かな理由はないようで、それでも後悔はないと分かる。

 師であるリアムもそんな顔をしていたなと思い出しながら、剣を振るい斬撃で異形を殺す。


 そして、一度使った剣が効果がないと考察していながら、フォルナは折れた剣を離さない。


「これも一歩、か」


 呟きながら、歩みを進める先にはカンテラがある。


「こちらが本体だったか」


 フォルナが見下ろした先のカンテラが不規則にカタカタと揺れた。

 

 リリクは途中で正体に気付き、カンテラの形をした呪具を結界に封じた。


 この呪具の名は、【魂光】。

 内部の光は、ただの光源ではなく呪具が吸収した魂の光である。

 そして呪具に致命的な攻撃を受けた時、または直接的に召喚した異形が破壊された際、この魂を身代わりにすることができる。


 魂の吸収、身代わり、そして強力な異形の創造。

 その危険度から厳重に保管されているはずの呪具が今ここにあった。

 野に解き放たれれば甚大な被害が――


「生道世界」


 誰の思惑かは神のみぞ知る事実。

 しかし、思惑の外に存在する者の登場はどこまでを想定していただろうか。


 極星に至った理外が剣を振るう。


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