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9話 学校からの帰り道

「それじゃあ、皆で帰るとするか」


「さっきのチャラ男達怖かったね。優……すごい」


「やだー夏希。私も怖かったよ。でも、ああいう奴等に弱味を見せたら、つけ込んでくるから絶対に弱味をみせられ

ないの……私、小さい頃からそのことだけは知ってるから……」



 そうだよな。小学校の時は女子なのにガキ大将してたもんな。

いくら優が強いとはいえ、多勢に無勢では多勢が勝つ。

チャラ男達はしつこく優を追いかけまわす可能性がある。

優もギャルの恰好をしているから仕方ないんだけどさ……



「私も小さい小学校の時は、よく近所の男子と喧嘩したけど……小学校の頃だからね」


「夏希が喧嘩するようになんて見えないし……」


「私には小さい兄妹がいっぱいいるの。だから長女だったから仕方なくね」


「へー……そういう風に見えないね」



 夏希は歩き方もおっとりしていて、穏やかな雰囲気があふれている。

とても小学生の時に男子相手に喧嘩していたように見えない。

今では穏やかな大人の女性のような色気まで漂っている。



「私はどんな男子とも、女子とも、仲良くするのが目標だから、誰とでも仲良くなっちゃうタイプ」



 美奈穂は平和主義で、クラスで一番顔が広い。

いつもこまめに皆の世話を焼いてくれる。

目付きの悪い俺のような、女子が近付いてこない男子にまで声をかけてくれる女子だ。



「俺は喧嘩は苦手だね。どうしても怖くて体が竦んでしまう……平和なのが1番だよ」



 淳はイケメンだったので小学校の時から虐められっ子だった。

だから虐められた恐怖が身に沁みついているのだろう。

虐めたほうは忘れるが、虐められたほうは体に恐怖が残る。



「ああそうだな……俺も平和が1番だと思う。優もあまりチャラ男達と喧嘩するなよ。大勢で来られたら大変なことになるぞ」


「あーん。だから怖いの。だからたっくんが私に優しくしてくれると、私の元気が充填されるんだけどなー」



 そう言って、優は俺の腕に自分の腕を絡めて、寄り添ってくる。

脇に柔らかい弾力のあるモノがムニュと押し付けられ、俺も気持ちがよくなる。

そして優が近くに寄ってくると良い香りが漂ってきて、つい気が緩んでしまう。

目付きが悪くて良かった……緩んだ顔を皆に見せるわけにはいかない。


 それから10分ほど歩いた交差点で、淳が5階建てのマンションを呼び刺して優を見る。



「あの5階建てのマンションの5階が拓哉の家だよ。ここから歩いて10分ほどの場所だけど、目立つからわかるだろう」


「本当だ。5階建てマンションの5階にたっくんの家があるのね。絶対に忘れない」



 淳……なぜ俺と優をくっつけようとするんだ。

俺はお前と女子をくっつけようとしたことはなかったぞ。



「拓哉は目付きが悪いから女子に怖がられるんだ。優のように拓哉のことを好きな女子に、拓哉のことを任せたい」



 お前は俺のお母さんか! いや……親父か!

余計なことをしないでくれ。

優のことだから、学校へ登校するのに朝から押しかけてくる可能性があるじゃないか。

朝の登校時間は俺にとっての安らぎの時間なんだぞ。


 交差点を渡ると淳と美奈穂が俺達に手を振る。



「俺達はここからは家が逆方向だから、俺は美奈穂を送っていくよ」



 美奈穂の頬が真っ赤になって、すこし笑顔がほころんでいる。

美奈穂も淳と2人っきりで帰ることができて嬉しいのだろう。

2人は交差点を左へと曲がっていった。


 2人の別れて俺、優、夏希の3人は交差点を右に向かって歩いていく。

案外、俺の家と夏希の家は近かったんだな。

知らなかった。


 そして次の交差点で夏希が止まって右手を差す。



「私はこっちだから……拓哉の家とこんなに近いとは思わなかったわ。また一緒に帰りましょう」



 ああ……癒しのお姉さん的存在がいなくなる。

これで優と2人っきりだ。

優は嬉しそうに満面に笑みを浮かべる。



「やっと2人っきりだね」



 そうですね……もう2人っきりですね。


 マンションが近付いて来ても、全く優が俺の腕を離す様子がない。

どこまで俺の家に近いんだ。

まさか俺の家に遊びに来ようというつもりじゃないだろうな。

この後、一緒に遊びたいと言っても、勉強すると言って断固拒否することにしよう。


 とうとうマンションの前まで到着してしまった。

優はまだ腕を離そうとしない。



「優……俺は勉強で忙しいから、一緒に遊ぶ暇ないぞ」


「今日は私も引っ越しの片づけがあるから、たっくんとは遊べないわよ」



 エレベーターが1階に到着した。

すると優がエレベーターに乗ってくる。

なぜだ……どうなってるんだ……

俺の頭の中で回答不能という文字が繰り返される。



「本当に運命の神様っているのね。たっくんと同じマンションになるなんて。私の家は3階だから先に降りるね。今日はありがとう」



 エレベーターが3階に着いて、優は嬉しそうに手を振って、エレベーターから降りていった。


 これが運命の神様な、これを運命の悪戯というのだろう。

明日の朝から優と一緒に登校するのは確定的だろうな……

人間諦めが肝心だ。

俺は現実を受け止める。

そして明日からの平穏な登校を諦めた。

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