ホームの先に紅傘
暇つぶしにどうぞ
―――雨が降る夏の夜―――
―駅の改札を通過し、駅のトイレに寄ってからボクは3番線のホームへと向かった―
―この日は日中の猛暑の中、外での作業がありそのせいで体のあちらこちらから悲鳴が上がっている―
―階段を下りホームに出ると雨の音と共にムンムンとした熱気が顔に吹き当てられたかのように流れてきた―
―ホームには人影はなくボクは喉の乾きから眼に入った自販機へと歩みを進めた―
―生憎小銭の持ち合わせが無かった為渋々千円札を崩すことになった―
―『ガコッン』と音を立てながら取り出し口に落ちてた缶コーヒーを取り出し、『ジャラジャラ』と落ちてきた千円札の釣り銭を取り出し財布に入れる―
―缶コーヒーの蓋に人差し指を当てて『プッシュ』と音を立てながら開いた缶コーヒーを口へと運ぶ―
―首をやや上向きにして缶コーヒーの中身飲んでいると不意にホームの先に紅傘が開いているのが見えた―
―この雨の中、わざわざ屋根の無い場所で電車を待っている人がいるとは思わなかった―
―そしてボクは何故かその紅傘の方へと近寄っていた―
―自分でも不自然と思いつつも足は勝手に紅傘へと近寄っていく―
―そしてボクは雨で服を濡らしながらも何故か紅傘の隣りまで来てしまっていた―
―すると、傘の持ち主であろう人物がボクに話しかけてきた―
―「暑いですか?」―
―その問いに対してボクは思わず―
―「そうですねぇ、やっぱり夏ですから暑いですねぇ」―
―とありふれた返事を返した―
―この時、線路の先に光り輝く電車のランプが見えていた―
―とここで傘の持ち主がこう告げる―
―「では…冷やして差し上げます」―
―と告げ終えた次の瞬間には……ボクは向かってくる電車の前に押し出されていた―
―押し出された時にボクは紅傘の持ち主の表情が見えた―
―傘の持ち主は女性でその表情は笑っていた―
―人を電車の前に押し出し、それに対して笑みを浮かべながら見ているとは―
―そしてボクは電車に撥ねられた……彼女が言っていた冷やすとは物理的にも精神的にもこの暑さを忘れさせる恐怖心のことであると撥ねられた瞬間にわかった―
―『痛み』その一言が脳から体全身に伝わっていたが、それよりもさっきまで暑い暑いと訴えててたはずの体が今は逆に冷たいと訴えている―
―そしてボクの意識はゆっくりと途絶えっていった―
―「はっ!!」―
―飛び起きたかのようにボクは眼を覚ました…そしてゆっくりと辺りを見渡すとそこは最初に缶コーヒーを買った自販機の隣に設置されていたベンチであった。どうやら仕事の疲れでベンチに腰を掛けたとほぼ同時に意識が遠のいてしまったらしい―
―それからホームの先へと顔を向けてみるがそこには紅傘は見当たらず、持ち主である彼女の姿も影もなくなっていた―
―その後ボクはやってきた電車に乗り込みそのまま帰路に着いた。だが未だにボクの肝は冷えきっていた―
読んでいただいてありがとうございます……
皆さまも紅傘には御用心を……なんてねぇ……