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終焉都市の雑草~凶悪な魔物達に侵略された都市で、たった一人の生存者~  作者:
第二章 森の守護者編

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31話 祈り

感想ありがとうございます(´ω`*)

 月が色濃く見える深夜、村人が寝静まった頃。

 フォルナは与えられた部屋の窓を開き、畳の上で胡坐をかきながら月を眺めていた。


「・・・・・・」


 声には出さないが、フォルナの脳裏には昼間に見たユナンやイナの表情が何度も反芻される。

 笑みを浮かべたユナン、口を強く結び泣きそうな表情を見せたイナ。


 感情の行き先は何に対してのものだったか。

 前者は兎も角、間違いでなければイナは自分を心配しての表情だったのではないだろうかと、首を傾げながらもその結論に行きつく。


 他人を心配したのだ、それも会って数日の浅い関係の他人を、泣きそうな程に感情を動かして。

 その感性はフォルナにとって全く理解できないものだった。

 他人を心配している余裕が全くなかったというのが一番の理由だが、それを抜きにしてもそんな感情を抱いたところで自身に返って来る利益が皆無ならば無駄ではないかと考えてしまう。


「刹那的な関係がそもそもなかったのだろうな」


 生きてきた環境の差かと納得する。

 環境の違いはやはり人格の形成に大きく影響するんだなとしみじみ感じながら、昼に渡された胸元のペンダントを触る。


 月との間に持っていき、角度を変えて観察する。月光に晒されたペンダントは、やはり吸い込まれそうな魅力があった。

 いつか見た龍の瞳のような輝きに、ふと師匠との日々を思い出し苦笑を漏らす。


 空を流れる雲が月を隠し、フォルナはペンダントを服の内側に入れる。

 雲の移動につれ再び月光が部屋を照らし始める。


 数秒前までフォルナしかいなかったはずの部屋。

 そこには足元が月光に照らされた“なにか”がいた。


「どうした?」


 フォルナは気配を察知し、声を掛けてから背後へと振り返る。


 人が“それ”の姿を見れば間違いなく怪訝な表情を浮かべるだろう。

 一見して人と同じ形をしたそれ。ただし纏っている装束は普通とはかけ離れている。


 視界を封じる目隠し。

 胸の下で両腕を封じる拘束衣。

 首は包帯で巻かれ、中央にはなにかしらの文字が血で書かれていた。

 一見して犯罪者に対する拘束具を殆どの者が思い浮かべる程にその拘束は厳重だった。


 唯一拘束されていない足でそれはフォルナの元に歩みを進める。

 月光に当てられ明らかになる全容。


 ブロンドの長髪が流れ、整った顔が露わになる。

 拘束されていてもなお分かる美貌。男を誘惑するような肢体に対し、フォルナは何でもないように言葉を紡ぐ。


「なにかあったか?」


『いえ、貴方がなにか困っているように見えましたので、少しお喋りでもと思いまして』


 中空に光の線が浮かび上がり、それが文字となる。

 彼女は首の拘束によって声を出す事ができないため、魔法によって意思を伝える他伝達手段がない。


「俺が困っている? ・・・・・・君はそう見えるのか」


『君ではなくイノリと呼んで下さい』


 言葉を紡ぎながら、彼女――イノリはフォルナの隣に腰を下ろし正座する。


 イノリという名前は彼女自身が名付けた名だ。

 名前の意味はおそらくはその成り立ちが関係あるのだろう。


 彼女は神龍の居た森から転移してきた存在ではない。

 都市リーデン内で発生した異形だ。


 他の異形との違いは、都市の人間の感情により発生したものだということだ。

 あの場所では異形が発生するための条件が揃っていた。呪力に満ちた環境、通常ではありえない程に爆発的に溢れた感情、それらが合わさり、彼女が都市で生まれる。


 ――その目は地獄を見にしないように。

 ――声は魔物に気付かれないよう決して発さず。

 ――腕はどれだけ伸ばそうと神の救いには届かず。

 ――脚はひたすらにその音を消して死から逃れんと我武者羅に動かした。


 そんな都市での実情と感情がない交ぜになった異形。

 彼女の姿はそんな彼等の絶望を体現している。


『私が倒してきましょうか』


 事も無げに、笑みを変えずにイノリは文字で綴った。

 同じ異形である彼女であれば他よりも確実だろうかと一瞬考えたフォルナだが、すぐにその提案を拒否する。


「危険だ。君、いやイノリは都市で平静を失っていた。つまり呪いの効果は問題なくイノリを蝕んでいたということに他ならない。今回も同系のものである可能性がある以上やめておいた方がいい」


 納得しきれていないのか、困ったように眉を下げるイノリを見てフォルナは言葉を続ける。


「それに、理由はまだ二つある」


『二つもですか』


「一つはおそらくはこの村のエルフは崖の先にいる異形と一戦交えているということ。ユナンさんとイナさんの行動を考えればほぼ間違いないだろう」


 戦闘の経験を踏まえた上でフォルナを会議に呼ばなかったとすれば、外野が下手に手出しすべきではない。


「そして、再びイノリが呪いに冒された場合、俺が殺される可能性が存在する点だ」


『絶無だと思いますが・・・・・・』


「多少なりともあるだけで十分脅威だよ。俺はイノリの能力を完全に知っている訳じゃない」


 イノリの能力は時間が経過するにつれ効力が増す。

 戦闘でそれを察したフォルナは短期戦に切り替え即座に討伐したため、イノリの最大ポテンシャルを知らない。


 しかし、粗方の想定は終えている。

 そして能力の最大効力が発揮されれば己の命に届きうるとフォルナは確信していた。

 対するイノリはその効力が発揮されるまでの時間がそもそもフォルナ相手では確保できる訳もないと、いらぬ心配だと思いながらも『分かりました』と引き下がる。


 簡単に引き下がる訳は、異形を倒す事がイノリの目的ではないからだ。

 彼女の目的は大きく二つ。

 一つは悲劇の原因を作ったであろう教団の殲滅。

 そしてフォルナへの恩返しである。


 教団の殲滅理由は言わずもがな、怨讐だ。

 都市の人々の感情で生まれた彼女もまた同じものを抱いている。微笑みの裏側を除けば、悲運を遂げた者達のぶんだけの憎悪が煮えたぎっている。


 フォルナへの恩返しの理由は彼女が呪いに侵されていた時に関係する。

 呪いにより彼女の性質が変化したのか、想像だにしなかった現象が起こった。それは都市にいた人々の魂を彼女自身が引き留めるようになったことだ。


 輪廻に到達できない魂は成仏できずに彼女の周囲に留まり続ける。

 そのまま時間が経過し続ければ最悪レイスのような霊体の魔物になってしまう恐れがあった。いや、環境を考慮すればそれ以上の悲劇が待っていただろう。


 あり得たであろう最悪の結末への確かな進行は、17年の月日を経て両断された。

 当時23歳のフォルナの手によっていとも簡単に。

 解放された魂の幾分かはそのまま輪廻へと。そして残りは今もイノリの中に存在する。彼女が引き留めている訳ではなく、心残りを残した幾分かがそれを晴らすために魂を保護できるイノリと共にいることを望んだ。


『フォルナ』


 名を呼び、魔力で型取った腕で己の膝を二度叩く。


「? どういう・・・・・・」


『膝枕です』


 不可解に首を傾げるフォルナに対し、尚も膝を叩いて頭を乗せるように促す。


 イノリこのような行動は今回が初めてではない。

 都市でも暇があればフォルナに対して何かしらの行動を起こそうとするのが彼女の常であった。一度リアムに対して修行が厳し過ぎると苦言を呈するまでに彼女の中でのフォルナの存在は大きい。


「ああ、分かったからあまり音は立てないでくれ」


 他の人に怪しまれてはたまらないと、渋々ながら頷きイノリの膝に頭を乗せる。


 中空の文字が横になっているフォルナの前に移動する。


『外に出てどうですか』


「まだ、分からないことばかりで一概には言えないな。ただ、本当に同じ世界の中にあるのかと疑ってしまう。俺はあの時死んだのではないかと、ふと疑う時がある」


『大丈夫、貴方は死んでいませんよ。私が保証します』


 慈愛を孕んだ笑みを浮かべながらイノリはフォルナを見下ろす。

 魔力で型取った腕でフォルナの頭を優しく撫でる。

 けれどそれはフォルナの纏っている闘気越しにだ。幾らか時を過ごせども、まだフォルナの警戒が他人に対して解かれる様子はない。


 薄いが絶対的な壁がいつしか、フォルナ自身が少しでも薄くできるようにと願いながらイノリは今日も祈りを捧げる。


ちょいやる気出てきました。

更新頻度はブクマと評価によってちょい変わります。単純にモチベになるので(´ω`*)

まあ、プレッシャーにもなるのですがw

面白いと思った時に評価して下さるとありがたいです。

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[一言] 更新ありがとうございますm(_ _)m
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