九話
「お疲れ、ミウさん」
そう言ってお茶を出してくれたブラン君は苦笑いをしながら大丈夫?と声をかけてきた。
「アスール様は良い人なんだけど、変なスイッチが入るとちょっと困った人になるんだ」
「良い人なのはわかったよ」
その困ったところが結構やばいのだが…。しかしブラン君は優しい目をして本当に良い人なんだと呟いた。
「少し話を聞いてくれる?」
「うん」
「俺は能力持ちなんだ」
「能力持ち?」
新たな単語に私は首をかしげる。
能力持ちとは何か。ブラン君はそれも説明してくれた。
この世界には魔法が存在していた。知らなかった。魔法は魔法陣を描いてそれに魔力を流すことで発動する。とても強い力を持っているが使うたびに魔法陣を描かなければならないそうで時間がかかる上に面倒だ。また、魔力がなければ使えないし魔法陣も覚えなくてはならない。使うのにはかなり労力を必要とする。もちろん修行すれば簡単なものなら魔法陣を省略して使うことが出来るそうだがその分魔力の消費も激しいため中々出来る人はいない。それがこの世界の魔法。
そして能力持ちとは魔力がゼロのかわりに特殊な能力が使える。使える能力は人それぞれで空を飛べたり水の中で呼吸が出来たりと様々なものがある。また能力を使うのには魔法のように魔法陣などのような面倒なことはしなくてもよく、息をするように能力を発動出来る。ただ体力は使用するが。
体力の消費だけで特殊な力が使えるのが能力持ち。
そのため能力持ちは羨ましがられることが多い。
「能力持ちについてはわかったかな?」
「うん。なんとなく」
「でもね、俺の能力はちょっと気味が悪くて小さい頃、家族に山の中に捨てられたんだ」
「え?」
「途方にくれたよ」
家族に捨てられるって辛いだろう。私ならきっと耐えられない。私が悲しそうにしているとブラン君はそんな顔しないでと安心させるように頭をそっと撫でた。
「悲しかったし、山の中は怖かったけど俺は運がよかったんだ。捨てられたその日に俺はアスール様に拾われた。たまたまアスール様はその山に神様の遺跡があるとかで調査していたんだ。そして俺を見つけて一緒にくるか?って聞いてくれたんだ」
私は黙ってブラン君の話に耳を傾ける。辛かったようだが早々にアスールさんに見つけてもらえてよかったと私も思った。
「アスール様は俺が能力持ちって知ってもそうかって言って受け入れてくれた。俺がどんな能力か言いたくないと言えばそれならそれで良いと言ってくれたんだ」
本当に感謝してるんだと言う。その言葉は重みがありブラン君の気持ちを表していた。
「だからどんなにアスール様が暴走しても俺はアスール様についていく!ミウさんもアスール様のこと嫌いにならないでほしいな」
「嫌いになんてならないよ!ちょっと今日は困っちゃったけど私の話も信じてくれた!私すごく嬉しかったんだよ!」
よかったと安心したように笑うブラン君にこんな時だがやっぱり声素敵とか思ってしまったのは秘密である。
ところでブラン君の能力とはなんだろう。聞いても良いのだろうか。いや、でもアスールさんにも言いたくない!って言っていたくらいだ聞いてはいけないのだろう。
無理に聞き出すこともないし。
私はその事には触れることはしなかった。
しかしブラン君の能力はすぐに知る事になる。